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第67話 違うの定義
しおりを挟む「おい、ケン。立て、もう行くぞ」
「やだ!まだ船動いてないもん!」
「さよなら言ったんだ、もういいだろう」
「だって!」
「ケン、私たちも明日出港です。いろいろと買い揃えるものがあるのでそろそろ行きましょう」
「ショーンまで!?」
勢いよく立ち上がりこちらをにらんだケンの瞼は真っ赤に腫れている。
元気だけが取り柄のこいつのことだ、数時間すればいつも通りになっているだろう。
「ったく、俺は先に行くぞ」
「ニールの薄情者っ」
「ショーン、こいつのこと頼むな」
「…分かりました。明日のことはまた夕飯前にでも確認、でよろしいですか?」
「ああ、そうしよう。ケン、お前、厨房を任されてんだ。調達があるだろ?ゆっくりしすぎんなよ」
「わかってるもん!」
「じゃあ、俺は行くな」
このままここにいたってアサは帰ってこない。長くいるほど心が強く締め付けられていくんだ。
船を背に波止場を去ろうと足を進めると付近の道脇に生えた背の高い木が風に吹かれ穏やかに揺れた。
アサの出港が天気の良い日で良かった。
買い揃えなくてはいけない物は少ないが、明日この地を去ったら次に陸に降りれるのは3か月先だ。市場を見て回って目に付くものを買い宿に戻れば、少しは気が晴れるかもしれない。
「ニー、ルッ!」
「うわっ」
腰あたりに軽い衝撃を感じ前のめりにつまずきそうになり慌てて体勢を立て直した。
腰にまとわる細い腕は俺がよく知っているものだ。
「アサ?」
ここにいるはずのない、もう出港する船に乗ってなくてはいけないアサが俺の背後に張り付いている。
「ン…ニール」
「何でここにいるんだ?」
「ボク……イ、ヤダ…」
「嫌だ…?」
何が起きているのか、アサが何を言おうとしているのかを俺の頭はうまく処理できないようだ。
島国に帰ると決めたはずのアサが俺の体に触れている。
それだけがぐるぐる回る頭の中で理解できたことだ。
「きゃぁあああああああああああああああああああ!!!!!アサ!?アサ!なんで?え、なんで!わーー!!」
「ショーン、悪いがケンを連れて遠くに行ってくれ」
「え?!ちょっと、待って僕も混ぜてよ!」
「ケン、今は二人に時間をあげましょう」
「むーーーーーー!アサ!すぐに僕のとこにも来てね!」
俺が今まで出会った中で一番うるさい奴が向こうの方へと歩いて行った。
「アサ?おい、お前の船が動き出したぞ?」
「フネ…ダイジョ、ブ」
「大丈夫、なのか?お前は帰るんじゃなかったのか?」
「ニー、ル…ボク…カエ、ル……ン…ァゥ…」
「ゆっくりでいいから」
「ン……チ、ガウ」
「違う?」
「ウ、ン…チガウ…」
「帰らないってこと…か?」
俺は自分のいいようにアサが言っていることを理解しようとしているのだろうか。
お願いだから、そうであってくれ。
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