諦めは早い方なので

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緋黒視点

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別に1番じゃなくたって良かった。

昔から、何かにつけて1番をとりなさいと言われ続けてきた。勉強、運動、知識、容姿、全てにおいて1番であり続けることこそが、お前の価値だと言われた。
ただ、元々の自分の性格がその教えと正反対だったため、誰かに追い抜かされても、ビリだとしても、特に何も思わなかった。
それを良しとしなかった両親は、それならせめてと俺に婚約者をあてがった。
同性婚が一般的になってきたこの時代において、家柄の関係で男同士で結婚することは珍しくない。代々呉服屋を営んできた祖先の血を絶やす訳にはいかないと、親戚一同満場一致で一人っ子の俺を嫁に出した。
婚約者の家は政界でも大きな影響力を持つ、言わば大御所で、どうやって取り付けたか分からないが、最近停滞気味のうちの呉服屋への資金の提供の代わりに、なぜか俺を買うことにしたらしい。
しかしその婚約者(男)は、かなりの遊び好きで、男女問わず、気に入ったらとにかく食い散らかしてる。普通はそんな男の元に子供を嫁に出したりしないと思うが、うちの両親は、俺がこの男にとって1番になって資金を貰うことの方がよっぽど大事らしい。
気味が悪いほどの笑顔で送り出されてしまった。
そんなこんなで、慌ただしく時は過ぎていき、婚約、結婚と進み、既に半年が経とうとしていた。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「くろ、今日も夜帰らないから。」
「そうか、わかった。」

毎度の決まり文句を言って、すぐに亮は出ていった。
結婚して半年、夫となった亮とは全く仲が深まらないままだ。

亮とは結婚式の日に初めて会った。想像以上の美しさに思わず目を見張ったものだ。
真っ黒な髪は綺麗に切り揃えられ、薄くアメジストの色が入った瞳が光に反射して、きらきらと輝いていた。宝石を擬人化したらこうなるんだろうな、と思うほど、亮は綺麗で魅惑的だった。
それと同時に、両親の願いでもある、俺が1番に亮に想われるという願いは達成できないだろうなと確信した。なぜなら単純に、釣り合わないからだ。そして俺はきっと、亮が好きそうなタイプではない。
何度か式の最中に目が合ったが、気まずそうに逸らされて終わってしまった。まあ、彼も彼で不憫なのは間違いない。遊び過ぎで勘当1歩手前までいき、俺と結婚するか勘当か選べと迫られたらしく、渋々俺を選んだと使用人が話していたのを聞いた。俺を買ったのも、放蕩息子が結婚を機に少しでもマシになって欲しいという願いがあったのだろうが、それも無理そうだ。
かわいそうに、俺なんかと結婚して。もっと可愛くて好みの子たくさんいるのに。まあでもお互い大変だから仕方ない。
最初は俺なりに歩み寄ろうとしたんだ。お互い苦労しているのは分かっていたから、友人くらいには仲良くなってみたいと思った。
でも亮は違ったらしい。
自分の遊びの邪魔になる妻はいらないと言うように、部屋も別、食事もバラバラ、会話もなし、親が来た時だけそれっぽく振る舞うくらいだ。
別にそれでも良かった。俺が1番になったことなんてなかったし、今までと同じだから。
ただ最近面倒事ができた。
亮の遊び相手が家まで押しかけてくるようになった。複数いる遊び相手のうち、多分1番に目をかけてもらっているのだろう。その人はとても可愛らしい男だった。
亜麻色の髪をサラリと靡かせ、真っ白な肌は真っ赤に染め上がり、大きな瞳は潤んでいた。

「亮のこと、もう諦めてください!!!」

そう言って頭を下げられてしまった。玄関先だし、人に見られるとやばいと焦って家に上げてしまったが、リビングに入るなりいきなり離婚届を突きつけられて、書くまで帰らないと言われた時は流石に笑ってしまった。

「いやー俺も好きで結婚したわけじゃないから何とも言えないけどなー」
「だったらすぐ離婚してください!!未練ないならいいでしょ!?」
「亮はいいとしても、家が絡んでるからねー難しいんだよ」
「家!?家と亮、どっちが大事なんですか!?」
「え?えーどっちもどっちだなー。そもそもどっちも大事じゃないし。」

そう答えると、ありえないというように失望した顔をしたその遊び相手は、「やっぱりこんな奴なんかに亮をとられていいはずがない!」と叫び散らかして帰って行った。
大声は苦手だから帰って貰って嬉しいが、あまりに突然の事だったのでどっと疲れてしまった。
その後もちょいちょい別れろとの脅しが来たが、まあ家が許せばねと言いながら、のらりくらり躱している毎日だ。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ただいま」
今日は珍しく、亮が帰ってきたらしい。いつもこの時間は俺の夕飯の時間だ。
「おかえり、珍しいな帰るなんて。」
悪気なく笑ってそう言うと、むっとしたように顔を顰めて、「俺の家なんだから当たり前だろ。」と返された。いやまあ、そうなんだけど、日頃の行いが行いだから、、

「飯は?」
「え?ああごめん、俺の分しか作ってないや、いいよこれ食べな。俺コンビニで買ってくるわ」

今日はオムライスを作った。結構うまくできたのだが、あいにく1人分しかない。こういう時ほど譲り合いだよな、まあ何か譲られたことなんて一度もないけど。

「は?いやじゃあお前これ食べろよ」
「なんで?いいって、別に。亮前にコンビニ飯は嫌いって言ってたじゃん」
「お前も好きじゃないだろ」
「いや普通に好きだよ。うまいじゃん。」
「なら俺も行く。」
「なんで?」
「一人で食べさせる気かよ」
「俺いつも一人で食べてたよ?」

ぐっと黙る亮。気づかなかったのか、考えなかったのか。もう少し俺に関心あってもいいと思うんだけどなあ。

「ああそうだ、あと亮の遊び相手が別れろって家に来るからさ、どうにかしてくれない?俺大声嫌いなんだよ。」
「は!?遊び相手って……まさかみづき……?いや、いちか……?それともようすけ……?」
「何でもいいけど近所迷惑だからさ、責任持ってくれよそこら辺。全部亮の責任だろ?」
「……お前、何とも思ってないのか」
「いや、だから迷惑だって思ってるよ。」
「そうじゃなくて!!!!!俺の遊び相手来て、嫉妬とかしないのかよ。」

拗ねてしまったようだ。笑える。
嫉妬するほど亮のことは好きじゃないし、そんなに暇じゃない。俺にだってやることはある。実家の手伝い兼雑用を回されて、しばしばパソコンと睨めっこしなくてはいけないのだ。亮ほどの名家ではないが、うちだってそこそこの呉服屋だ。昔からの常連さんの対応とか新規客の獲得とか…嫁に行ったとしてもそこら辺はやるべき仕事だ。だから亮が撒いた種は亮が自分で処理して欲しい。まして家にあげるだけでも結構疲れるんだ。そういう意味を込めての迷惑なのだが、亮は一体何に怒っているのだろうか。亮が俺のこと好きなわけでもないのに、嫉妬しないのか?なんて普通聞くか?

「なんだ、亮は嫉妬して欲しいのか?」
「なっ…そういうことじゃないっ!!!」
「ははっ分かってるさ、そんなに怒るなよ。お前らしくもない。」

そう。いつもの亮はもっと冷静だ。家の事で何かあったとしてもこんな風に声を荒らげることはない。実に彼らしくない。

「たださ、わかってるだろ?俺たちは恋愛結婚じゃない。お互いにメリットはないこの結婚だったとしても、この家で暮らすしか俺には選択肢がない。亮が外で何をしても構わないが、その問題を家にまで持ち込ませないでくれ。他人に暴言を吐かれるのは流石の俺でもこたえる。」

思えばこうやって彼に自分の気持ちを伝えたのは初めてだ。きっかけの話題としては良くないが、良い機会になったのではないだろうか。
そう思って彼を見ると、目を見開いて震えていた。いつもの外向きのミステリアスで美しい彼とは違い、なんというか、人間らしくなった?

「あ、コンビニ行くんだったな。今言ったこと、何か説教臭くなって悪いけど、対処して貰えると助かる。」

忘れてた。夕飯まだだし、もう夜も深い。何故か棒立ちのままの亮だが、やっぱり疲れているんだろうか。仕方ない、一緒に行くとか言ってたけど1人で行こう。

「んじゃ、俺コンビニ…「くろ」

行ってくるわ、と言いかけたところで名前を呼ばれた。それと腕を掴まれている。それもやけに強い力で。そんなにコンビニに執着する奴じゃないだろう。不思議に思いながら振り返ると、じっと掴んだ腕を見つめながら唇を噛み締めている亮。

「どうした、やっぱり一緒に行くか?俺はどっちでもいい。」
「……くろにとって、俺が浮気してることもどっちでもいいこと?」
「え?」
「そのコンビニに行くのと同じくらいの感じで、俺の浮気もどっちでもいいって言ってるの?」
「は?」

何言ってるか分からない。なんでコンビニと比較してるんだ?浮気とコンビニに何の繋がりがあるんだよ、大喜利でもやってるのか?いやでも、亮はいつになく真剣だ。

「よく分かんないけど、、亮は何を聞きたいの?」
「っ俺は!…………俺は……」

俺は、、なんだろう。口下手なはずないのに。

「まあ…亮は俺なんかに好かれようとか考えてないの分かった上で言うけどさ、今の言葉だけ聞くと、、、あれだな!俺の事意識してるみたいに聞こえるから気をつけた方がいいぞ。無意識なんだろうけど、そうやって他の人にも同じこと繰り返していくと今日みたいに家に凸る人が増えちゃうかもだしね。」

そう、無意識が一番タチが悪いんだ。きっと亮は意識せずにそういうことを言えちゃうから、好きになっちゃう子が量産されていくんだと思う。だったらまずは根本的な所から解決しないとな。
そうすれば俺の生活も平穏になって、家事と仕事して、あとはたまに親とかに夫夫っぽいとこ見せればいい。きっと亮も分かってくれる。
なんて、少しの達成感に浸りながら言った後に俺は気づいた。
さっきより腕が痛い。




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みんなの感想(1件)

ピスケ
2024.07.05 ピスケ

はじめまして😌色々と探していてこちらの作品を見つけました とても好きなストーリーです😍こちらは続きは書かれ無いのでしょうか💦💦更新を待っております🙇

解除

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