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5章 恋焦がれ巡る地獄旅行
永久凍土都市 8
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代案はないかかと考えるも何も思い浮かばない。
「黒子女を引きずった時、動きは鈍かったわね」
瑠璃はカンダタを実験体として話を進めている。なんとか自分が死なない策を練りたい。
「被り物はどうする?」
「なくてもいいわよ」
死ぬ予定のない瑠璃はそう言えるが、カンダタとしてはよくない。
あの鉄の処女はオフィスで作業する囚人たちに反応していない。だが、黒子女は捕えに来た。彼女には被り物がないからだ。
今から彼女の前に行こうとしているのだから被り物は必要だ。そうでないと犬死にだ。
「できれば死にたくないな」
「ならどうすんのよ」
上の階では被り物の奪い合いをしている。このフロアの囚人は鉄の処女が見張っている。どちらも奪い取るのは困難だ。
いや、不可能と言うわけではない。カンダタとケイがオフィスに侵入し、2人分の被り物を奪う。鉄の処女は動きが鈍い。素早く動けば追いつかれないかもしれない。
「本当に被り物があれば安全なわけ?」
カンダタが思案している横で瑠璃は別の疑問が浮かんでいた。
「被り物があるから鉄の処女は反応しない。なら囚人たちはあそこで作業する必要はないわよね」
鏡の破片を懐にしまい、立ち上がると瑠璃は続けた。
「鉄の処女が反応しないのは、条件が2つあって、1つ目は被り物、2つ目はデスクでの作業、じゃないの?」
瑠璃の推測は大体当たっているようにも思える。囚人の行動は、デスクで作業をし、怪我を負ってまでも被り物を奪う。必ず、この2つのどちらかだ。そして作業する囚人に被り物をつけていないものはいない。
「そうしたら、被り物があっても身動きが取れないな」
「猫の姿のケイなら関係なくバレないんじゃないですかね?」
清音が名案だと言った顔で声を弾ませた。
さすがに無理がある。カンダタと瑠璃は呆れながらケイを見る。
そうして気づくのだ。ケイの顔にも猫を模した半面の仮面があることを。
「一応、被り物よね」
囚人がつける被り物は頭の天辺から首までを隠すものしかなく、ケイのような顔半分を晒した仮面を鉄の夫人がどう判定するか難しいところだ。
「行くのはカンダタね」
やはり、そうなるのか。
「犬死しないことを祈るわ」
心にも思っていないことを言う彼女は非情だ。
「ケイも問題は無いわね?」
確定したと瑠璃は話を進めている。異論がないケイは手を後ろに回し、紐を解いて仮面を外す。
「いつ見ても不気味ね」
隠されていた上半分の顔には目から額までがない。それらがある場所は一つの黒い空洞となっていた。
カンダタも初めて見た時は肝が冷えた。塊人は人間の容姿に花やら羽やらと付け足されているものが多いが、欠陥しているものは珍しいと光弥が言っていた。
ケイを作った主人はちゃんとした顔を作ってやれなかったのか。
不憫に思うが、そう思っているのはカンダタだけで、本人は欠損した顔に負の感情は抱いていないようだった。嫌厭する瑠璃の言葉にも感情が揺らぐ様子は一切なく、無言で仮面をカンダタに差し出す。
諦め悪く、差し出されたもの断る文句を脳内で縫ってみたが、ひと欠片すら見つかりそうもない。
大げさな溜息を吐き、「渋々やるのだ」と周知させる。
仮面の紐を頭に回す。堅い木の感触と桂の匂いがする。視界は狭くなった視界にうんざりと肩を下げた。
「似合いますよ」
励ましにもならない賛辞を清音からもらい、オフィスに侵入した。
「黒子女を引きずった時、動きは鈍かったわね」
瑠璃はカンダタを実験体として話を進めている。なんとか自分が死なない策を練りたい。
「被り物はどうする?」
「なくてもいいわよ」
死ぬ予定のない瑠璃はそう言えるが、カンダタとしてはよくない。
あの鉄の処女はオフィスで作業する囚人たちに反応していない。だが、黒子女は捕えに来た。彼女には被り物がないからだ。
今から彼女の前に行こうとしているのだから被り物は必要だ。そうでないと犬死にだ。
「できれば死にたくないな」
「ならどうすんのよ」
上の階では被り物の奪い合いをしている。このフロアの囚人は鉄の処女が見張っている。どちらも奪い取るのは困難だ。
いや、不可能と言うわけではない。カンダタとケイがオフィスに侵入し、2人分の被り物を奪う。鉄の処女は動きが鈍い。素早く動けば追いつかれないかもしれない。
「本当に被り物があれば安全なわけ?」
カンダタが思案している横で瑠璃は別の疑問が浮かんでいた。
「被り物があるから鉄の処女は反応しない。なら囚人たちはあそこで作業する必要はないわよね」
鏡の破片を懐にしまい、立ち上がると瑠璃は続けた。
「鉄の処女が反応しないのは、条件が2つあって、1つ目は被り物、2つ目はデスクでの作業、じゃないの?」
瑠璃の推測は大体当たっているようにも思える。囚人の行動は、デスクで作業をし、怪我を負ってまでも被り物を奪う。必ず、この2つのどちらかだ。そして作業する囚人に被り物をつけていないものはいない。
「そうしたら、被り物があっても身動きが取れないな」
「猫の姿のケイなら関係なくバレないんじゃないですかね?」
清音が名案だと言った顔で声を弾ませた。
さすがに無理がある。カンダタと瑠璃は呆れながらケイを見る。
そうして気づくのだ。ケイの顔にも猫を模した半面の仮面があることを。
「一応、被り物よね」
囚人がつける被り物は頭の天辺から首までを隠すものしかなく、ケイのような顔半分を晒した仮面を鉄の夫人がどう判定するか難しいところだ。
「行くのはカンダタね」
やはり、そうなるのか。
「犬死しないことを祈るわ」
心にも思っていないことを言う彼女は非情だ。
「ケイも問題は無いわね?」
確定したと瑠璃は話を進めている。異論がないケイは手を後ろに回し、紐を解いて仮面を外す。
「いつ見ても不気味ね」
隠されていた上半分の顔には目から額までがない。それらがある場所は一つの黒い空洞となっていた。
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不憫に思うが、そう思っているのはカンダタだけで、本人は欠損した顔に負の感情は抱いていないようだった。嫌厭する瑠璃の言葉にも感情が揺らぐ様子は一切なく、無言で仮面をカンダタに差し出す。
諦め悪く、差し出されたもの断る文句を脳内で縫ってみたが、ひと欠片すら見つかりそうもない。
大げさな溜息を吐き、「渋々やるのだ」と周知させる。
仮面の紐を頭に回す。堅い木の感触と桂の匂いがする。視界は狭くなった視界にうんざりと肩を下げた。
「似合いますよ」
励ましにもならない賛辞を清音からもらい、オフィスに侵入した。
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