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4章 闇底で交わす小指
生命になれなかった子たち 12
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瑠璃が追いついたのはその時だった。大広間に着いた途端、目の前に転がってきたカンダタと秘密箱に驚愕する。
「30、31、32、33」
2人の様子を無視し、清音は数えながらながら仕掛けを解いていく。
「起きれる?」
一瞬の驚愕の後、瑠璃は訪ねた。カンダタは黙って頷き、身体を起こす。
「35」
「妙なカウントね。逃げたほうがよさそう」
着いたばかりの瑠璃は状況が飲み込めていない。だが、清音の様子に彼女も焦燥を抱いた。
「36」
来た道を戻ろうと踵を返す。瑠璃の足が止まった。
先程、潜ってきたはずの出入り口がなくなっている。瑠璃の前にあるのは冷たいコンクリートの壁だけだ。
「37」
「こっちだ」
驚いている時間もない。カンダタが示したのは大広間の奥にある扉だ。
カンダタと瑠璃は裸体の女性を超え、秘密箱の山を横切る。
「38」
呟く回数は秘密箱に仕掛けられた回数だった。全ての仕掛けが暴かれ、黒い箱の蓋が外れた。
「あああああっ!」
金切り声の悲鳴を上げたのは腹を裂かれ、屍となっていた裸体の女性たちであった。彼女たちのない泣き咽せる悲鳴が鍵であったかのように全ての秘密箱が一斉に開かれた。女性たちの悲鳴に耳が痛くなる。
開かれた箱からは風が吹き荒れ、カンダタたちの行く先を拒む。
立ち止まるしかなくなったカンダタは荒れ狂う風の中で清音の姿を見た。
秘密箱の頂点に立つ清音。彼女の両腕には何かが抱かれている。その表情は慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。
カンダタを声がする。
足止めされる強風の中、はっきりとした男の子の声でカンダタを呼ぶ。それは清音の方から聞こえた。
ありえない。カンダタはその場の状況も忘れ、漠然とたち竦む。
「カンダタ!」
瑠璃の怒声で我に返る。風が止んだいたことにも気づかずにいた。その間に瑠璃は扉にたどり着いており、カンダタを凝視する。
「後ろ!」
怒声だと思われていた声を警告であり、凝視していたのはカンダタの背後にあるものだった。
振り返り、背後にあるものを見上げた。
間抜けなことに、この時になるまで自身に迫っていたそれに気付けなかった。
カンダタの目前にいたのは大入道と言われるほど大きな赤子だった。
赤黒い皮膚、鼻から上までが切断されている。切断面に盛られているのは無数の胎児の死屍。その隙間から貝紫色の泥が流れている。
秘密箱から現れたのはこいつで、これが“子取り”なのだと悟る。
一歩退がり、逃避の体勢をとったのも束の間、子取りが鳴き声を上げながら、カンダタよりも大きな手の平を振るう。
子取りからしてみれば軽く払った程度だろう。それだけなのにカンダタは壁際まで飛ばされた。
胸・腹は子取りの平手打ち、背中は壁に強打する。全身に走る衝撃に意識を失いかけた。
激痛の余韻が残り、立ち上がれそうにない。すかさず、瑠璃が駆け寄ってくる。
彼女の動きが子取りの視界に入り、カンダタから瑠璃へと移される。
「マ、ママア」
自分が狙われていると気付いた瑠璃は駆ける脚を止める。
カンダタはすぐに起きれそうにない。子取りは瑠璃を標的と決めており、カンダタを抱えては逃げられない。
瑠璃はカンダタに背を向け、ことりから逃げる。
巨大な赤子が四つん這いで追う。膝と手が擦り合う度に床が振動する。
振動の先では瑠璃がドアノブをひっきりなしに回す。しかし、扉は沈黙したままだ。
床に手をついていたカンダタは痛む身体を起き上がらせようとする。
「お前のせいだよ」
頭上からカンダタを責める声を聞き、見上げる。
そこには清音がいた。いつに間にかそこにいた清音の腕には大事に抱えられた赤子がいた。
「お前なんか呼びたくなかった」
責める声は清音から発せられていた。何を言われているのか、カンダタは怪訝に眉を顰める。
「30、31、32、33」
2人の様子を無視し、清音は数えながらながら仕掛けを解いていく。
「起きれる?」
一瞬の驚愕の後、瑠璃は訪ねた。カンダタは黙って頷き、身体を起こす。
「35」
「妙なカウントね。逃げたほうがよさそう」
着いたばかりの瑠璃は状況が飲み込めていない。だが、清音の様子に彼女も焦燥を抱いた。
「36」
来た道を戻ろうと踵を返す。瑠璃の足が止まった。
先程、潜ってきたはずの出入り口がなくなっている。瑠璃の前にあるのは冷たいコンクリートの壁だけだ。
「37」
「こっちだ」
驚いている時間もない。カンダタが示したのは大広間の奥にある扉だ。
カンダタと瑠璃は裸体の女性を超え、秘密箱の山を横切る。
「38」
呟く回数は秘密箱に仕掛けられた回数だった。全ての仕掛けが暴かれ、黒い箱の蓋が外れた。
「あああああっ!」
金切り声の悲鳴を上げたのは腹を裂かれ、屍となっていた裸体の女性たちであった。彼女たちのない泣き咽せる悲鳴が鍵であったかのように全ての秘密箱が一斉に開かれた。女性たちの悲鳴に耳が痛くなる。
開かれた箱からは風が吹き荒れ、カンダタたちの行く先を拒む。
立ち止まるしかなくなったカンダタは荒れ狂う風の中で清音の姿を見た。
秘密箱の頂点に立つ清音。彼女の両腕には何かが抱かれている。その表情は慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。
カンダタを声がする。
足止めされる強風の中、はっきりとした男の子の声でカンダタを呼ぶ。それは清音の方から聞こえた。
ありえない。カンダタはその場の状況も忘れ、漠然とたち竦む。
「カンダタ!」
瑠璃の怒声で我に返る。風が止んだいたことにも気づかずにいた。その間に瑠璃は扉にたどり着いており、カンダタを凝視する。
「後ろ!」
怒声だと思われていた声を警告であり、凝視していたのはカンダタの背後にあるものだった。
振り返り、背後にあるものを見上げた。
間抜けなことに、この時になるまで自身に迫っていたそれに気付けなかった。
カンダタの目前にいたのは大入道と言われるほど大きな赤子だった。
赤黒い皮膚、鼻から上までが切断されている。切断面に盛られているのは無数の胎児の死屍。その隙間から貝紫色の泥が流れている。
秘密箱から現れたのはこいつで、これが“子取り”なのだと悟る。
一歩退がり、逃避の体勢をとったのも束の間、子取りが鳴き声を上げながら、カンダタよりも大きな手の平を振るう。
子取りからしてみれば軽く払った程度だろう。それだけなのにカンダタは壁際まで飛ばされた。
胸・腹は子取りの平手打ち、背中は壁に強打する。全身に走る衝撃に意識を失いかけた。
激痛の余韻が残り、立ち上がれそうにない。すかさず、瑠璃が駆け寄ってくる。
彼女の動きが子取りの視界に入り、カンダタから瑠璃へと移される。
「マ、ママア」
自分が狙われていると気付いた瑠璃は駆ける脚を止める。
カンダタはすぐに起きれそうにない。子取りは瑠璃を標的と決めており、カンダタを抱えては逃げられない。
瑠璃はカンダタに背を向け、ことりから逃げる。
巨大な赤子が四つん這いで追う。膝と手が擦り合う度に床が振動する。
振動の先では瑠璃がドアノブをひっきりなしに回す。しかし、扉は沈黙したままだ。
床に手をついていたカンダタは痛む身体を起き上がらせようとする。
「お前のせいだよ」
頭上からカンダタを責める声を聞き、見上げる。
そこには清音がいた。いつに間にかそこにいた清音の腕には大事に抱えられた赤子がいた。
「お前なんか呼びたくなかった」
責める声は清音から発せられていた。何を言われているのか、カンダタは怪訝に眉を顰める。
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