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第81話 ニールの迷い
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「あ、ニールだ!」
自室に向かおうと廊下を歩く俺にいつも通りの大声で声を掛けてきたのはケンだ。振り返らなくても、100%こいつだと分かるのは10年近く一緒に船に乗っているからに違いない。
「おお、お前たち何してんだ?」
「アサと話をしようと思いまして」
「何の話だ?」
「仕事のことです」
「夕飯に言ってたやつだよぉ!!」
「ああ、あれか。今部屋で寝てるはずだ。起きてたら話していいが、寝てたらあとで戻ってきてもらっていいか?」
「もっちろんっ!」
スキップしながら廊下を進むケンを見つめ、ショーンがこちらに顔を向ける。
「仕事中では?」
「仕事中だ」
「なぜフラフラしているのですか?」
「日誌を部屋に忘れたからだ」
「それだけですか?」
「はぁぁぁ、お前は母親かっ!」
ため息をつき、横を見ると隣を歩くショーンが首を振っている。
「日誌を取ってアサの顔を見たらすぐ仕事に戻る。一瞬だけ顔を見たいんだ、疲れていたみたいだからな」
「あなたのせいですよね?」
「ひどい言いがかりだな」
部屋の前につきノックをしようと手をかざすと、くぐもった音が扉を通して伝わった。
「おい、お前らはそこで待ってろ。いや、あと3メートルくらい離れろ」
「はぁぁぁ?!!!!何それひどい!」
「ケン、手を貸してください」
「ん?手?はい」
何かを察したショーンがケンの手をぐっと引き、何歩か廊下を後退した。
扉に一歩近づくと、アサの声が聞こえる。
自分たちの部屋に他の人間を招き入れるような子ではないから、ひとり言だろうか。
いや、これはもしかするともしかしない気がする…
「ショーン、出直してきてくれ」
「え!?でもだって今じゃダメなの?」
「ケン、アサは具合が悪いみたいだ」
「中入ってないのに何でわかんの!?」
「ちっ」
「ここはニールの言うことを聞いてあとで戻ってきましょう。今でなくても大丈夫な内容ですので」
「えーでもー」
「ケン、行きますよ」
「えー僕納得してないんだけど」
「お前の意見は聞いてない」
「はぁ、何それ!」
「行きますよ、はやくっ」
「はーい…」
とぼとぼとショーンのあとをついてケンが去っていくのを見届けると俺はため息をついた。
「はぁ…これはどうしたらいいんだ…」
扉を通じて聞こえてくる声は甘さを帯びている。
どう考えても、アサは一人で……一人で致しているようだ…
ノックしてから入るか、いきなり扉を開くかに迷っていた俺にはこの時、聞かなかったふりをして仕事に戻り昼食の休憩時に戻ってくればいいんだ、と言うことを思い浮かぶほどの余裕はこれっぽっちもなかった。
右へ左へと歩きまわり、やっと扉を開けようと決めた時には数分経っていただろう。
「アサ…?入っていいか?」
自室に向かおうと廊下を歩く俺にいつも通りの大声で声を掛けてきたのはケンだ。振り返らなくても、100%こいつだと分かるのは10年近く一緒に船に乗っているからに違いない。
「おお、お前たち何してんだ?」
「アサと話をしようと思いまして」
「何の話だ?」
「仕事のことです」
「夕飯に言ってたやつだよぉ!!」
「ああ、あれか。今部屋で寝てるはずだ。起きてたら話していいが、寝てたらあとで戻ってきてもらっていいか?」
「もっちろんっ!」
スキップしながら廊下を進むケンを見つめ、ショーンがこちらに顔を向ける。
「仕事中では?」
「仕事中だ」
「なぜフラフラしているのですか?」
「日誌を部屋に忘れたからだ」
「それだけですか?」
「はぁぁぁ、お前は母親かっ!」
ため息をつき、横を見ると隣を歩くショーンが首を振っている。
「日誌を取ってアサの顔を見たらすぐ仕事に戻る。一瞬だけ顔を見たいんだ、疲れていたみたいだからな」
「あなたのせいですよね?」
「ひどい言いがかりだな」
部屋の前につきノックをしようと手をかざすと、くぐもった音が扉を通して伝わった。
「おい、お前らはそこで待ってろ。いや、あと3メートルくらい離れろ」
「はぁぁぁ?!!!!何それひどい!」
「ケン、手を貸してください」
「ん?手?はい」
何かを察したショーンがケンの手をぐっと引き、何歩か廊下を後退した。
扉に一歩近づくと、アサの声が聞こえる。
自分たちの部屋に他の人間を招き入れるような子ではないから、ひとり言だろうか。
いや、これはもしかするともしかしない気がする…
「ショーン、出直してきてくれ」
「え!?でもだって今じゃダメなの?」
「ケン、アサは具合が悪いみたいだ」
「中入ってないのに何でわかんの!?」
「ちっ」
「ここはニールの言うことを聞いてあとで戻ってきましょう。今でなくても大丈夫な内容ですので」
「えーでもー」
「ケン、行きますよ」
「えー僕納得してないんだけど」
「お前の意見は聞いてない」
「はぁ、何それ!」
「行きますよ、はやくっ」
「はーい…」
とぼとぼとショーンのあとをついてケンが去っていくのを見届けると俺はため息をついた。
「はぁ…これはどうしたらいいんだ…」
扉を通じて聞こえてくる声は甘さを帯びている。
どう考えても、アサは一人で……一人で致しているようだ…
ノックしてから入るか、いきなり扉を開くかに迷っていた俺にはこの時、聞かなかったふりをして仕事に戻り昼食の休憩時に戻ってくればいいんだ、と言うことを思い浮かぶほどの余裕はこれっぽっちもなかった。
右へ左へと歩きまわり、やっと扉を開けようと決めた時には数分経っていただろう。
「アサ…?入っていいか?」
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