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第90話 ニールの説教
しおりを挟む「ニール、お前な……」
「すみませんでした!」
勢いよく頭を下げたところでこの人が簡単に許してくれるような人じゃないのは分かってる。それでも、だ。何もしないよりはマシなはず。
白髪の混じり始めた大きなあごひげを撫で首を横に振るのはこの船の船長だ。俺がこの船で働き始めた10年ほど前は、赤毛の髭を誇らしげに蓄え、癖の強い長髪を後ろに結っていた。
10年の月日は人を老いさせる。この人も例外なく、俺もそうだろう。今目の前に立つ船長は、どちらかと言えば12月にプレゼントを持って登場しそうな風貌だ。
「おいっ、聞いてんのか!」
「もちろんっ!」
「日誌取りに部屋に戻るだけで何時間かけてんだ」
「何時間って程時間はかけてないです!」
「はぁ、お前な、あの子が可愛いのは分かるが、仕事は仕事だ。割り切れ」
「え?!」
下げた頭を上げ、自分の耳を疑った。「あの子」ってあの子か?アサのこと言ってんのか?
いや、待て、船長は俺らのことを知らないはずだし、ショーンには黙ってろって言ったし、ケンに至ってはよく理解していない気がする……
「考えてることが顔に書いてあるぞ」
「船長!俺は!」
「ばれてないと思ってたのか?めでてーやつだな。仕事しか頭になかったお前にはちょうど良い子だと思っているよ」
「アサ、のこと言ってます?」
「他にいないだろ」
「……」
ばれてる。
10代の俺を雇ってくれたこの人は第二の父親のようなもんだ。本物の父親より船で働き出してからは時間を共にしているしな。
だからこそだ。だからこそ、ばれてるってことは気まずいんだ。
「おし、仕事に戻るぞ。お前がいない間、これとこれとこれをやろうって思いついてな。ああ、あとあの部屋とあの倉庫の片づけを頼む」
「今からですか?」
「何言ってんだ、今は1等航海士の仕事をしてもらう」
「ええ?!ってことは?」
「休憩時間になんとかしろ。あと10分で12時だ。次の当直は20時だろ?」
「いや、でも」
「罰だ。仕事をさぼった罰だからな。これでも優しくしてやってんだから文句言うなよ」
「鬼……」
「24時間ぶっつづけで働くか?」
「勘弁してください」
完璧にキレてるわけではないようだ。いつも穏やかな人を怒らせてはいけない、とはよく言ったもんだ。船長もそうだ。マジで怒ると誰も止められない。
片付けだけで済んだから、良い、のか?
「今後はないからな。あの子には今、仕事と居場所がある。お前っていう存在もいて友達もできたんだ。お前が自由勝手にやって船から叩き出されたらどうすんだ」
「そんなことはしませんよ!」
「以後気を付けろ」
「はいっ」
室内に静けさが戻った。
波が穏やかに揺れ船は前へと進んでいく。
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