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第18話 外れたボタン
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何があったかをアサに聞くべきだろうか。
知る言葉の少ないこの子に、巨大な男に襲われるという悲惨な状況を経験したこの少年に、これ以上根掘り葉掘り聞くべきだろうか。
「アサ…」
「ン?」
俺の膝に座るアサは顔を上げずに返事をした。
泣きはらした瞼は少し腫れ赤く色づいている。
「話したいことはあるか?」
「ナ、二?」
「分からないか。そうだな。何があった?」
「ナ、二、ガ…?」
「そうだ、ザックの部屋でだ」
「ザック…」
自分を引きずり自室へと攫って行った巨漢の顔を思い出したのか、顔が青白くなった。
「いやだったら言うな。大丈夫だ」
「ダイ、ジョブ…」
小さく呟くアサに視線を落とすと、ボタンの外された胸元に色白い肌が晒されていた。
「おい、これは…」
「ン、ザ…ク…」
「あの野郎…!」
「ウワッ!」
怒りのあまり立ち上がろうとした俺の首にアサの腕が巻き付いた。
「悪い。落としてしまうところだった」
座り直すと、ホッと息を吐くアサの顔が俺の肩にもたれかかってくる。
「いい子だな、アサ。もう大丈夫だ」
「ン…」
「疲れたな」
「…ン、…」
ゆっくりと背中を撫でていくと、元々軽い体重が少しだけ重さを増していった。
「寝たのか?」
身体を抱えたまま背中を撫でていくと規則正しい呼吸が耳元に届く。
返事のない体をベッドに横たえると、前開きとなった上着が乱れた。
船での生活を始めて数カ月経ったが、大体を厨房か部屋で過ごすアサの肌は未だに色白くきめ細かい。
ザックに外されたボタンを掛け直してやろうと手を伸ばすと、アサの身体が身じろいだ。
「ニール」
「起きていたのか、すまない」
「ン…ダ、イ、ジョブ」
アサの横に体を横たえると、ころんと転がり小さな顔がこちらを向いた。
顔に触れる黒い髪は、細く色の薄い俺の髪と比べ、芯があり艶々と輝いている。すっと撫でると纏わることなく指が滑り心地よい。
「フフッ」
小さな笑い声が聞こえる方を見ると、小さな指が俺の髪で遊んでいた。
「珍しいか」
「メ、ズ…?メ…、ズシ、ン?」
「お前の髪と違うだろう」
「ンー…」
言葉は分からなかったようだが、俺の髪を撫で自分の髪を撫でニコニコと微笑んでいる。恐ろしいことが起こったばかりだが、少しでも気が混じるなら髪でも肌でも好きにしてもらおう。
くるくるとうねる俺の髪に指を巻き付けては、それを解いて可愛い笑い声をあげていた。
「お前の髪は黒いな」
「ク、ロ?」
「ああ、これも黒だ。そこにある引き出しもな」
一つひとつアサの髪色に似た物を指さしていく。
「クロ、イ」
「黒い、お前の髪の様に美しい色だな」
「ン?ン?」
「髪だ。これが俺の髪」
「ニール?」
「そう、髪」
「カ…ミ…カ、ミ?」
「いい子だ。よくできたな」
自分の髪を見つめ、新しく覚えた二つの単語を繰り返すアサは真剣な顔をして、俺の髪を引いた。
「ン、ニール、カ、ミ…ア…ンー…」
「俺の髪色か?これは金色だ。そうだな、金色の物は…」
腕を伸ばしベッドサイドから時計を引き寄せ、白く塗られた木製の置時計に細かく描かれた模様を指さした。
「これも金色だ」
「キ、ンイ…ト?」
「おしいな。き・ん・い・ろ」
「キ、ンイ…ロ」
「そうだ、アサ」
「ふふ」
頬を赤くし照れ隠しに下を向いたアサに心が躍った。
知る言葉の少ないこの子に、巨大な男に襲われるという悲惨な状況を経験したこの少年に、これ以上根掘り葉掘り聞くべきだろうか。
「アサ…」
「ン?」
俺の膝に座るアサは顔を上げずに返事をした。
泣きはらした瞼は少し腫れ赤く色づいている。
「話したいことはあるか?」
「ナ、二?」
「分からないか。そうだな。何があった?」
「ナ、二、ガ…?」
「そうだ、ザックの部屋でだ」
「ザック…」
自分を引きずり自室へと攫って行った巨漢の顔を思い出したのか、顔が青白くなった。
「いやだったら言うな。大丈夫だ」
「ダイ、ジョブ…」
小さく呟くアサに視線を落とすと、ボタンの外された胸元に色白い肌が晒されていた。
「おい、これは…」
「ン、ザ…ク…」
「あの野郎…!」
「ウワッ!」
怒りのあまり立ち上がろうとした俺の首にアサの腕が巻き付いた。
「悪い。落としてしまうところだった」
座り直すと、ホッと息を吐くアサの顔が俺の肩にもたれかかってくる。
「いい子だな、アサ。もう大丈夫だ」
「ン…」
「疲れたな」
「…ン、…」
ゆっくりと背中を撫でていくと、元々軽い体重が少しだけ重さを増していった。
「寝たのか?」
身体を抱えたまま背中を撫でていくと規則正しい呼吸が耳元に届く。
返事のない体をベッドに横たえると、前開きとなった上着が乱れた。
船での生活を始めて数カ月経ったが、大体を厨房か部屋で過ごすアサの肌は未だに色白くきめ細かい。
ザックに外されたボタンを掛け直してやろうと手を伸ばすと、アサの身体が身じろいだ。
「ニール」
「起きていたのか、すまない」
「ン…ダ、イ、ジョブ」
アサの横に体を横たえると、ころんと転がり小さな顔がこちらを向いた。
顔に触れる黒い髪は、細く色の薄い俺の髪と比べ、芯があり艶々と輝いている。すっと撫でると纏わることなく指が滑り心地よい。
「フフッ」
小さな笑い声が聞こえる方を見ると、小さな指が俺の髪で遊んでいた。
「珍しいか」
「メ、ズ…?メ…、ズシ、ン?」
「お前の髪と違うだろう」
「ンー…」
言葉は分からなかったようだが、俺の髪を撫で自分の髪を撫でニコニコと微笑んでいる。恐ろしいことが起こったばかりだが、少しでも気が混じるなら髪でも肌でも好きにしてもらおう。
くるくるとうねる俺の髪に指を巻き付けては、それを解いて可愛い笑い声をあげていた。
「お前の髪は黒いな」
「ク、ロ?」
「ああ、これも黒だ。そこにある引き出しもな」
一つひとつアサの髪色に似た物を指さしていく。
「クロ、イ」
「黒い、お前の髪の様に美しい色だな」
「ン?ン?」
「髪だ。これが俺の髪」
「ニール?」
「そう、髪」
「カ…ミ…カ、ミ?」
「いい子だ。よくできたな」
自分の髪を見つめ、新しく覚えた二つの単語を繰り返すアサは真剣な顔をして、俺の髪を引いた。
「ン、ニール、カ、ミ…ア…ンー…」
「俺の髪色か?これは金色だ。そうだな、金色の物は…」
腕を伸ばしベッドサイドから時計を引き寄せ、白く塗られた木製の置時計に細かく描かれた模様を指さした。
「これも金色だ」
「キ、ンイ…ト?」
「おしいな。き・ん・い・ろ」
「キ、ンイ…ロ」
「そうだ、アサ」
「ふふ」
頬を赤くし照れ隠しに下を向いたアサに心が躍った。
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