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1章 神様が作った実験場
彼女の日常について 7
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やっぱり、この夢はおかしい。肌寒さ、足から伝わる水の感触、歩くたびに響く水音。全てにおいてリアルだった。夢だからリアルだと思ってしまうのかしら。
夢か現実かの区別がわからなくなったとき、1つの扉があたしたちを待ち構えていた。白い鬼は中へ入るよう促す。
どこかの青狸がだしそうなこの扉。一枚のドアが水上にたっているだけで中へ入ろうにもどこにも繋がってないから中にも入りようがない。
それでも白い鬼は期待の眼でこちらを見つめる。
これは夢よ。なんでもありなんだわ。もし、悪夢になりそうだったら覚めればいいだけ。
古びた金属のドアノブを握る。年季の入った金具は独特な音をたててドアは開いた。
そこにあるのは4畳ほどのひと部屋。古く忘れ去られた生活感があった。窓の外は夕焼けの風景を切り取って、室内を赤く染める。木製の机、戸棚とタンス、古いダルマストーブが片隅にある。家具にも部屋の角にも溜まった埃や蜘蛛の古巣やらが充満して、時間の経過を物語る。
最も生活感を演出させていたのは人だった。机と向かい合っていてあたしに背を向けている。薄暗くて、子細な部分までは認識できない。細く項垂れたその様は年老いた男性だとわかった。
「コウベニ」
男性が呟く。弱々しい声をしていたせいでうまく聞き取れなかった。少し間を置いたあと、今度ははっきりとした声で話す。
「久しぶりだね。やっと来てくれた」
なにそれ。老人の知り合いなんていないわよ。
「あたしはあなたを知らない」
そう言い放っても男性は弱々しく笑って、そして咳き込む。
「歳はとりたくないな」
「誰なの?」
「君が目覚める前にタンスの引き戸を」
話が通じていないようね。聞こえていないのかしら。
もしかしたら、話しかけられたとあたしが勘違いしたのかも。今のあたしは透明人間でこれは老人の独り言なのかも。
そう推測をたててみたけれど、白い鬼はあたしの背中を小突いてタンスへと押す。
「わかったわよ」
何度も小突かれればその意思は伝わる。こいつはタンスの中身を見せたいようね。
ドアから歩いてタンスへと向かう。タンスは机の隣あり、老人の姿がはっきりとあたしの瞳に映される。その容貌にあたしは慄き、短く小さな悲鳴を上げた。
老人は白骨化した遺体だった。左脚を失くしていて、背つきの椅子にもたれかかっている。彼の声だと思っていたものは机に置かれたラジオからだった。
何十年も経っているみたいね。蜘蛛の巣が張ってあるもの。
「ハサミを持って。糸は君が」
ラジオから男性の声が届く。
驚いたけれど、一先ずその声に従ってタンスの引き戸を開ける。中には黄ばんだ和紙の包みと赤錆色のハサミ。裁縫でよく使われる握るタイプの和バサミね。和紙の包みには何か固い球体が隠されているみたいだった。
声はハサミと言っていから、こちらを持つ。
「そのハサミは、けい、げん、にひ、つよ、べ、にの」
ラジオの声にノイズが混じり、途切れ途切れになっていく。電車の音がどこからともなく遠くからやってきた。ラジオの声は鉄の車輪の音でかき消される。
何もない暗闇に放り出されて、電車の音が唐突に止まる。すると、車掌のアナウンスが流れて到着した駅名を知らせる。その駅名は終点の駅だった。
慌てて起き上がり、電車を出る。着いた駅名を確認してまた絶望に暮れる。あたしはうたた寝をして、降りるはずの駅を通り過ぎてしまっていた。時刻を確認してみても、スマホの時計は19時を指している。
溜め息をついて反対ホームへと向かう。
夢か現実かの区別がわからなくなったとき、1つの扉があたしたちを待ち構えていた。白い鬼は中へ入るよう促す。
どこかの青狸がだしそうなこの扉。一枚のドアが水上にたっているだけで中へ入ろうにもどこにも繋がってないから中にも入りようがない。
それでも白い鬼は期待の眼でこちらを見つめる。
これは夢よ。なんでもありなんだわ。もし、悪夢になりそうだったら覚めればいいだけ。
古びた金属のドアノブを握る。年季の入った金具は独特な音をたててドアは開いた。
そこにあるのは4畳ほどのひと部屋。古く忘れ去られた生活感があった。窓の外は夕焼けの風景を切り取って、室内を赤く染める。木製の机、戸棚とタンス、古いダルマストーブが片隅にある。家具にも部屋の角にも溜まった埃や蜘蛛の古巣やらが充満して、時間の経過を物語る。
最も生活感を演出させていたのは人だった。机と向かい合っていてあたしに背を向けている。薄暗くて、子細な部分までは認識できない。細く項垂れたその様は年老いた男性だとわかった。
「コウベニ」
男性が呟く。弱々しい声をしていたせいでうまく聞き取れなかった。少し間を置いたあと、今度ははっきりとした声で話す。
「久しぶりだね。やっと来てくれた」
なにそれ。老人の知り合いなんていないわよ。
「あたしはあなたを知らない」
そう言い放っても男性は弱々しく笑って、そして咳き込む。
「歳はとりたくないな」
「誰なの?」
「君が目覚める前にタンスの引き戸を」
話が通じていないようね。聞こえていないのかしら。
もしかしたら、話しかけられたとあたしが勘違いしたのかも。今のあたしは透明人間でこれは老人の独り言なのかも。
そう推測をたててみたけれど、白い鬼はあたしの背中を小突いてタンスへと押す。
「わかったわよ」
何度も小突かれればその意思は伝わる。こいつはタンスの中身を見せたいようね。
ドアから歩いてタンスへと向かう。タンスは机の隣あり、老人の姿がはっきりとあたしの瞳に映される。その容貌にあたしは慄き、短く小さな悲鳴を上げた。
老人は白骨化した遺体だった。左脚を失くしていて、背つきの椅子にもたれかかっている。彼の声だと思っていたものは机に置かれたラジオからだった。
何十年も経っているみたいね。蜘蛛の巣が張ってあるもの。
「ハサミを持って。糸は君が」
ラジオから男性の声が届く。
驚いたけれど、一先ずその声に従ってタンスの引き戸を開ける。中には黄ばんだ和紙の包みと赤錆色のハサミ。裁縫でよく使われる握るタイプの和バサミね。和紙の包みには何か固い球体が隠されているみたいだった。
声はハサミと言っていから、こちらを持つ。
「そのハサミは、けい、げん、にひ、つよ、べ、にの」
ラジオの声にノイズが混じり、途切れ途切れになっていく。電車の音がどこからともなく遠くからやってきた。ラジオの声は鉄の車輪の音でかき消される。
何もない暗闇に放り出されて、電車の音が唐突に止まる。すると、車掌のアナウンスが流れて到着した駅名を知らせる。その駅名は終点の駅だった。
慌てて起き上がり、電車を出る。着いた駅名を確認してまた絶望に暮れる。あたしはうたた寝をして、降りるはずの駅を通り過ぎてしまっていた。時刻を確認してみても、スマホの時計は19時を指している。
溜め息をついて反対ホームへと向かう。
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