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4章 闇底で交わす小指
狂う計画 7
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あたしは光弥たちに視線を戻す。
彼らの会話の中で適当に相打ちをしながら花夫はこちらを、というよりはカンダタを睨んでいる。
「あいつ、カンダタを見てるわね」
あの目線は敵意ね。
「前、閉じ込められた時に少しな」
カンダタも思い当たる節があるみたいで、歯切れの悪い返しが来る。
「何の因縁かはどうでもいいけれど、利用できると思わない?」
カンダタは顎に手を当て長考した後、あたしから離れると光弥の隣に立つ。
「久しぶりだな。覚えてるか?」
挑発的な嘲笑を花夫に向ける。
唐突に割って入ったカンダタに半魚人は困惑し、光弥は話を止めた。
花夫はふつふつと上がる憎悪を膨らませながらカンダタに近寄る。
「自慢の鼻を折って悪かったよ。その花は新しく生けたのか?前のほうが似合っていたな。すまないことをしたな」
謝罪する気のない相手を馬鹿にした口調。
挑発的な言動に花夫は怒りが抑えきれなくなり、腕を伸ばしてカンダタの胸倉を掴み、自分の方へと引き寄せる。
半魚人が騒動を止めようと2人の間に入ろうとするも白刀の刃が飛んできて半魚人の額を貫いた。
荒縄を解いたケイが半面の仮面を外し、顔の空洞が丸見えになっていた。あの空洞から白い刀を取り出したらしい。
ケイは仮面をつけ直す。
カンダタも花夫もその場にいた者は皆、衝撃的な出来事に呆けてしまった。
いち早く動いたのは花夫で、彼は空いてるって手で懐へと伸ばす。
「端末を取らせるな」
光弥の一言でフリーズしていたカンダタが拘束された両手で花夫の手首を捕らえ、腕はカンダタの脇に挟まれると手首を軽く捻られる。
花夫の手に握られていた端末の板は牢の中で転がり、あたしは透かさずそれを拾う。
端末ディスプレイには「緊急事態伝令:黄」と表示されていた。
「これが送信されると俺たちが逃げたとことバレる」
「これで安心ってわけでもないでしょ」
「一先ずは、ね」
あたしは光弥に端末を渡す。
そうしているうちに花夫はカンダタからケイに移され、ケイは抵抗できない花夫の首を手折る。
カンダタはいつに間にか盗んだ鍵で牢を開け、ケイは半魚人の額から白い刀を引き抜くとあたしたちの荒縄を斬った。
「助けに行こう」
ケイの目的は清音の救出にすり変わっていた。
恐らく、清音は弥のところにいる。
「お願いだから、弥の所に行っても暴れないでよ」
「場合による」
ケイの変わりようがない意思。憂鬱になりそう。
階段を上ると白一色の通路に出た。
確か、地上が寝殿造りの建築物になっていて、地下が現代に近い内装になっていた。
あたしたちは地下にいるのね。
これから光弥の案内で弥の書斎に移動する。交代の見張りが来る前に迅速に着かないといけない。
あたしたちは駆け足になって向かう。
その最中で引っかかるものがあった。
ハザマはケイを把握していなかった。
もし、あたしが弥の立場にいるとしたらケイを隔離するし、より強固に拘束する。できることなら白い刀を収奪する。
あたしだったらそこまでの警戒をする。実際にケイは荒縄を自力で解いた。
天鳥の反応からして、あたしが十手を持っているのを把握していた。そこまで知っていたのにケイに関しては警戒がなかった。
ちょっとした疑問。なのに引っかかる。
天井の電灯が途絶え、薄暗い通路に差し掛かる。カンダタはそこで脚を止めた。
通路の左側がガラス張りになっている。ガラスの向こうにはあるのは歯車が連なった塔があり、歯車の合間から青白い光の玉が浮いて出る。
輪廻だ。これを見るのは2度目になる。
呑気に輪廻を眺めている場合じゃない。
「ちょっとカンダタ」
責める声色で話しかけるとカンダタは我に返って「悪い」と一言だけ返す。
そうして、走り出すと光弥が説明をする。
「まぁ、立ち止まる気持ちはわかるよ。輪廻には引力があるから」
魂は輪廻の引力によって導かれているらしい。カンダタが立ち止まったのはその引力に惹かれたからだ。
輪廻は塊人にとって資源でもあり、毒である。塊人は引力によって溶かされるから隔離して、地上に出ないよう封印しているそうだ。
それでも完全に遮断できず、僅かな引力はハザマや塊人を徐々に溶かしている。
「だから、改築、増築、生産を日々繰り返しているんだよ」
そんな説明は後でいいから、今は走るのに集中してほしい。
光弥の話を聞き流してあたしたちはエレベーターの前に着く。
彼らの会話の中で適当に相打ちをしながら花夫はこちらを、というよりはカンダタを睨んでいる。
「あいつ、カンダタを見てるわね」
あの目線は敵意ね。
「前、閉じ込められた時に少しな」
カンダタも思い当たる節があるみたいで、歯切れの悪い返しが来る。
「何の因縁かはどうでもいいけれど、利用できると思わない?」
カンダタは顎に手を当て長考した後、あたしから離れると光弥の隣に立つ。
「久しぶりだな。覚えてるか?」
挑発的な嘲笑を花夫に向ける。
唐突に割って入ったカンダタに半魚人は困惑し、光弥は話を止めた。
花夫はふつふつと上がる憎悪を膨らませながらカンダタに近寄る。
「自慢の鼻を折って悪かったよ。その花は新しく生けたのか?前のほうが似合っていたな。すまないことをしたな」
謝罪する気のない相手を馬鹿にした口調。
挑発的な言動に花夫は怒りが抑えきれなくなり、腕を伸ばしてカンダタの胸倉を掴み、自分の方へと引き寄せる。
半魚人が騒動を止めようと2人の間に入ろうとするも白刀の刃が飛んできて半魚人の額を貫いた。
荒縄を解いたケイが半面の仮面を外し、顔の空洞が丸見えになっていた。あの空洞から白い刀を取り出したらしい。
ケイは仮面をつけ直す。
カンダタも花夫もその場にいた者は皆、衝撃的な出来事に呆けてしまった。
いち早く動いたのは花夫で、彼は空いてるって手で懐へと伸ばす。
「端末を取らせるな」
光弥の一言でフリーズしていたカンダタが拘束された両手で花夫の手首を捕らえ、腕はカンダタの脇に挟まれると手首を軽く捻られる。
花夫の手に握られていた端末の板は牢の中で転がり、あたしは透かさずそれを拾う。
端末ディスプレイには「緊急事態伝令:黄」と表示されていた。
「これが送信されると俺たちが逃げたとことバレる」
「これで安心ってわけでもないでしょ」
「一先ずは、ね」
あたしは光弥に端末を渡す。
そうしているうちに花夫はカンダタからケイに移され、ケイは抵抗できない花夫の首を手折る。
カンダタはいつに間にか盗んだ鍵で牢を開け、ケイは半魚人の額から白い刀を引き抜くとあたしたちの荒縄を斬った。
「助けに行こう」
ケイの目的は清音の救出にすり変わっていた。
恐らく、清音は弥のところにいる。
「お願いだから、弥の所に行っても暴れないでよ」
「場合による」
ケイの変わりようがない意思。憂鬱になりそう。
階段を上ると白一色の通路に出た。
確か、地上が寝殿造りの建築物になっていて、地下が現代に近い内装になっていた。
あたしたちは地下にいるのね。
これから光弥の案内で弥の書斎に移動する。交代の見張りが来る前に迅速に着かないといけない。
あたしたちは駆け足になって向かう。
その最中で引っかかるものがあった。
ハザマはケイを把握していなかった。
もし、あたしが弥の立場にいるとしたらケイを隔離するし、より強固に拘束する。できることなら白い刀を収奪する。
あたしだったらそこまでの警戒をする。実際にケイは荒縄を自力で解いた。
天鳥の反応からして、あたしが十手を持っているのを把握していた。そこまで知っていたのにケイに関しては警戒がなかった。
ちょっとした疑問。なのに引っかかる。
天井の電灯が途絶え、薄暗い通路に差し掛かる。カンダタはそこで脚を止めた。
通路の左側がガラス張りになっている。ガラスの向こうにはあるのは歯車が連なった塔があり、歯車の合間から青白い光の玉が浮いて出る。
輪廻だ。これを見るのは2度目になる。
呑気に輪廻を眺めている場合じゃない。
「ちょっとカンダタ」
責める声色で話しかけるとカンダタは我に返って「悪い」と一言だけ返す。
そうして、走り出すと光弥が説明をする。
「まぁ、立ち止まる気持ちはわかるよ。輪廻には引力があるから」
魂は輪廻の引力によって導かれているらしい。カンダタが立ち止まったのはその引力に惹かれたからだ。
輪廻は塊人にとって資源でもあり、毒である。塊人は引力によって溶かされるから隔離して、地上に出ないよう封印しているそうだ。
それでも完全に遮断できず、僅かな引力はハザマや塊人を徐々に溶かしている。
「だから、改築、増築、生産を日々繰り返しているんだよ」
そんな説明は後でいいから、今は走るのに集中してほしい。
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