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1章 神様が作った実験場
魂のプログラム 6
しおりを挟む囚獄の窓枠から黄金色の蓮が揺れる。
どんな構造になっているのかカンダタには到底理解できないが、この座敷牢は池の中にあるらしい。水音と蓮はそれだけを教えていた。
一度、窓から外を見てみようと試みたが、できなかった。窓枠は高く、手を伸ばしても跳ねても届かない。壁を登ろうにも窪みや罅もない壁では登りようがない。
高い窓枠の金の蓮は嫌味なほどに美しく現状に抗うカンダタを見下す。埃っぽい空気と変えられていない畳が更にカンダタを惨めにさせた。
鉄格子の外には椅子に座った見張りが一人。驚くことに8頭身の鶏がカンダタを見張っていた。カンダタには無関心で叫んでも走っても跳ねても目線は変わらず書物を読みふける。
そんなもので見張りが務まるのかと囚人側から言うのも変わっているが、それを言っても奴は無言を貫くだろう。そもそも、カンダタがここから逃げたとしても行く先はない。
カンダタが現在いるのはハザマというところらしい。大体の説明は一通り聞いた。光弥と名乗った男は常に笑顔でそれでいて、奴もこちらを見下した様子で話していた。
あの時のことを思い出すと腹の中が煮えてくるようなふつふつと湧き上がってくる激情があった。
「空の穴、ここで俺を待っている人がいるはずなんだ。彼女はここにいるはず」
「なるほどね」
にんまりとした癪に障る笑みを浮かべた光弥は頼んでもいないのに自身の解釈をカンダタに伝える。
「その女性は存在しないよ。あんたの頭はいくつかのプログラムで組み込んである。その中に一定の場所へ向かうように使命感のコードを入力してあるんだ。そのプログラムとあんたの妄想が混ざって、待ち人がいると思い込んだみたいだね」
プログラム、コード。カンダタには聞き慣れない単語だ。だが、彼らがカンダタに何をしたのかは、なんとなくだが掴めた。要は、覚えていいないうちに頭の中をいじられたということだ。はい、そうですか、と受け入れられるはずがなかった。
「そんなはずない。俺は彼女がいると思って」
「ならさ、その女性思い出せる?どんな約束をした?その時の風景は?相手の名前は?」
答えられなかった。カンダタの中で、長年支え続けていた、自我を繋ぎとめていたものが、崩れていく感覚がそこにあった。
ほら、見ろと。光弥は嘲笑う。
「人間、死んだ後も忘れるものさ。よくあるんだ。元々あった記憶や好みの異性とかがプログラムと混ざって妄想が現実だと勘違いすること。あんたの好みがその妄想に反映されたんだろ」
そんなはずない。彼女はいた。
「まぁ、ショックは大きいよな。でも、平気さ。すぐに処分するから」
「処分?」
光弥が発する単語はどれも不快なものばかりだ。ただ、それだけは特に不吉に聞こえた。
「わかりやすく言うとな、魂を輪廻に流さずに基板、魂の核の部分なんだけどな、そこを砕いて魂そのものを分解するんだ。あんたが受けたショックもなくなるわけさ」
「お前らは何様だ。他人の頭をいじって地獄に落として。まるで子供遊びだ」
覇気を失くしたカンダタは枯れた草木の声をしていた。弱くて細い声しかでなくても、目の前の理不尽を受け入れそうになったとしても、言わずにはいられなかった。
「仏様だよ。人間は塊人をそう呼んでるぜ」
なるほど。どこかの坊主の言っていた通りだ。信じる者は救われる。悪人は人ではなくなる。仏の玩具というわけだ。
怒りも涙も出ないのはそれすらも忘れてしまったからなのか。それとも怒りや涙も頭をいじられて失くしたのか。
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