運命の乗船

綿天モグ

文字の大きさ
上 下
24 / 125

第24話 アサのお料理 2

しおりを挟む
 ごちゃごちゃに散らかった厨房を去り談話室にたどり着くと、眩しいほどの太陽が小さな窓から入り込んでいた。肌寒い朝を溶かしてくれるような気持ちい陽射しだ。


「ねえねえ、アサ。ニールのこと話そっ!」


 じゃん!とお茶の入ったカップを手渡される。鼻に届いたのは気持ちを落ち着かせる甘い紅茶の匂いだ。


「ニール?」
「うんうん!」


 壁に掛けられた時計の針が40分を超えるまで、ケンは身振り手振りを加えてニールと僕のことを質問してきた。

 ニールは僕にとってなくてはならない存在。
 この気持ちがなんていうものなのか、僕の中でまだよくわからないけど、家族や慣れ親しんだものから離れて暮らす中で、ニールがいなくなったら、と考えると心がぎゅっと痛くなるくらい大切な存在になっていた。

 知っている単語が少ない僕はケンに色々と話すことはできなかったけど、針が40分を指すころ、ケンは満足したように頷いてニヤニヤと笑っていた。

「うふふ、2人はラブラブなんだねー!」
「ラ、ブ、リャブ?ン?」
「へへ、なーんでもないよー!さ、厨房にもどるよ!パブロバパブロバアアア!」

.
.
.

 オーブンから出てきたメレンゲを冷ましたり、果物やクリームで飾ったりしていくと、だんだんと色とりどりで綺麗な焼き菓子となっていった。散らかった厨房からは想像できないような出来栄えだ。流石は毎日の料理を任されているケンである。料理は得意だが片づけは苦手みたいだ。


「これはまた、だいぶ厨房を汚されましたね、ケン」
「ショーン、おっかえりー!当直終わったの?」
「まだですが、ニールにもう一度様子を見に行くように言われまして。それにしても、これは…片づけはしっかりされる予定ですか?」
「え?…当たり前だよ!」
「昼食の準備前にこの状態のままでしたら、お仕置きですよ」
「えええええええええええ!?」


 僕には何の話だか分からなかったが、ケンがいつも通りの大声でショーンに何かを訴えている。ポンポンっとケンの頭を撫でたショーンはこちらを振り返ると二コリと笑った。


「ショー、ン。コ、レ…」
「アサ、これはおいしそうですね。一口目を私がいただくとニールに怒られそうなので、遠慮しておきますね」
「ン?イ、ヤ?」
「違うよー!アサ、これはニールにあげないと!」
「ニール?ウ、ウン」
「食堂にもっていきますか、ケン?」
「そーだね!そーしよー!」
「アサ、そちらをもって、食堂に向かいますよ」
「ハ、イ…」


 食堂に向かいながらも、僕は散らかった厨房が気になって仕方なかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

つまりは相思相愛

nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。 限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。 とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。 最初からR表現です、ご注意ください。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

処理中です...