運命の乗船

綿天モグ

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第111話 ニールの浮気疑惑

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「待ってください、アサが何て?」
「泣いてるんだ」
「え……」

 頭が真っ白ってこういうことかって言うくらい何も考えられない。アサが泣いてる?部屋で待っているはずのアサが泣いてる?ってかなんでこの人はアサが泣いているのを知っているんだ?

「アサはどこですか」
「俺の部屋だ」
「?!」

 なんで船長の部屋にいるんだよ!

 押さえられていた腕は離してもらったけど、壁に追いつめられて睨まれている状態で身動きなんてとれない。

 アサを泣かすようなこと、どこの誰がやったって言うんだ。さっさととっ捕まえて成敗しなければ。

「誰のせいで泣いてるんですか」
「お前だって言っただろ」
「お、俺?!」

 ちょっと待った。どういうことだ?ますますよく分からなくなってきたぞ。

「詳しいことは分からないが、お前を探していたから甲板にいるだろって送り出したら、数分後に泣きながら廊下の端っこで丸くなっていたぞ」
「甲板……」
「自分がやったこと分かったか?」

 顔が怖いぞ、船長!
 アサのことを気にかけてくれているのは嬉しい。俺だって四六時中アサといれるわけではない。他にも信頼できる人がいるって言うのは良いことだけどな。

「いや、船長に言われた通り、サイを探しに行って、甲板で見つけてケンの部屋に戻っただけで……ああ……」
「心当たりがあんのか」

 サイがよろけた時に腕で受け止めた記憶はある。もしかするともしかしないかもしれないが、いやそのもしかなのかもしれない。

「あるって言えばあるんですけど、わざとでは」
「それは関係ねーだろ。アサがお前がやったバカな行動が原因で泣いてるんだろ?」

 何があったかを説明すると船長は飽きれた顔で首を振った。

「泣かせたらただでおかねーぞって言ったよね」
「待ってくださいよ!これは不可抗力じゃないですか?」
「アサは、」
「泣いてる」
「その通りだ。どうやって弁解するか足りない頭で考えろ」


 ひらひらと手を振り「さっさと行くぞ」とジェスチャーした船長の後ろに、慌ててついていく。向かう先は船長の部屋だ。そこにいるアサにどうやって説明しろっていうんだ?


「1か月トイレ掃除の刑だからな」
「はぁ?!」
「そのくらいで許してやるんだから、返事は「はい」だろ」
「いや、でも!」
「なんだ、海に突き落としてほしいのか?」

 大声で笑う船長が憎らしいが、アサを泣かしたのは俺だ。
 それにしたってよろける人間を避けろって言うのか?

 アサが扉の丸窓から見ていたなら、俺らが抱き合っていたように見えたはずだ。

 最悪だ。

 他の男なんて、どんなにサイが細身で可愛い顔をしてたって、抱きたくもないのに。


 自分の不運を呪って俺は船長のあとを追った。



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