65 / 574
1章 神様が作った実験場
魂のプログラム 13
しおりを挟む
そう思い至り、女性に背を向けてドアノブを握る。いざ、出ようとした時にハクは短く吠えてあたしの心臓は跳ね上がった。
今にも動き出しそうな試験体の前で吠えないでほしい。
ハクを責めようと口を開くとドアの向こうから話し声が聞こえてきた。
「あの囚人はまだ見つからないのか」
「賢い奴みたいでさ。でも、追い詰めてるのは確かさ。すぐに解決する」
光弥と弥だ。ハクはこれを警告していたのね。
ドアに耳をあてて、二人の会話を聞く。
「それより、処分はやめないか?。あれは珍しい型をしているんだから試験体にするべきだ」
光弥が何かしらに抗議している。囚人と言っていたから、多分カンダタについてね。
「何度も話しただろ。あれは処分だ。あの穢れは輪廻でも洗い落とせない」
「だったら封印すればいい。ハイヨウスイに入れてさ」
「あんなもの一つあるだけで手一杯だ。あそこに入れても押し戻されるだけだしな」
「たった一つの魂だせ?ハイヨウスイほどの恨みもない。そこまで恐れる理由もないだろ」
「いいから黙って従え!」
廊下だけでなく、あたしたちがいる部屋にまで怒鳴り声が響く。怒声の矛先があたしでもないのに身体が強張った。あたしに接していたあの優しい弥とは別人だと思えてしまう。
「お前はなんの為に作られたんだ!答えてみろ!」
「あんたに従うため」
光弥はうんざりとした様子で答える。小さく弱々しい声をしていた。
「そうだ!お前は!従わないといけないんだ!」
「何度も聞かされた」
「だったら!口答えをするな!」
「別に、口答えは」
肌を打たれたような破裂音が響く。ような、じゃないわね。実際にビンタされた音だわ。弥は深呼吸をして怒りを抑える。
「やることは?」
「囚人の確保、そして処分」
そうして、二人は歩き出して足音が遠くなる。
あたしはわずかにドアを開けて2人の背中を見守る。光弥は近くの部屋に入り、弥は真っ直ぐに進む。
カンダタの処分と言っていたわね。保管でも実験でもない処分。そして、カンダタを捕える役目を担っているのが光弥。あとを付けるなら光弥ね。
弥が去ったのを確認すると素早く動いて光弥と同じ部屋に入る。
さっきまでいた白い部屋と違ってその部屋には人らしさがあった。
並んだ本棚に整理されていない資料本、漫画。スナック菓子のこびりついた油の臭い。光弥の作業場みたいね。本棚の向こうには白い部屋と同じデスクワークと見覚えのある黒い着物。
カンダタだわ。すでに捕まっているじゃない。何やってんのよ。
高さ・幅が2mの本棚は部屋の両端に3台ずつ、デスクワークに向かって整列している。
本棚の陰に隠れると背を縮めて奥を伺う。カンダタは膝下から足先までしか見えない。
光弥はデスクワークの前に座ってぶつくさ呟いてキーボードをたたく。ハードウェアが一台、デスクトップが2台、ノートパソコンが1台といった陣容でその隣には可愛らしい紺色の子狐のぬいぐるみがあった。
それでも机の上には多くのスペースが余っているはずなのに光弥の仕事机は食べかけのチップス袋と捨てずに溜まった空き缶で空白が埋まっていた。清潔感のあった白いデスクワークは遠くへ行ってしまったようね。
あたしはできるだけ厚い本を手に取って足音をたてないように光弥に近づく。彼はパソコンに夢中で侵入者が真後ろにいるあたしに気付いていない。
鈍感な光弥に本の角を向けて、後頭部へと降り下げた。
侵入者の奇襲に光弥は前のめりに倒れ込み、キーボードはかしゃりと音をたて、チップス袋と空き缶は机から転がる。
何事かと振り向く光弥の横顔に力一杯を詰め込んだ厚い本のビンタを食らわす。爽快な音が響いて力の流れのまま光弥は床へと落ちる。
合間を許さない2連撃。正直、ここまでうまくいくとは思わなかったわね。映画や海外ドラマみたいにすんなり殴られて寝てしまうなんて都合が良すぎる。
起きる様子はない。雑なあたしの策はうまくいったと考えていいのよね。
今にも動き出しそうな試験体の前で吠えないでほしい。
ハクを責めようと口を開くとドアの向こうから話し声が聞こえてきた。
「あの囚人はまだ見つからないのか」
「賢い奴みたいでさ。でも、追い詰めてるのは確かさ。すぐに解決する」
光弥と弥だ。ハクはこれを警告していたのね。
ドアに耳をあてて、二人の会話を聞く。
「それより、処分はやめないか?。あれは珍しい型をしているんだから試験体にするべきだ」
光弥が何かしらに抗議している。囚人と言っていたから、多分カンダタについてね。
「何度も話しただろ。あれは処分だ。あの穢れは輪廻でも洗い落とせない」
「だったら封印すればいい。ハイヨウスイに入れてさ」
「あんなもの一つあるだけで手一杯だ。あそこに入れても押し戻されるだけだしな」
「たった一つの魂だせ?ハイヨウスイほどの恨みもない。そこまで恐れる理由もないだろ」
「いいから黙って従え!」
廊下だけでなく、あたしたちがいる部屋にまで怒鳴り声が響く。怒声の矛先があたしでもないのに身体が強張った。あたしに接していたあの優しい弥とは別人だと思えてしまう。
「お前はなんの為に作られたんだ!答えてみろ!」
「あんたに従うため」
光弥はうんざりとした様子で答える。小さく弱々しい声をしていた。
「そうだ!お前は!従わないといけないんだ!」
「何度も聞かされた」
「だったら!口答えをするな!」
「別に、口答えは」
肌を打たれたような破裂音が響く。ような、じゃないわね。実際にビンタされた音だわ。弥は深呼吸をして怒りを抑える。
「やることは?」
「囚人の確保、そして処分」
そうして、二人は歩き出して足音が遠くなる。
あたしはわずかにドアを開けて2人の背中を見守る。光弥は近くの部屋に入り、弥は真っ直ぐに進む。
カンダタの処分と言っていたわね。保管でも実験でもない処分。そして、カンダタを捕える役目を担っているのが光弥。あとを付けるなら光弥ね。
弥が去ったのを確認すると素早く動いて光弥と同じ部屋に入る。
さっきまでいた白い部屋と違ってその部屋には人らしさがあった。
並んだ本棚に整理されていない資料本、漫画。スナック菓子のこびりついた油の臭い。光弥の作業場みたいね。本棚の向こうには白い部屋と同じデスクワークと見覚えのある黒い着物。
カンダタだわ。すでに捕まっているじゃない。何やってんのよ。
高さ・幅が2mの本棚は部屋の両端に3台ずつ、デスクワークに向かって整列している。
本棚の陰に隠れると背を縮めて奥を伺う。カンダタは膝下から足先までしか見えない。
光弥はデスクワークの前に座ってぶつくさ呟いてキーボードをたたく。ハードウェアが一台、デスクトップが2台、ノートパソコンが1台といった陣容でその隣には可愛らしい紺色の子狐のぬいぐるみがあった。
それでも机の上には多くのスペースが余っているはずなのに光弥の仕事机は食べかけのチップス袋と捨てずに溜まった空き缶で空白が埋まっていた。清潔感のあった白いデスクワークは遠くへ行ってしまったようね。
あたしはできるだけ厚い本を手に取って足音をたてないように光弥に近づく。彼はパソコンに夢中で侵入者が真後ろにいるあたしに気付いていない。
鈍感な光弥に本の角を向けて、後頭部へと降り下げた。
侵入者の奇襲に光弥は前のめりに倒れ込み、キーボードはかしゃりと音をたて、チップス袋と空き缶は机から転がる。
何事かと振り向く光弥の横顔に力一杯を詰め込んだ厚い本のビンタを食らわす。爽快な音が響いて力の流れのまま光弥は床へと落ちる。
合間を許さない2連撃。正直、ここまでうまくいくとは思わなかったわね。映画や海外ドラマみたいにすんなり殴られて寝てしまうなんて都合が良すぎる。
起きる様子はない。雑なあたしの策はうまくいったと考えていいのよね。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
最強陛下の育児論〜5歳児の娘に振り回されているが、でもやっぱり可愛くて許してしまうのはどうしたらいいものか〜
楠ノ木雫
ファンタジー
孤児院で暮らしていた女の子リンティの元へ、とある男達が訪ねてきた。その者達が所持していたものには、この国の紋章が刻まれていた。そう、この国の皇城から来た者達だった。その者達は、この国の皇女を捜しに来ていたようで、リンティを見た瞬間間違いなく彼女が皇女だと言い出した。
言い合いになってしまったが、リンティは皇城に行く事に。だが、この国の皇帝の二つ名が〝冷血の最強皇帝〟。そして、タイミング悪く首を撥ねている瞬間を目の当たりに。
こんな無慈悲の皇帝が自分の父。そんな事実が信じられないリンティ。だけど、あれ? 皇帝が、ぬいぐるみをプレゼントしてくれた?
リンティがこの城に来てから、どんどん皇帝がおかしくなっていく姿を目の当たりにする周りの者達も困惑。一体どうなっているのだろうか?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。
目覚めると彼は真っ白な空間にいた。
動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。
神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。
龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。
六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。
神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。
気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる