12 / 15
4-2
しおりを挟む昨日に引き続き今日も出社したくなかった。
意外と強かで真面目なウサギちゃんも出社していたが、気まずい距離は一晩ではなくならない。私とウサギちゃんはお互いを気にしつつも目を合わせようとしなかった。
しば犬くんは2日連続お休みでアルハラを深刻に捉えたゴリラ主任がバナナを持ってお見舞いに行くと言い出している。
周りがゴリラ主任を宥めるのをぼんやり眺めながめていた。
「アホウドリさん」
するとお鶴さんが話しかけてきた。手には見覚えのある紙があった。
「ここ、押し間違い」
誤った印鑑の押し間違い。我に返って「すみません」と小さく謝り、判子を引き出しからだす。
「前も同じ間違いしたわね」
責められている気がする。いや気のせいではない。
反射的にすみませんと口に出そうとする。
「責めてるわけじゃないから謝らなくてもいいのよ」
固い口調に変わらない表情。仕事モードになったお鶴さんは何もなくても何かを責めているようだ。ウサギちゃんがこの人を嫌う原因はそこだろう。
急いで修正して渡すが、お鶴さんはじっと私を見ていた。
無言の圧力があるような気がして身構えてしまう。
「今日は定時で終われそう?」
聞かれたのは仕事とは関係がありそうでない日常的な質問だった。
勤務は何事もなく平和に終わり、順当に定時で上がれた。
お鶴さんのおすすめで来たお店は意外にも男性が好みそうな炭火焼きの煙が立ち込む焼き鳥屋だった。
共食いになるのでは?と脳裏を過ぎったが、お鶴さんは全く気にせず砂肝を食べた後にレモンサワーを口にする。
ジョッキグラスが逆さまになってその勢いでいっぱいに入ったレモンサワーが見る見るうちに減っていく。空になるまでの時間はほんの数秒で、あっという間に飲み干したお鶴さんは満たされた笑顔で息を吐いた。
「いいねー平日の夜の居酒屋は」
そう言うお鶴さんはパスタを綺麗に食べる人とは到底見えなかった。
「こういうお店好きなんですか?」
「割とね。おしゃれなお店がよかった?」
「いえ、美味しいです。意外だっただけなんで」
「仕事とギャップがあるってよく言われるのよね」
まだ串に刺さった鶏皮を眺めた。明るく振る舞うお鶴さんの顔を見れない。
お鶴さんが飲みに誘ったのは私とウサギちゃんとの仲を察しているからだろうか。
「今日お誘いしたのは私のミスが多かったからですか」
「私の息抜きに付き合ってほしかっただけ」
何事もなく言ってのけるけど気をつかわせているのだと考えた。
「食べないの?」
私の手にはまだ鶏皮があった。いつまでも見つめいる私にお鶴さんは当然と不思議がっていた。
「鶏皮に思い出とかあるの?」
「そうではなくて」
実をいうと迷っていた。鶏皮を串から取るか串ごといくか。
しかし、お鶴さんを見ていると相手のことなどお構いなしで串ごと食らいつき、2杯目のレモンサワーを注文している。ヴィーガンも恐れるワイルドなお鶴さんだ。
こうして黙って逡巡しているとまた話を聞いていないと怒られそうだ。いや実際に聞いていないので言い訳の仕様がないのだが、兎に角ずっと私の返答をずっと待っているお鶴さんに申し訳ないので正直に思ったことを話した。
我ながら失礼な言い方をしていたと気付いたのは話し終わったあとだ。それなのにお鶴さんはレモンサワーを片手に笑いながら聞いていた。
「ふふ、なにそれ。私が肉食系の鶴?」
話しているうちに自然と私の中での呼び名も口にしてしまった。顔の熱を感じながら度数の入っていないカシスオレンジをちびちび飲む。
「他にも呼び名があるの?」
聞き上手とはお鶴さんのことを言うのだろう。
話している私も楽しくなってきたのでついゴリラ主任やしば犬くん、ウサギちゃんのことを話した。
ひと通り話し終えるとお鶴さんは満足そうに笑っていた。
「アホウドリさんって面白い人ね。こんなにお喋りが上手だなんて知らなかった」
「やっぱりアホっぽく見えますか?」
面白い人と言われると今までの様々なことを思い出してしまう。
「どうして?人を笑顔にできる人は頭がいいのに?」
お鶴さんはきょとんと首を傾げていた。
私とは180度も違うお鶴さんの発言だ。私とは違う目線を持った人の発言だ。
「私はそのままのあなたが好きよ」
しば犬くんとは違う好きという言葉。
それは私の中ですとんと落ち着いた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
八百万の学校 其の参
浅井 ことは
キャラ文芸
書籍化作品✨神様の学校 八百万ご指南いたします✨の旧題、八百万(かみさま)の学校。参となります。
十七代当主となった翔平と勝手に双子設定された火之迦具土神と祖父母と一緒に暮らしながら、やっと大学生になったのにも関わらず、大国主命や八意永琳の連れてくる癖のある神様たちに四苦八苦。
生徒として現代のことを教える
果たして今度は如何に──
ドタバタほのぼのコメディとなります。
後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符
washusatomi
キャラ文芸
西域の女商人白蘭は、董王朝の皇太后の護符の行方を追う。皇帝に自分の有能さを認めさせ、後宮出入りの女商人として生きていくために――。 そして奮闘する白蘭は、無骨な禁軍将軍と心を通わせるようになり……。
意味のないスピンオフな話
韋虹姫 響華
キャラ文芸
意味が分かったとしても意味のない話────。
噂観測課極地第2課、工作偵察担当 燈火。
彼女が挑む数々の怪異──、怪奇現象──、情報操作──、その素性を知る者はいない。
これは、そんな彼女の身に起きた奇跡と冒険の物語り...ではない!?
燈火と旦那の家小路を中心に繰り広げられる、非日常的な日常を描いた物語なのである。
・メインストーリーな話
突如現れた、不死身の集団アンディレフリード。
尋常ではない再生力を持ちながら、怪異の撲滅を掲げる存在として造られた彼らが、噂観測課と人怪調和監査局に牙を剥く。
その目的とは一体────。
・ハズレな話
メインストーリーとは関係のない。
燈火を中心に描いた、日常系(?)ほのぼのなお話。
・世にも無意味な物語
サングラスをかけた《トモシビ》さんがストーリーテラーを勤める、大人気番組!?読めば読む程、その意味のなさに引き込まれていくストーリーをお楽しみください。
・クロスオーバーな話
韋虹姫 響華ワールドが崩壊してしまったのか、
他作品のキャラクターが現れてしまうワームホールの怪異が出現!?
何やら、あの人やあのキャラのそっくりさんまで居るみたいです。
ワームホールを開けた張本人は、自称天才錬金術師を名乗り妙な言葉遣いで話すAI搭載アシストアンドロイドを引き連れて現れた少女。彼女の目的は一体────。
※表紙イラストは、依頼して作成いただいた画像を使用しております。
※本作は同列で連載中作品「意味が分かったとしても意味のない話」のスピンオフ作品に当たるため、一部本編の内容を含むものがございます。
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
【完結】陰陽師は神様のお気に入り
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
キャラ文芸
平安の夜を騒がせる幽霊騒ぎ。陰陽師である真桜は、騒ぎの元凶を見極めようと夜の見回りに出る。式神を連れての夜歩きの果て、彼の目の前に現れたのは―――美人過ぎる神様だった。
非常識で自分勝手な神様と繰り広げる騒動が、次第に都を巻き込んでいく。
※注意:キスシーン(触れる程度)あります。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※「エブリスタ10/11新作セレクション」掲載作品
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる