57 / 125
第57話 アサの想い
しおりを挟むあれ?
気が付けば僕は天井を見つめていた。
壊れてしまうんじゃないかというくらい僕の体に打ち付けられていたニールの熱は感じられない。それでも、体内にまだいるみたいな不思議な感覚が残っている。
頭も体もぼーっとする。
この気怠さで僕は先ほどまでのことを思い出していた。
「ニール…」
野獣のような瞳を宿した彼が僕を見つめていたのは覚えている。
その後、あまりもの快感に意識が薄れ記憶は曖昧としていた。
話さなきゃ。
そう、部屋に戻ってきてから、ニールは話す機会を与えてくれなかった。
与えられる刺激に喜び僕自身も話すどころではなかった。
ガチャリと音を立てて開いた扉から静かに入ってきたニールの両手にはお鍋が抱えられていた。
「起きたか、アサ?」
「ウ、ン…アッ!」
起き上がろうとしたはずなのに、背中が言うことを聞いてくれない。
「大丈夫だ。そのままで」
「…ン」
「ケンがポリッジを作ってくれた」
「…ポ、ルッジ?」
「はは!惜しいな。ポ・リッ・ジ、だ」
「ポ…リ…ジ…」
「そんなとこだ」
目の前で微笑むニールの笑顔がいつもと違う。
いつもなら目の端にしわが寄るほどにクシャっと笑うのに。
口角だけを器用に上げて表情を変え、乾いた声色で笑い声をあげた彼に僕の心はぎゅっと痛んだ。
小さなお椀によそわれた『ポリジ』はお粥に似ている。
柔らかそうなそれは本調子ではない僕にちょうど良さそうだ。
ケンが僕のことを考えて作ってくれたんだ。
兄弟のように僕の面倒を見てくれる友人を想うと目の奥がツンと痛くなる。
「ほら、起き上がれるか?」
背中の後ろに置いてくれた枕のおかげでなんとか起き上がると、お椀から揺れる湯気が僕の顔を温めた。
「オイ、シ、イ」
「ああ、少し甘いな」
「ア、マイ…」
「ハチミツのように甘いだろう?」
「アマ、イ…」
麦と牛乳の味が舌に広がった。
心を温めるような甘さは蜂蜜のようだが、慣れ親しんだ味とは少し違う気がする。
横に座るニールの体温が服を通して伝わってきた。
いつだって僕を安心させてくれるその体温だが、今は逆効果。
なぜだかバクバクと音を立てだした心臓が忙しなく動いていた。
どうしよう。
話さなきゃ。
帰りたいのか分からない、でも帰らなきゃいけない気がするんだって。
どう説明すればいいんだろう。
「ニー、ル…ボ、ク…、アシタ」
「ん?明日、帰るのだろう?」
「ン……」
そうだ、この人は僕が帰ると決断したと思い、「最後の思い出」として僕を抱いたのだろう。
別れを言う準備を、ニールはしているんだ。
僕は、どうしたいんだろう。
なぜ、まだ悩んでいるんだ?
「ボク…ボ、ク…」
知る限りの言葉を全て使い説明しなくちゃと口を開いても、出てくるのは涙だけだった。
ダメだ、これでは伝わらない。
「アサ、大丈夫だ。お前は強い子だ」
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。


つまりは相思相愛
nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。
限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。
とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。
最初からR表現です、ご注意ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる