運命の乗船

綿天モグ

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第45話 島国の人

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 出店に飾られていたのは、船で見つかったときにアサが纏っていた綺麗な群青色の「キモノ」だった。色合いや柄は少しずつ違うものの、あの島国特有のものなのだろう、パッと見て分かるくらい特徴的な作りだ。

 この店の前に立ってから固まってしまったアサを強引に自分の胸元に引き寄せた。なぜか指がカタカタと震えて止まらない。

 この少年が何を考え、何を感じているかなんて聞かなくても分かる。

「イラッシャイ」

 訛りがあるが俺たちの言葉で挨拶してきた男は、アサの島国の者だとすぐ分かる見た目をしていた。

 黒い髪に黒い瞳。

 アサよりは背丈があるが、俺たちよりは小柄。

 外で働くことが多いのか、肌が白いアサよりずっと日焼けし、健康的な風貌だ。

「ああ、このキモノは東の島国のものか?」
「ニシノヒトカネ?ワタシノクニ、シッテル?」
「これにそっくりなものを見たことがあってな。この様な色は他の国では見れないものだろう」
「ソウソウ、ワタシタチ、ソコカラクル」
「あの…こちらには船でキモノを売りに来ているのですか?それとも、こちらに住まれているのでしょうか?」
「フネダ、4ツキ、カカルネ」
「なるほどな…」


 ニコニコと陽気に話をしてくれる店主は、島国からここまでの道のりについてを楽しそうに語ってくれる。

 俺たちの言葉で繰り広げられるこの会話を、アサは理解できていない。自分の腕の中で大人しくしている少年を見下ろすと、唇を噛みしめ、泣きそうな表情で眉間にシワを寄せているアサが目に入った。


「アサーーーー!大丈夫?お腹痛いの?頭?頭が痛いの?あ!ほうれん草食べすぎちゃったかなぁ」
「ケン、頼むからお前はちょっと黙ってろ」
「え!?ひどい!」
「ケンはこちらへ。少しの間お店を見て回りませんか?」
「でも、アサが辛そうなの!」
「ニールに任せておけば大丈夫ですよ」
「…んーもー分かった!ショーン!砂糖菓子をゲットしに行こう!!」
「さ、砂糖菓子ですか…朝食後によく甘いものを食べれますね…」
「ダメなの?」
「っ!そんな子犬みたいな顔をされても…分かりました。それではニール、少し経ったら戻ってきますので」
「ああ…」

 キャーキャー騒ぎながら二人は人ごみへと消えて行った。気を遣って時間をくれたショーンには、感謝をしなくてはいけないが、今の状況を俺一人でなんとかできるか分からなくて、正直なところ心細い。

「アサ…大丈夫か?」

 腕の中の黒い髪がサラサラと揺れた。
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