運命の乗船

綿天モグ

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第28話 出店の話

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「アサ、これは食べられそうか?」
「ン…ダイ、ジョブ」

 広場に立ち並ぶ出店にはこの土地特有の食べ物や装飾品が売られている。俺の手を握るアサは、この市場の賑やかさに、頭を左右に動かし、忙しそうに目を動かしている。風に吹かれ髪がさらさらと舞うと、漆黒の瞳が輝いていた。もう片手には先ほど購入した食べ物がしっかりと握られている。串にささった肉はソースが滴り、手首まで垂れてきていた。

「おい、ゆっくりでいいぞ」
「ン…アイョウウ…」
「ははっ!大丈夫って?そんなにお腹空いていたのか?」

 もぐもぐと小さな口が動く様は小動物のようだ。物珍しい食べ物に興奮気味で頬を膨らませ食べていくアサに俺の心は温かくなっていった。

「アサ、手を貸せ」
「ン???」

 チロリと串が握られた手を舐めると、この土地特有のスパイスの利いた味が舌に広がる。いきなり感じた感覚に驚いたのか小さな手が遠慮がちに引かれていく。頬を染めて見上げてくる瞳は、暑く照らす陽射しに輝いていた。

「おいしいな、アサ」
「オ、イシイ…」

 ゆっくりと歩きながら、茶菓子を売る店、穀物や野菜を売る店、装飾品や衣類を売る店を回っていく。どの出店もそれぞれタープテントを張り、その下で商品を売っている。赤い土が目につくこの土地に所狭しと並ぶ色とりどりのテントは、太陽の暑さに似合う陽気な雰囲気を醸し出していた。

 握られていた手が離れていくのを感じ横にいる少年に目をやると、気持ちよさそうに両手を頭上に広げグッと背筋を伸ばしていた。上に引っ張られたシャツとズボンの隙間から見える素肌に心を囚われていると、俺ははっとし、急いでその裾を引っ張った。

 船を降りてからずっと、すれ違いざまに人々が振り返るのが分かる。

 アサの外見はこの国でも珍しいものだろう。この土地には、俺たちのような色素の薄い人間が長い航海の寄港地として停泊するが、アサの国の者がここに訪れたことはあるのだろうか。陶器の様に綺麗な肌、夜空の様に黒く美しい髪…そんなアサに心を奪われない者などいないはずだ。

なるべく目立たないように、俺はアサを隠すように市場を巡っていった。







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