97 / 125
第97話 ニールは学習しない
しおりを挟む「ンッ、ニールッ」
小さな手のひらに肩を叩かれてハッと我に返ると、頬を染めたアサが困り顔でこちらを見上げていた。しまった、あまりにも気持ちよすぎて少しだけ口づけを、と思っていたのに、思う存分楽しんでしまった。
わざとじゃないのは分かってる。分かっているが、このアサの表情と言ったら……こんなに瞳をとろんとさせて見つめられたら、誘われているんじゃないかともう一度唇を頂きたくなってしまう。
が、そうだ。今はここまで。
ケンが熱でショーンが役に立ってないんだったな。
せっかくアサが俺を呼びに来てくれたんだ。言われた通りに手を貸さないと。
「アサ、動けるか?」
「ン……」
ああ、やっぱり、あともう少しくらい、この空間を楽しめばいいんじゃないかって悪魔のささやきが頭をよぎる。
触り心地の良い髪に指を滑らせ、うなじで留められたバレッタに触れると、背伸びをしたアサが俺の唇へと近づいてきた。
「ハァッ」
アサの舌が咥内で逃げ回るたびに、俺は細い腰を掴む腕に力をこめていった。
唾液が混ざる感覚が、舌の柔らかさを味わえる感覚が、頭が狂いそうなくらい気持ちいい。
ケンのことを忘れたわけじゃない。
あと2、3分くらい、遅れていったって、何とかなるだろう。
いや確かに、風邪を全く引かないケンが熱を出したなんて一大事だろうし、何でも顔色も変えずにこなしてしまうショーンが看病に手こずってるところと見てみたいが、あと5分くらい……
唇を話すと、色づいた頬が俺の胸に寄り掛かった。力の入らない華奢な体は微かに熱を持っている。色白の顎に指をかけこちらを向かせると、照れ隠しにアサが前髪で瞳を隠した。
「おい!ニール!お前、まだここにいんだろ?」
「うわっ、船長?」
壊れんじゃないかと言うほど激しく扉が叩かれる音に、アサの小さな肩がびくりと飛び上がった。
あー……これはマズい。
説明すれば分かってもらえる……かもしれないけど、今この罰を受けてるときに、こんな状態のアサが俺といたら100%勘違いされる。
いや、勘違いと言うか、マズいことをしてたわけではないけど。ん?してたのか、マズいことをしてたんだよな……
「開けるぞ!」
「ってもう開けてんじゃないですか!」
「お、アサもいんのか?お前たちこんなとこで……はぁぁぁ。ほんとーにお前は反省しない奴だな、ニール」
「これには訳が!」
「なぁ、アサ?」
「ン?」
盛大にため息をついた船長は、俺を見て首を振った。
予想通りの反応だ。
「一生雑用してたいのか、お前は?」
「だから、言い訳くらいさせてくださいよ!」
「センチョ……」
「なんだ、アサ?」
なんだ、はこっちのセリフだ。アサに対しては可愛い孫に会った爺さんみたいにデレやがって。
「ゴメ、ン?」
「おい、ニール!聞いたか?アサが新しい言葉を!」
「は!これは新しい言葉ではないですよ、前にも使ったとこを、」
「あ?アサに謝らせたのか?」
「え、そんな」
「恋人失格だな」
「はああ??」
ってこんなことを言いにこの人はここまで来たわけではないだろう。
白髪の混じったあごひげを撫でつけた船長が、あっと声を上げた。
「そうだった、忘れるところだった。ショーンがお前を探してたぞ」
「船長に探させたんですか、あいつ?」
「いや、なんだかパニックになってたからな、面白くて手伝ってやってるだけだ」
「ケンのことで、ですか?」
「ああ、そうだったかな。熱だとか言ってたぞ。なーにあいつのことだ、知恵熱とかだろ。慌てることもねーのになぁ」
アサの頭を撫でながら二カッと笑った船長は言った。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。



つまりは相思相愛
nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。
限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。
とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。
最初からR表現です、ご注意ください。
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる