運命の乗船

綿天モグ

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第11話 日常生活

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 あの日から数週間、俺たちは今までと同じように船上での生活を送っていた。
 気まずくなるか、嫌われてしまうかと心配していたが、あの後浴室から戻るとアサはベッドですやすやと眠っていた。
 そこから数日は目を合わせると頬を赤くすることはあったが、特別嫌われた様子ではなかったのでなかったことにしようと思ったのだろう。

 気が付けば俺たちはいつもと変わらぬ毎日を過ごしていた。

 2等航海士の毎日は規則正しいものだ。一日に2回休息をはさんで4時間ずつ働く。
 体温の高い温もりを感じながら目を覚まし、眠そうに眼をこすりながらゆっくりと後をついてくるアサと朝食を食べてから仕事に向かう毎日だ。

 主な業務は、航海計器や海図の管理と整備。出入港する際は、船尾で船を岸壁に着けたり離したりする作業を指揮監督するのも俺の仕事だ。
 夜の当直は午後8時から深夜となるため、俺は昼食から8時間ほどの休憩時間を毎日アサと過ごしていた。そして、深夜に自室に戻るとアサを腕に抱えて眠った。

 アサはと言うと、俺が働いている間は厨房のケンのもとで料理を手伝っているようだ。
 幼いころに両親を亡くし、この船の船長に育てられたケンが作る料理はどんなに祖国から離れていても、どんなに長い期間慣れ親しんだ食事にありつけなくても、心から落ち着くことのできるおいしいものであった。
 
 船員の中では年が近いのであろうケンとアサは、交わせる言葉は少ないものの気が合うようだ。

 「ニール、ニール、ボク…ジウロ…ン、ボ、ク…」

 そんなある日、午前の当直が終わり自室に戻ってくるとアサが話しかけてきた。ケンから教わった言葉を披露してくれるのはこれが初めてではない。

 「何だ、アサ。大丈夫、ゆっくりだ」
 「ン、ボク、ジュウロ、ク。ニール?」
 「お?アサは、16歳なのか?思ったより幼くはないんだな」
 「ン?」
 「俺は、24歳。にじゅうよん」

 これまでにも、2人で会話をする際に役に立ってきたスケッチブックに大きく「24」と書く。
 同じ数字をアサの祖国でも使っていたのだろうか?
 アサは首を傾げながら指を数字に這わせる。

 両手を使い2と4を示すと、小さな少年はつやつやと輝く黒髪を揺らして微笑んでいた。

 「ニール、ニジュウヨン。ボク、ジュウロク」
 「いい子だな、アサ。数字を覚えたか」
 「ン?スウジ?」
 「ああ、ほら書いてみよう。1、2、3、4…これが数字だ」
 「ン?」
 「まだ難しかったか。他には何を覚えたんだ?」
 「ン?」 
 「ケンに、言葉を教わったか、アサ?」
 「コトバ。ン…ア…」
 「ゆっくりでいいぞ。いい子だな、アサ」
 「ボク、ス、キ」
 「え?」

 聞こえてきた言葉に戸惑い俺はアサの目を見つめ返した。








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