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4章 闇底で交わす小指
生命になれなかった子たち 10
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更に進むと1つの扉がカンダタたちの前に現れた。
回廊は一本道で他に分かれ道といったものはなかった。
瑠璃がドアノブを回し、押して引いてを繰り返すも開く気配はなかった。苛立った瑠璃がドアを蹴る。当たり前だが、扉は開かない。
カンダタが前に出て、瑠璃の立ち位置を交換する。ドアノブを回してみればあっさりと開いた。
鍵がかかっていたわけでもなく、閂がつっかえていた感触もなかった。
不思議に眉を寄せたカンダタに対し、瑠璃は細かいことだと気にせずに扉を潜る。
扉を越えても同じような一本道が続いていた。違っていたのは裸体の女性はいなくなり、黒い箱が乱雑に、無造作に、積み重ねられ投げ捨てられていた。
「箱を開けるとことりが出る、ねぇ」
瑠璃が河原で言われた忠告を呟いた。
「これがその箱だとしたら、中にことりがいるのよね?」
瑠璃の素朴な疑問はカンダタも抱いていたものだ。
ことりと言われて連想するのは小鳥ぐらいしかない。
箱から小鳥が現れる。可愛い演出ではある。わざわざ河原の子たちが忠告したのだ。可愛いだけでは済まされないだろう。
カンダタは一瞬、躊躇うも黒い箱を手に持った。
それは手の平に収まる大きさで、持っただけでは何も起きなかった。
木彫りの箱に触れ、探る。軽く振ってみればカラカラとした音がなる。
「秘密箱だ」
そこに感嘆とした声色が混じっていたのはカンダタも見たのが一度きりしかなかったからだ。
「何それ?」
瑠璃はわからないと説明を求める。
「箱に仕掛けがあって正しい手順で開けないと中身が取れないようになっているんだ」
「あ、ネットで見たことがある。確かパズルみたいな箱でしょ?」
秘密箱は手順を知っている者しか開けられないように作られたものだ。要するにカンダタのような盗人対策だ。
盗まれたくない物が入っているならば、貴重品、宝珠、小判と思い浮かぶのが通常だ。少なくとも盗人のカンダタはそれらを連想する。
「開けるなって言われたの忘れた?」
非難する瑠璃。目を光らせたカンダタを見逃さなかった。
性格の悪い瑠璃でさえ、悪事を働くカンダタをよく思わないらしい。
「わかってる。昔の性だ」
地獄のような血みどろの胚羊水に宝があるわけではなく、あったとしてもこの世界には無価値なものだ。何よりもこれを開ければどんな厄災があるのかわからない。
「昔の性、ねぇ。昔と言う割には今も物欲しそうに見えるけれど?」
嫌らしく笑っているのは非難できる箇所を突けるからだ。悪戯の感覚でカンダタの反応を楽しんでいる。実に性格が悪い。
居心地が悪くなったので話題を変えようと先程、閃いたことを話す。
「もしかして、“子”を“取る”で子取りじゃないか?」
河原の子たちが話した「コトリ」が子取りにならば納得できそうだ。
「コトリバコね」
カンダタの発想に瑠璃が思い出したかのように喋る。
「そういう都市伝説があるのよ。確か、昔の集落に伝わる古い呪術、みたいな?」
瑠璃の口調は自信がなく、曖昧だ。詳しくは知らないようだった。
「箱を開けると周囲の女子供が死ぬらしいわよ」
「物騒だな」
「カンダタの生前はそういう呪術とか聞いたことないの?」
「そんな話は聞いたことがない」
もし、カンダタが持つ箱がその類のものとするならば、元の位置に戻したほうがよさそうだ。
箱を戻して一本道の奥へと目線を向ける。明かりもない回廊の奥は暗闇しかない。
しかし、その暗闇の中で佇む人影があった。
「どうしたの?」
瑠璃には暗闇しか見えていないらしい。カンダタは目を凝らし、ぼんやりと棒立ちになっている彼女を見つめる。
「清音だ」
遠くにいるので顔までははっきりとしない。だが、背丈や服装といったものは清音のものと一致している。
「1人?」
カンダタが頷いて答えると「おかしいわね」と瑠璃が呟く。
河原の子供たちは天鳥と一緒だったと話しており、清音が1人で行動するとは考えづらかった。天鳥にで脅されているか、守られているというのが2人の推測だったからだ。
回廊は一本道で他に分かれ道といったものはなかった。
瑠璃がドアノブを回し、押して引いてを繰り返すも開く気配はなかった。苛立った瑠璃がドアを蹴る。当たり前だが、扉は開かない。
カンダタが前に出て、瑠璃の立ち位置を交換する。ドアノブを回してみればあっさりと開いた。
鍵がかかっていたわけでもなく、閂がつっかえていた感触もなかった。
不思議に眉を寄せたカンダタに対し、瑠璃は細かいことだと気にせずに扉を潜る。
扉を越えても同じような一本道が続いていた。違っていたのは裸体の女性はいなくなり、黒い箱が乱雑に、無造作に、積み重ねられ投げ捨てられていた。
「箱を開けるとことりが出る、ねぇ」
瑠璃が河原で言われた忠告を呟いた。
「これがその箱だとしたら、中にことりがいるのよね?」
瑠璃の素朴な疑問はカンダタも抱いていたものだ。
ことりと言われて連想するのは小鳥ぐらいしかない。
箱から小鳥が現れる。可愛い演出ではある。わざわざ河原の子たちが忠告したのだ。可愛いだけでは済まされないだろう。
カンダタは一瞬、躊躇うも黒い箱を手に持った。
それは手の平に収まる大きさで、持っただけでは何も起きなかった。
木彫りの箱に触れ、探る。軽く振ってみればカラカラとした音がなる。
「秘密箱だ」
そこに感嘆とした声色が混じっていたのはカンダタも見たのが一度きりしかなかったからだ。
「何それ?」
瑠璃はわからないと説明を求める。
「箱に仕掛けがあって正しい手順で開けないと中身が取れないようになっているんだ」
「あ、ネットで見たことがある。確かパズルみたいな箱でしょ?」
秘密箱は手順を知っている者しか開けられないように作られたものだ。要するにカンダタのような盗人対策だ。
盗まれたくない物が入っているならば、貴重品、宝珠、小判と思い浮かぶのが通常だ。少なくとも盗人のカンダタはそれらを連想する。
「開けるなって言われたの忘れた?」
非難する瑠璃。目を光らせたカンダタを見逃さなかった。
性格の悪い瑠璃でさえ、悪事を働くカンダタをよく思わないらしい。
「わかってる。昔の性だ」
地獄のような血みどろの胚羊水に宝があるわけではなく、あったとしてもこの世界には無価値なものだ。何よりもこれを開ければどんな厄災があるのかわからない。
「昔の性、ねぇ。昔と言う割には今も物欲しそうに見えるけれど?」
嫌らしく笑っているのは非難できる箇所を突けるからだ。悪戯の感覚でカンダタの反応を楽しんでいる。実に性格が悪い。
居心地が悪くなったので話題を変えようと先程、閃いたことを話す。
「もしかして、“子”を“取る”で子取りじゃないか?」
河原の子たちが話した「コトリ」が子取りにならば納得できそうだ。
「コトリバコね」
カンダタの発想に瑠璃が思い出したかのように喋る。
「そういう都市伝説があるのよ。確か、昔の集落に伝わる古い呪術、みたいな?」
瑠璃の口調は自信がなく、曖昧だ。詳しくは知らないようだった。
「箱を開けると周囲の女子供が死ぬらしいわよ」
「物騒だな」
「カンダタの生前はそういう呪術とか聞いたことないの?」
「そんな話は聞いたことがない」
もし、カンダタが持つ箱がその類のものとするならば、元の位置に戻したほうがよさそうだ。
箱を戻して一本道の奥へと目線を向ける。明かりもない回廊の奥は暗闇しかない。
しかし、その暗闇の中で佇む人影があった。
「どうしたの?」
瑠璃には暗闇しか見えていないらしい。カンダタは目を凝らし、ぼんやりと棒立ちになっている彼女を見つめる。
「清音だ」
遠くにいるので顔までははっきりとしない。だが、背丈や服装といったものは清音のものと一致している。
「1人?」
カンダタが頷いて答えると「おかしいわね」と瑠璃が呟く。
河原の子供たちは天鳥と一緒だったと話しており、清音が1人で行動するとは考えづらかった。天鳥にで脅されているか、守られているというのが2人の推測だったからだ。
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