糸と蜘蛛

犬若丸

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6章 盤上の外で蜘蛛喰い蝶は笑う

目覚めて夢の中 1

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 夢見草が見せる夢から目覚めケイは清音と赤眼の少年を蹴散らし、地上を求めて走り去った。
 その姿を見送った後、光弥はやっと安心して身を隠していた瓦礫の裏から出た。
 気まずい空気を切り替えて笑うもののどうしても顔が引きずってしまうので前向きに次に行こうとは言えなかった。
 中途半端な光弥の笑顔は清音の癪に触りに、顔を歪ませながら詰め寄る。
 「隠れてたの?こんな時ぐらい助けなさいよ役立たず!」
 胸倉に掴みにかかってくる清音を避け、光弥は両手を上げて気が立った彼女を落ち着かせようとした。
 「でもさでもさ、白い刀は手に入ったんだろ。2分の1だけど」
 光弥がどんなに取り繕っても油を注がれたように清音は熱を持ち、口調は荒くなる。
 「柄じゃないわよ!刃の方が重要なのよ!」
 白い刀に関して光弥が知っていることはほとんどない。
塊人が作った代物だろうが、何の目的で誰が作ったのか見当もつかない。ケイの飼い主らしいが、ハザマに猫を飼う酔狂な塊人はいない。
 欲しかったものが2分の1になったとしてもどちらが重要なのかも光弥にわかるはずがない。
 そうした事情も知りもしない清音は怒鳴りたい分だけ怒鳴る。
 シャッターの壁際で赤眼の少年が蹲って耳を塞いでいた。
 「だったらさ、ケイを追わないとさ」
 清音の怒りを別方向に受けられないか試してみる。
 「やってるわよ!」
 光弥が何を言っても清音は怒鳴って返す。
 「女子たちが対応してんの!それを無駄にしたらどうするつもり!」
 「なら急ごうぜ」
 「ずっとそう言ってるでしょ!」
 言っていないな。
 なんてことを言っても清音は聞き入れない。感情のままに口を動かしている人は相手がどう思うのか考えられないのだ。
 清音の態度に辟易し、ドスドスを足音を鳴らす彼女の背中を見つめる。
 「何してんの!あんたも行くのよ!」
 清音が怒鳴った相手は赤眼の少年だ。少年は更に萎縮して身を固くしたが、黙っているのも悪い方向にしかいかないので諦めたように立ち上がる。
 そんな少年に光弥はすぐに視線を逸して清音の後に続く。
 「ケイはどこに行くのか知ってんのか?」
 光弥の質問に清音は真っ直ぐ前を向き、はっきりと答える。
 「漂流場よ」
 そこまで確信できる理由が今一理解できない。
 漂流場とは現世から流れてきた魂が溜まる場所を指す。
 生体から抜けた魂は2ヶ月の時をかけて黒いヘドロ状の液体に変化し、ハザマに流れる。そして最初に着くのが漂流場だ。そこから人の形へと戻っていくのだ。
 その漂流場にあるのは死人ばかりだ。そこに貴重なものがあるとは思えない。
 そもそもケイが求めているものがわからない。
 「カンダタに会うつもりなのよ」
 補足した清音の台詞になるほどと光弥は納得した。
 ケイの存在理由は瑠璃に白い刀を渡すことだ。カンダタはその橋渡しになり得る。
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