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第93話 アサと折り紙
しおりを挟む最近ニールは、いつも以上に仕事をしている。
ショーンが「バツ」って言ってたけど、僕には意味はよくわからなかった。
だから、一人で過ごす時間が増えてる気がする。
前みたいに怖いとか心配とかは感じないけど、一人でいると考える時間が自然と増えるわけで。
「お母さん…」
最後に見た母親の顔を思い出す。
数か月前が最後だった。いつも通りに、いってらっしゃいと言ってくれた。すぐに戻る予定で出てきたから、ちゃんと顔を見て、いってきます、と言ったかも覚えていない。
こう考えると寂しい気持ちでいっぱいになるんだ。
心臓がぎゅーってなって泣きたくなる。
僕は今大きな船に乗っていて、海の真ん中で異国人たちに囲まれて生活している。
それは、自分で選んだこと。
でもちょっと前までとは違う。
僕は迷い込んでただこの船に乗ってるわけではなくて、自分で決めてここにいる。
だけど、寂しくなる時はあるわけで、そんな時は船員さんたちからもらった紙で折り紙をしたりして時間を潰している。
「アサ、大丈夫?」
「ウ、ン、ダイジョブ」
こういう時だって、僕のそばにはケンがいる。
ニールが仕事で僕と一緒に時間を過ごせないときは、決まってケンが僕たちの部屋にやってきた。
特別なことをするわけではない。大抵、寝床に座ってお絵描きをしたり、折り紙したり、お喋りしているうちにニールが戻ってくるんだ。
だから、時々寂しくなるけど、とてつもなく泣きたくなることはない。
孤独感に包まれる暇なんてないほど、ケンは明るく励ましてくれるから。
「ええええ!!すごいすごい!アサ、これ、鳥????」
「トリ……?」
「そう!鳥! 紙で鳥作るなんててんさーーーーい!」
島国にいたころは、折り紙なんて好んでしていなかった。
得意なわけではないし、作れるものだって数限られている。
辛うじてうまく作れるのは鶴。
近所のお婆さんが病になったときに、お母さんに言われて何個も作らされた記憶がある。だからかな、鶴は何も考えていなくても作れるんだよね。
「みんなに見せなきゃ!!!!!そうだ!談話室でお茶しよ!」
ケンはいつもこういう感じ。
静かに本を読んでると思ったら、わっ!て立ち上がって早口で何かを伝えてくる。9割くらい僕は何を言われているか分からないまま、腕を引かれてケンの背中を追うんだ。
「ドコ?」
「だ・ん・わ・し・つ! あそこならみんな集まってるはず!あ、でも天気いいからみんな外かなあ。ほら、はやく、いくよおおお!!!」
「ン?マッ、テ!」
長く伸びた僕の髪を後ろでまとめる髪留め。
寄港地で買ってもらった紺色の洋服。
僕は、ニールにもらった物に身を纏い今日も船での生活を送る。
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