484 / 618
5章 恋焦がれ巡る地獄旅行
絡まる思慕 9
しおりを挟む
身体が回転しても、目に映るのは暗闇ばかりでどこに落ちたのか未だにわからない。
湿った地面に寝転がったまま、瑠璃と清音を視認する。清音もカンダタのように線を彷徨わせる。次に瑠璃を探そうとするが、暗闇が彼女を隠す。
混乱した頭を抱えながら立ち上がる。滑降は短く、落ちたのが柔らかい地面だったので怪我はなかった。
瑠璃を探そうと見渡す。瑠璃の姿は壊落した管の傍で転がっていた。腕を取り起き上がらせる。
瑠璃の傍まで駆けるよりも先にカンダタは疑問が浮かんだ。
暗闇で狭くなった視界が広くなっている。明るくなっているのだ。それを認識した途端、周囲の暗闇が徐々に取り払われ、視界が広がっていく。
薄藤色の淡い光に照らされた区域は鬼の餌場より狭く、天井も低く造られていた。
この区域には餌を欲しがる鬼はいない。しかし、夢見草が群生し、カンダタたちを囲んでいる。湿った柔らかい地面は苔で全面覆われている。
夢見草の根が苔を這ってカンダタたちを捕らえる。その前にここから脱出しなければならない。
しかし、大量の蛆が這ってくるように隠れていた囚人が盛り上がった苔から現れた。
管の影に潜む1体の囚人が瑠璃の腕を掴む。彼女は倒れたまま動かない。また気絶している。
カンダタは清音の腕を離し、瑠璃の下へと全力で走るとその勢いを保ったまま囚人の腹下を蹴り上げる。軽い囚人は一発の蹴りでも飛ばされる。
瑠璃を起こす。使命感に似たものが働き働いていた。
その前に閉じられていた目蓋がぱっと上がり、覚醒した瑠璃は起き上がる。
不調で悩まされていたはずの瑠璃は壊落した管を俊敏な動きで登る。先ほどまで足取りが覚束なかった彼女とは思えない。
「瑠璃! 1人でどこ行くの?」
カンダタのところまで駆け寄った清音が叫ぶようにと問いかけるも瑠璃は答えずに登り続ける。
カンダタには瑠璃の考えが理解できた。確かに地面にいるよりはパイプに上にいたほうが安全だ。筋肉のない囚人は登れないからだ。
「登れるか?」
清音に確認してみる。このやりとりもカンダタはもどかしかった。そうしている間にも囚人たちは迫ってきている。この焦燥が時となって声色に表れていた。
清音ははカンダタと管を交互に見る。狼狽していた。急に壊落した管と声が這ったカンダタに思考が止まっていた。
「早くしろ。登らないと死ぬぞ」
命令と脅しを短い文で伝え、清音を促す。彼女はおののきながらも瑠璃を真似して管を登る。
カンダタは清音の腰を押し上げた。手助けもあり、清音はなんとかツルツル滑るパイプを登りきった。すぐさまカンダタも続く。
管の下で蛆になって群がる囚人を眺める。やはり、囚人は登れず、パイプの下でもどかしく溜まっていく。
次に目線を向けたのは瑠璃だった。カンダタと同じように薄藤色の光で照らされ区域を眺めていた。背筋を伸ばし、佇む姿から弱りきった様子はない。、芯のある小生意気な娘がそこにいた。
落ちた時に頭でも打って調子が戻ったのだろうか。
頭痛の原因は何だったのだろうか。清音の想像通り夢見草が原因なのだろうか。
どれも可能性の話ばかりで確信と言えるものがない。もしもの話だけを考えればそれこそ猜疑心でおかしくなりそうだ。
「カンダタ」
下で呻く囚人たちを見下ろしながら瑠璃は徐ろに聞いてくる。
「あたしは瑠璃よね?」
変わった質問だ。彼女の真意が汲み取れない。
瑠璃は口を閉ざす。静寂をまとったような感情を映す瞳。それに人間味と言うものがない。
「瑠璃じゃなかったら誰なんだ?」
少なくともカンダタの目の前にいるのは瑠璃以外の何者でもない。
瑠璃は目蓋を閉じると深呼吸する。そして「私は瑠璃」と噛み締めるように呟いた。
「目が覚めたか?」
「これだけ騒がしいとゆっくり眠れないわ」
いつもの嫌味だ。
湿った地面に寝転がったまま、瑠璃と清音を視認する。清音もカンダタのように線を彷徨わせる。次に瑠璃を探そうとするが、暗闇が彼女を隠す。
混乱した頭を抱えながら立ち上がる。滑降は短く、落ちたのが柔らかい地面だったので怪我はなかった。
瑠璃を探そうと見渡す。瑠璃の姿は壊落した管の傍で転がっていた。腕を取り起き上がらせる。
瑠璃の傍まで駆けるよりも先にカンダタは疑問が浮かんだ。
暗闇で狭くなった視界が広くなっている。明るくなっているのだ。それを認識した途端、周囲の暗闇が徐々に取り払われ、視界が広がっていく。
薄藤色の淡い光に照らされた区域は鬼の餌場より狭く、天井も低く造られていた。
この区域には餌を欲しがる鬼はいない。しかし、夢見草が群生し、カンダタたちを囲んでいる。湿った柔らかい地面は苔で全面覆われている。
夢見草の根が苔を這ってカンダタたちを捕らえる。その前にここから脱出しなければならない。
しかし、大量の蛆が這ってくるように隠れていた囚人が盛り上がった苔から現れた。
管の影に潜む1体の囚人が瑠璃の腕を掴む。彼女は倒れたまま動かない。また気絶している。
カンダタは清音の腕を離し、瑠璃の下へと全力で走るとその勢いを保ったまま囚人の腹下を蹴り上げる。軽い囚人は一発の蹴りでも飛ばされる。
瑠璃を起こす。使命感に似たものが働き働いていた。
その前に閉じられていた目蓋がぱっと上がり、覚醒した瑠璃は起き上がる。
不調で悩まされていたはずの瑠璃は壊落した管を俊敏な動きで登る。先ほどまで足取りが覚束なかった彼女とは思えない。
「瑠璃! 1人でどこ行くの?」
カンダタのところまで駆け寄った清音が叫ぶようにと問いかけるも瑠璃は答えずに登り続ける。
カンダタには瑠璃の考えが理解できた。確かに地面にいるよりはパイプに上にいたほうが安全だ。筋肉のない囚人は登れないからだ。
「登れるか?」
清音に確認してみる。このやりとりもカンダタはもどかしかった。そうしている間にも囚人たちは迫ってきている。この焦燥が時となって声色に表れていた。
清音ははカンダタと管を交互に見る。狼狽していた。急に壊落した管と声が這ったカンダタに思考が止まっていた。
「早くしろ。登らないと死ぬぞ」
命令と脅しを短い文で伝え、清音を促す。彼女はおののきながらも瑠璃を真似して管を登る。
カンダタは清音の腰を押し上げた。手助けもあり、清音はなんとかツルツル滑るパイプを登りきった。すぐさまカンダタも続く。
管の下で蛆になって群がる囚人を眺める。やはり、囚人は登れず、パイプの下でもどかしく溜まっていく。
次に目線を向けたのは瑠璃だった。カンダタと同じように薄藤色の光で照らされ区域を眺めていた。背筋を伸ばし、佇む姿から弱りきった様子はない。、芯のある小生意気な娘がそこにいた。
落ちた時に頭でも打って調子が戻ったのだろうか。
頭痛の原因は何だったのだろうか。清音の想像通り夢見草が原因なのだろうか。
どれも可能性の話ばかりで確信と言えるものがない。もしもの話だけを考えればそれこそ猜疑心でおかしくなりそうだ。
「カンダタ」
下で呻く囚人たちを見下ろしながら瑠璃は徐ろに聞いてくる。
「あたしは瑠璃よね?」
変わった質問だ。彼女の真意が汲み取れない。
瑠璃は口を閉ざす。静寂をまとったような感情を映す瞳。それに人間味と言うものがない。
「瑠璃じゃなかったら誰なんだ?」
少なくともカンダタの目の前にいるのは瑠璃以外の何者でもない。
瑠璃は目蓋を閉じると深呼吸する。そして「私は瑠璃」と噛み締めるように呟いた。
「目が覚めたか?」
「これだけ騒がしいとゆっくり眠れないわ」
いつもの嫌味だ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
死にたくない、若返りたい、人生やり直したい、還暦親父の異世界チート無双冒険譚
克全
ファンタジー
田中実は60歳を前にして少し心を病んでいた。父親と祖母を60歳で亡くした田中実は、自分も60歳で死ぬのだと思ってしまった。死にたくない、死ぬのが怖い、永遠に生きたいと思った田中実は、異世界行く方法を真剣に探した。過去に神隠しが起ったと言われている場所を巡り続け、ついに異世界に行ける場所を探し当てた。異世界に行って不老不死になる方法があるかと聞いたら、あると言われたが、莫大なお金が必要だとも言われた。田中実は異世界と現世を行き来して金儲けをしようとした。ところが、金儲け以前に現世の神の力が異世界で使える事が分かり、異世界でとんでもない力を発揮するのだった。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる