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5章 恋焦がれ巡る地獄旅行
逃走の果て 7
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止まっていたあたしは動き出し、ホールの中心から近くの鏡を目指す。
ケイは頭上のものに目をやるとあたしを追いかけずに清音を担いで、あたしとは逆方向に走る。
あたしもハクも自身の感情に振り回されて、頭上でうるさくなるそれに鈍感になっていた。
ダンスホールの天井にあるのは大型のクリスタルシャンデリア。それが左端から右端へと大きく振られている。
シャンデリアに乗り、揺らしていたのは鉄夫人だった。第6層にいる限り、彼女はどこにでも現れる。
天井からすり抜けた鉄夫人はシャンデリアに乗りかかり、その重量で鎖が引き千切られる。
繋がりを失ったシャンデリアはあたしの近くで落下して、そこで生じた風圧や衝突した床の振動で身体を崩して倒れる。
砕けたガラスがあたしに飛んできて、無数の掠り傷をつけた。落下したときの衝撃音が聴覚を犯す。その耳鳴りのせいですぐに起き上がるのは困難だった。黒蝶の拒絶反応のせいだ。
世界が揺らぐ。いや、揺らいでいるのは世界じゃなくてあたしの目だ。
焦点がはっきりとしない視界にあたしを見下ろす影があった。そいつはシャンデリアの亡骸に立っている。ケイだ。清音が落とした仮面を律儀に拾っていたみたいで少し欠けた仮面をつけている。
その後ろにはケイよりも大きい鉄夫人がいる。
あたしは顔を隠せる物を持っていない。ケイも鉄夫人もあたしをターゲットとして捉え、あたしはすぐに起き上がれない。
「ハ、ク」
舌が回っていないように感じる。ちゃんと発音できたのかわからない。
ケイは沈黙してあたしを見下ろす。さっきみたいな怒声はない。けれど、首や腕には興奮し、力んでてきた血脈が浮きでていた。
静寂に佇むケイは内に憎悪を滾らせる。背後にいる鉄夫人は暗闇に隠れたあたしを手探りで探す。
頭がふらつく。不具合が生じた平衡感覚に立ち上がるのも困難だ。
ケイがシャンデリアから跳ねて、鉄夫人の手がこちらに伸びる。
そうした絶望的な風景が一変したのはハクが間に入ってあたしをさらったから。
百数十年分の怒りを晴らせと誘う本能を振り払い、あたしを選んでくれた。
清音からあたしの所へと駆けてきたハクは覆い被さり、そのままあたしを連れて、鏡まで駆け抜けようとする。
ケイにハクが見えていない。ケイからしてみれば立ち上がれもしないあたしが後方に引っ張られるように動いているように見えるかもしれない。
その様子に戸惑いはしたけれど、ケイは大理石の床に着地してそのまましゃがむ。
ケイの頭上を鉄夫人の手が通り過ぎる。鉄夫人もハクが見えていないけれど、関係ない。
鉄夫人の鋭く長い爪はハクの背を引っ掻いた。たったそれだけなのにハクの背は深く抉られた。
傷がついたハクは鳴き声すら上げることなく、あたしを抱き上げて、上へと向かう。
ぐらついて混乱するあたしはハクから流れる液体だけを見つめる。
ハクは手負いになるも鉄夫人が獲物を外したのは変わりない。もう一度、手が伸ばされる。
ハクは痛む背中を無視して身体を跳ばす。あと1、2歩のところで、最後に聞いたのはケイの雄叫びだった。
ケイは頭上のものに目をやるとあたしを追いかけずに清音を担いで、あたしとは逆方向に走る。
あたしもハクも自身の感情に振り回されて、頭上でうるさくなるそれに鈍感になっていた。
ダンスホールの天井にあるのは大型のクリスタルシャンデリア。それが左端から右端へと大きく振られている。
シャンデリアに乗り、揺らしていたのは鉄夫人だった。第6層にいる限り、彼女はどこにでも現れる。
天井からすり抜けた鉄夫人はシャンデリアに乗りかかり、その重量で鎖が引き千切られる。
繋がりを失ったシャンデリアはあたしの近くで落下して、そこで生じた風圧や衝突した床の振動で身体を崩して倒れる。
砕けたガラスがあたしに飛んできて、無数の掠り傷をつけた。落下したときの衝撃音が聴覚を犯す。その耳鳴りのせいですぐに起き上がるのは困難だった。黒蝶の拒絶反応のせいだ。
世界が揺らぐ。いや、揺らいでいるのは世界じゃなくてあたしの目だ。
焦点がはっきりとしない視界にあたしを見下ろす影があった。そいつはシャンデリアの亡骸に立っている。ケイだ。清音が落とした仮面を律儀に拾っていたみたいで少し欠けた仮面をつけている。
その後ろにはケイよりも大きい鉄夫人がいる。
あたしは顔を隠せる物を持っていない。ケイも鉄夫人もあたしをターゲットとして捉え、あたしはすぐに起き上がれない。
「ハ、ク」
舌が回っていないように感じる。ちゃんと発音できたのかわからない。
ケイは沈黙してあたしを見下ろす。さっきみたいな怒声はない。けれど、首や腕には興奮し、力んでてきた血脈が浮きでていた。
静寂に佇むケイは内に憎悪を滾らせる。背後にいる鉄夫人は暗闇に隠れたあたしを手探りで探す。
頭がふらつく。不具合が生じた平衡感覚に立ち上がるのも困難だ。
ケイがシャンデリアから跳ねて、鉄夫人の手がこちらに伸びる。
そうした絶望的な風景が一変したのはハクが間に入ってあたしをさらったから。
百数十年分の怒りを晴らせと誘う本能を振り払い、あたしを選んでくれた。
清音からあたしの所へと駆けてきたハクは覆い被さり、そのままあたしを連れて、鏡まで駆け抜けようとする。
ケイにハクが見えていない。ケイからしてみれば立ち上がれもしないあたしが後方に引っ張られるように動いているように見えるかもしれない。
その様子に戸惑いはしたけれど、ケイは大理石の床に着地してそのまましゃがむ。
ケイの頭上を鉄夫人の手が通り過ぎる。鉄夫人もハクが見えていないけれど、関係ない。
鉄夫人の鋭く長い爪はハクの背を引っ掻いた。たったそれだけなのにハクの背は深く抉られた。
傷がついたハクは鳴き声すら上げることなく、あたしを抱き上げて、上へと向かう。
ぐらついて混乱するあたしはハクから流れる液体だけを見つめる。
ハクは手負いになるも鉄夫人が獲物を外したのは変わりない。もう一度、手が伸ばされる。
ハクは痛む背中を無視して身体を跳ばす。あと1、2歩のところで、最後に聞いたのはケイの雄叫びだった。
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