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5章 恋焦がれ巡る地獄旅行
永久凍土都市 16
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カンダタは清音にありきたりな態度を見せながら激情を鎮ませる。
カンダタの思考は「第5層を生き抜く」と同時に「清音の動向観察」に向く。
清音は兎の被り物をかぶり、瑠璃はケイから渡された仮面をつける。
「あたしが先に行くわ」
次に先頭切ると言い出す。
「清音のあとに付け」
「え、でも」
それを提案すると清音は不満を漏らす。
頭に被り物をつけてれば、鉄夫人はすぐに襲ってこない。吟味する時間を作る。
ひとつ前のビルでカンダタが身体を張って証明した。なので、瑠璃と清音を先にいかせても危険はすぐにこない。
清音を説得し、不満は残るものの瑠璃の後ろに行かせる。
カンダタたちが立っていたのは資料室の中であった。
瑠璃と清音はそこから出て、カンダタとケイは扉から2人の様子を眺める。オフィスに入っていくのを確認し、カンダタも廊下に出る。
鉄夫人に存在を悟られるよう壁際に寄り、オフィスに入った瑠璃たちを見守る。
清音は瑠璃の袖を掴み、ぴったりとくっついて歩いている。そこにも鉄夫人は佇み、瑠璃たちに視線を受け続けている。瑠璃は鉄夫人からの圧を受け止めながらオフィスを見渡す。
目当てのものはない。すると瑠璃と鉄夫人の目線が合う。
姿見がなければ留まる理由もない。清音は袖を引っ張り戻るよう促す。目当てのものがないなら戻りたくなるのが心情だ。
だというのに瑠璃は鉄夫人との睨み合いをやめようとしない。
見守っているカンダタもケイも焦る。鉄夫人は襲わないのではない。襲うまでの時間が長くなるだけだ。
瑠璃の考えがわからず、助けに入るかカンダタが悩んでいると時間切れを知らせる鐘の音が鳴る。
その時、瑠璃が捉えたのは姿見だった。鉄夫人の後方にある。
鉄夫人は手を伸ばす。清音は腰を抜かして転び、瑠璃は走り出して鉄夫人の掌をかい潜る。
ビルの崩壊を告げる振動はすでに始まっていた。作業していた囚人たちは次々と強い振動によって倒れていった。
その中で瑠璃は走る姿勢を維持していた。鬼の牙
も囚人の悲鳴も意識の外にあった。彼女が見据えているのは1つしかなかった。
ケイは清音を庇いながら走っているのでどうしても遅くなる。瑠璃はそうした気遣いもしない。
亀裂が広がる。この亀裂が超えられない溝になる前に瑠璃は姿見を潜る。床が傾き、カンダタの脚はがくんと崩れ、膝がつきそうになる。
手を前に突き出し、体勢を保ちながらほつれそうな足で一歩でも多く進む。
崩れる情景が流れ、瞬きする間もなく変わっていく。
カンダタの頭上で風が切る。鉄夫人が腕を振るい、砂利を鷲掴みように押し寄せる囚人をまとめて捕える。
囚人たちの絶叫を聞き流し、カンダタは姿見を潜る。
体勢が崩れかけた状態で走っていたカンダタは潜ったその直後に膝がつき、コンクリートに擦り付ける。そのあとに清音を抱えたケイが姿見を潜り、転がっているカンダタを一度だけ踏みつけ、目の前で着地する。
カンダタは背中についた足跡の痛みを紛らわそうと摩る。
そうしたやりとりにも瑠璃は目もくれず、すでに廊下を走り出していた。
「待ちなさい!瑠璃!」
清音の怒鳴り声は被り物でくぐもった。それが瑠璃にまで届いているかは判断できないが、こちらは全く気にしないと彼女の背中が語っていた。
清音の怒声に戸惑いつつも、カンダタは瑠璃を追う。すると、鐘の音が鳴る。
早すぎる。まだ着いたばかりだ。瑠璃がそれを予測していたのだろうか。
瑠璃は何も言わなかった。その予測を立てていたなら短い単語でも伝えていそうのだが、それをしなかった。
どこまでも読めない瑠璃の考え。カンダタは疑惑よりも戸惑いといった感情が強かった。
清音が蝶男の手駒になっているのは確かだ。なら、瑠璃のあの行動は、清音から離れようとしているのか。
今更になってやるだろうか。今だからやるのだろうか。
推測を広げたいが、現状がそれを許さない。ビルの崩壊は始まっており、それから逃れようとする囚人の大群が地響きを起こしている。
カンダタの思考は「第5層を生き抜く」と同時に「清音の動向観察」に向く。
清音は兎の被り物をかぶり、瑠璃はケイから渡された仮面をつける。
「あたしが先に行くわ」
次に先頭切ると言い出す。
「清音のあとに付け」
「え、でも」
それを提案すると清音は不満を漏らす。
頭に被り物をつけてれば、鉄夫人はすぐに襲ってこない。吟味する時間を作る。
ひとつ前のビルでカンダタが身体を張って証明した。なので、瑠璃と清音を先にいかせても危険はすぐにこない。
清音を説得し、不満は残るものの瑠璃の後ろに行かせる。
カンダタたちが立っていたのは資料室の中であった。
瑠璃と清音はそこから出て、カンダタとケイは扉から2人の様子を眺める。オフィスに入っていくのを確認し、カンダタも廊下に出る。
鉄夫人に存在を悟られるよう壁際に寄り、オフィスに入った瑠璃たちを見守る。
清音は瑠璃の袖を掴み、ぴったりとくっついて歩いている。そこにも鉄夫人は佇み、瑠璃たちに視線を受け続けている。瑠璃は鉄夫人からの圧を受け止めながらオフィスを見渡す。
目当てのものはない。すると瑠璃と鉄夫人の目線が合う。
姿見がなければ留まる理由もない。清音は袖を引っ張り戻るよう促す。目当てのものがないなら戻りたくなるのが心情だ。
だというのに瑠璃は鉄夫人との睨み合いをやめようとしない。
見守っているカンダタもケイも焦る。鉄夫人は襲わないのではない。襲うまでの時間が長くなるだけだ。
瑠璃の考えがわからず、助けに入るかカンダタが悩んでいると時間切れを知らせる鐘の音が鳴る。
その時、瑠璃が捉えたのは姿見だった。鉄夫人の後方にある。
鉄夫人は手を伸ばす。清音は腰を抜かして転び、瑠璃は走り出して鉄夫人の掌をかい潜る。
ビルの崩壊を告げる振動はすでに始まっていた。作業していた囚人たちは次々と強い振動によって倒れていった。
その中で瑠璃は走る姿勢を維持していた。鬼の牙
も囚人の悲鳴も意識の外にあった。彼女が見据えているのは1つしかなかった。
ケイは清音を庇いながら走っているのでどうしても遅くなる。瑠璃はそうした気遣いもしない。
亀裂が広がる。この亀裂が超えられない溝になる前に瑠璃は姿見を潜る。床が傾き、カンダタの脚はがくんと崩れ、膝がつきそうになる。
手を前に突き出し、体勢を保ちながらほつれそうな足で一歩でも多く進む。
崩れる情景が流れ、瞬きする間もなく変わっていく。
カンダタの頭上で風が切る。鉄夫人が腕を振るい、砂利を鷲掴みように押し寄せる囚人をまとめて捕える。
囚人たちの絶叫を聞き流し、カンダタは姿見を潜る。
体勢が崩れかけた状態で走っていたカンダタは潜ったその直後に膝がつき、コンクリートに擦り付ける。そのあとに清音を抱えたケイが姿見を潜り、転がっているカンダタを一度だけ踏みつけ、目の前で着地する。
カンダタは背中についた足跡の痛みを紛らわそうと摩る。
そうしたやりとりにも瑠璃は目もくれず、すでに廊下を走り出していた。
「待ちなさい!瑠璃!」
清音の怒鳴り声は被り物でくぐもった。それが瑠璃にまで届いているかは判断できないが、こちらは全く気にしないと彼女の背中が語っていた。
清音の怒声に戸惑いつつも、カンダタは瑠璃を追う。すると、鐘の音が鳴る。
早すぎる。まだ着いたばかりだ。瑠璃がそれを予測していたのだろうか。
瑠璃は何も言わなかった。その予測を立てていたなら短い単語でも伝えていそうのだが、それをしなかった。
どこまでも読めない瑠璃の考え。カンダタは疑惑よりも戸惑いといった感情が強かった。
清音が蝶男の手駒になっているのは確かだ。なら、瑠璃のあの行動は、清音から離れようとしているのか。
今更になってやるだろうか。今だからやるのだろうか。
推測を広げたいが、現状がそれを許さない。ビルの崩壊は始まっており、それから逃れようとする囚人の大群が地響きを起こしている。
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