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6章 盤上の外で蜘蛛喰い蝶は笑う
それは薄明のような赤い記憶 9
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瑠璃か息子か、迷っていた。
瑠璃との合流を望むならば、ケイたちから逃げないといけない。赤眼の少年との再会を望むなら清音について行くしかない。
漠然としている間に清音はこちらへと歩みよる。近づきながらポケットに手を入れている。
何かを握っている。警戒したカンダタは一歩退いた後、泥女子に向かって跳ねた。
高く跳んできたカンダタの真下で捉えようとする扇風機女子。彼女は逃げるカンダタをすぐに捉えられるよう待機していたのだろう。なので、急に跳びこちらへと着地しようとしても慌てる素振りを見せなかった。
だからといって扇風機女子に基本的な戦闘はできない。動きも鈍間なままだ。
落下するカンダタの足首に触れたが、それを軽く払い、もう片足で泥女子の頭あたりを蹴った。
細い岩場の道に重たい頭部が垂れる。カンダタは上乗りになり、垂れている頭が上がろうとしていたのでファンを書こう柵を鷲掴みにし、岩場に叩きつけた。
鉄の柵が歪み、中のファンが割れ、罅の線が引かれる。
カンダタは立ち上がり、その場から逃げようとするの扇風機女子の手がカンダタの衣服を引っ張る。すぐに振り払おうとしてもしっかりと握られた上、握力は無駄に強かった。
カンダタが数秒立ち止まっている間、清音が蜘蛛の巣の岩場を飛び跳ねながらポケットから握り拳を出す。
殴る動作ではない。開いた拳からは深緑色の細かい粉が放たれた。
粉が口鼻に吸い込まれ、呼吸器官は異物を取り除ぞこうと咳を繰り出す。
閉じられた視界では何がどうなっているのかわからない。足裏から地面の感触がなくなったので滑ってしまったのだと体感でそれは伝わった。
素早く動いたケイがカンダタの腕を捕え、足場に戻す。
助けたわけではない。捕まっただけだ。
ケイの腕から逃げようと暴れてみるものの、落下寸前までいった身体は思うように動かず、地面に抑えられる。
「くそっ離せ!」
声で伝え怒鳴っても相手は従わない。それでも悪態を吐きたくなる。はかない抵抗だ。
清音は鼻歌を流しながら上着のポケットから怪しげな箱を取り出していた。中にあるのは注射器と液体が入ったガラス製の筒である。
液体を筒から注射器に入れ、先端の針を取り付ける。
冷たい針の先端が首筋に触れた。目が開けられないので過剰に反応してしまう。
大きく首を振り、冷たい謎の物体から逃げようとしてもケイに頭を鷲掴みにされ、地面にめり込んでしまいそうになるほど強く抑えられる。
針が体内に侵入し、そこから流れてくる液体。
謎の液体が体中に回る。それに絶望していると清音が慰めようとカンダタの頭を撫でる。
「今、何を注入されたと思う?」
からり、とカンダタの鼻先に注射器が転がる。清音が落としたものだ。
針に付着した残り香はどろどろと甘かった。一度、嗅いだことのあるものだ。できればかぎたくないものだ。
「夢見草か」
「正解」
清音が満足気に笑ったのが声色でわかる。
「これはね素敵な悪夢が見れるとってもスリルな薬なんだよ」
注射のせいか、真下には沸騰した血の沼があるにも関わらず、手足が冷たくなっていく。
「ケイの餌にもちょっとずつ混ぜたの。そしたら嫌な過去を思い出したり、未来を想像して不安になったから安心させたくていっぱい話しかけていっぱい抱きしめたの」
「洗脳だろ」
「もう!だから違うってば」
頬を膨らませてあざとく言っているが、行っているのはそういう尊厳を踏み躪る外道だ。
「でも草を上げすぎちゃってね。現実と悪夢の区別がついていないの。時々、ケイが凶暴化しても許してね」
全身が震えてきた。寒く、歯と歯がぶつかり合う。
「カンダタのは特別で即効性があるの」
何も言わず震えカンダタの反応はもうすぐ悪夢に落ちるのだと教えていた。
「悪夢へいってらっしゃい」
それは蝶男の声に聞こえた。
瑠璃との合流を望むならば、ケイたちから逃げないといけない。赤眼の少年との再会を望むなら清音について行くしかない。
漠然としている間に清音はこちらへと歩みよる。近づきながらポケットに手を入れている。
何かを握っている。警戒したカンダタは一歩退いた後、泥女子に向かって跳ねた。
高く跳んできたカンダタの真下で捉えようとする扇風機女子。彼女は逃げるカンダタをすぐに捉えられるよう待機していたのだろう。なので、急に跳びこちらへと着地しようとしても慌てる素振りを見せなかった。
だからといって扇風機女子に基本的な戦闘はできない。動きも鈍間なままだ。
落下するカンダタの足首に触れたが、それを軽く払い、もう片足で泥女子の頭あたりを蹴った。
細い岩場の道に重たい頭部が垂れる。カンダタは上乗りになり、垂れている頭が上がろうとしていたのでファンを書こう柵を鷲掴みにし、岩場に叩きつけた。
鉄の柵が歪み、中のファンが割れ、罅の線が引かれる。
カンダタは立ち上がり、その場から逃げようとするの扇風機女子の手がカンダタの衣服を引っ張る。すぐに振り払おうとしてもしっかりと握られた上、握力は無駄に強かった。
カンダタが数秒立ち止まっている間、清音が蜘蛛の巣の岩場を飛び跳ねながらポケットから握り拳を出す。
殴る動作ではない。開いた拳からは深緑色の細かい粉が放たれた。
粉が口鼻に吸い込まれ、呼吸器官は異物を取り除ぞこうと咳を繰り出す。
閉じられた視界では何がどうなっているのかわからない。足裏から地面の感触がなくなったので滑ってしまったのだと体感でそれは伝わった。
素早く動いたケイがカンダタの腕を捕え、足場に戻す。
助けたわけではない。捕まっただけだ。
ケイの腕から逃げようと暴れてみるものの、落下寸前までいった身体は思うように動かず、地面に抑えられる。
「くそっ離せ!」
声で伝え怒鳴っても相手は従わない。それでも悪態を吐きたくなる。はかない抵抗だ。
清音は鼻歌を流しながら上着のポケットから怪しげな箱を取り出していた。中にあるのは注射器と液体が入ったガラス製の筒である。
液体を筒から注射器に入れ、先端の針を取り付ける。
冷たい針の先端が首筋に触れた。目が開けられないので過剰に反応してしまう。
大きく首を振り、冷たい謎の物体から逃げようとしてもケイに頭を鷲掴みにされ、地面にめり込んでしまいそうになるほど強く抑えられる。
針が体内に侵入し、そこから流れてくる液体。
謎の液体が体中に回る。それに絶望していると清音が慰めようとカンダタの頭を撫でる。
「今、何を注入されたと思う?」
からり、とカンダタの鼻先に注射器が転がる。清音が落としたものだ。
針に付着した残り香はどろどろと甘かった。一度、嗅いだことのあるものだ。できればかぎたくないものだ。
「夢見草か」
「正解」
清音が満足気に笑ったのが声色でわかる。
「これはね素敵な悪夢が見れるとってもスリルな薬なんだよ」
注射のせいか、真下には沸騰した血の沼があるにも関わらず、手足が冷たくなっていく。
「ケイの餌にもちょっとずつ混ぜたの。そしたら嫌な過去を思い出したり、未来を想像して不安になったから安心させたくていっぱい話しかけていっぱい抱きしめたの」
「洗脳だろ」
「もう!だから違うってば」
頬を膨らませてあざとく言っているが、行っているのはそういう尊厳を踏み躪る外道だ。
「でも草を上げすぎちゃってね。現実と悪夢の区別がついていないの。時々、ケイが凶暴化しても許してね」
全身が震えてきた。寒く、歯と歯がぶつかり合う。
「カンダタのは特別で即効性があるの」
何も言わず震えカンダタの反応はもうすぐ悪夢に落ちるのだと教えていた。
「悪夢へいってらっしゃい」
それは蝶男の声に聞こえた。
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