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第59話 アサの好き
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【お詫び】
第56話 紅く色づく の公開が出来ていませんでした。お話が飛んでしまい大変申し訳ございません。本日公開しましたのでご確認ください。 2019年12月5日
―――――
「カエル」
今ニールに教えてもらった言葉を口にすると、足元がガタつき床がなくなるような不思議な感覚に陥った。
目の前に置かれた紙には歪ながらも、祖国だと分かる形と、三角の帆をつけた船が描かれている。
おかしい。
ニールたちの船の帆は三角形ではない。
広げると大きく風になびくそれはどちらかと言うと四角形に近かった。
だけど、描かれたその帆から島国の絵に向かってニールが矢印を描くと、僕は「船」で「祖国」に「帰る」のだと理解した。
「カエル」はそういう意味なんだ。
僕に帰りたいのか?と聞いているのだろうか。
整理の付かない自分の気持ちにイライラが募りだす。
「ボ、ク…」
「ん?」
続く言葉が見つからない。
単語を知らないからじゃない。
今、自分がどうしていいのか全く分からないからだ。
簡単な話なのに。
帰りたいと言えば、僕が大好きなこの人は明日の朝、波止場まで僕を連れて行ってくれるだろう。
帰りたくないと言えば…
帰りたくないと言ったら、ニールは喜んでくれるだろうか。
何度も何度も口づけをして、僕よりも大きい腕でしっかりと抱き寄せて「いい子だ」と言ってくれるのだろうか。
「アサ……」
頬を撫でるニールの指は少しばかり冷たかった。
「ボ、ク…ワ、カラ、ナ…イ」
「そうか…」
最近覚えた言葉だ。
興奮しだすと早口になるケンにショーンが言えと教えてくれた単語。
「ワカラナイ」
伝わっただろうか。
僕にはまだわからないんだって。
天井の照明がカチカチと瞬きをするように点灯した。
寝床から起き上がれない僕は、窓から外の様子をうかがうことはできない。
何時なのだろう。
太陽はまだ顔を見せている。
僕では理解できない何かを呟いだニールは僕の髪を撫でた。
まるで、壊れ物に触れるように毛先を弄るその指は今日も男らしい。
「ニール」
顔の横で動いているその指を捕まえると僕は唇を寄せた。
――冷たい
困ったように目じりを下げるニールを見つめ、僕は何度も指に口づけを送った。
「アサ…」
「ナ、二?」
「好きだ」
耳に届いた言葉は、僕が知っているものだった。
「ス、キ…」
「ああ、いい子だ…」
近づいてくるニールの瞳は不安そうに揺れている。
普段であれば、心が温かくなるはずの言葉なのに。
今はその効果が薄れているようだ。
「ン…」
男らしい唇の感触に瞼を閉じると、頬に生ぬるい涙が流れるのを感じた。
第56話 紅く色づく の公開が出来ていませんでした。お話が飛んでしまい大変申し訳ございません。本日公開しましたのでご確認ください。 2019年12月5日
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「カエル」
今ニールに教えてもらった言葉を口にすると、足元がガタつき床がなくなるような不思議な感覚に陥った。
目の前に置かれた紙には歪ながらも、祖国だと分かる形と、三角の帆をつけた船が描かれている。
おかしい。
ニールたちの船の帆は三角形ではない。
広げると大きく風になびくそれはどちらかと言うと四角形に近かった。
だけど、描かれたその帆から島国の絵に向かってニールが矢印を描くと、僕は「船」で「祖国」に「帰る」のだと理解した。
「カエル」はそういう意味なんだ。
僕に帰りたいのか?と聞いているのだろうか。
整理の付かない自分の気持ちにイライラが募りだす。
「ボ、ク…」
「ん?」
続く言葉が見つからない。
単語を知らないからじゃない。
今、自分がどうしていいのか全く分からないからだ。
簡単な話なのに。
帰りたいと言えば、僕が大好きなこの人は明日の朝、波止場まで僕を連れて行ってくれるだろう。
帰りたくないと言えば…
帰りたくないと言ったら、ニールは喜んでくれるだろうか。
何度も何度も口づけをして、僕よりも大きい腕でしっかりと抱き寄せて「いい子だ」と言ってくれるのだろうか。
「アサ……」
頬を撫でるニールの指は少しばかり冷たかった。
「ボ、ク…ワ、カラ、ナ…イ」
「そうか…」
最近覚えた言葉だ。
興奮しだすと早口になるケンにショーンが言えと教えてくれた単語。
「ワカラナイ」
伝わっただろうか。
僕にはまだわからないんだって。
天井の照明がカチカチと瞬きをするように点灯した。
寝床から起き上がれない僕は、窓から外の様子をうかがうことはできない。
何時なのだろう。
太陽はまだ顔を見せている。
僕では理解できない何かを呟いだニールは僕の髪を撫でた。
まるで、壊れ物に触れるように毛先を弄るその指は今日も男らしい。
「ニール」
顔の横で動いているその指を捕まえると僕は唇を寄せた。
――冷たい
困ったように目じりを下げるニールを見つめ、僕は何度も指に口づけを送った。
「アサ…」
「ナ、二?」
「好きだ」
耳に届いた言葉は、僕が知っているものだった。
「ス、キ…」
「ああ、いい子だ…」
近づいてくるニールの瞳は不安そうに揺れている。
普段であれば、心が温かくなるはずの言葉なのに。
今はその効果が薄れているようだ。
「ン…」
男らしい唇の感触に瞼を閉じると、頬に生ぬるい涙が流れるのを感じた。
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