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4章 闇底で交わす小指
カンダタ、生前 崩れる 2
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やはり、困難となるのは紅柘榴の説得だ。
外への恐怖が薄れたとはいえ、見えない鎖は彼女を縛っている。
それさえ、断ち切れば紅柘榴は自由だ。だが、焦ってはいけない。
俺が海辺の荒屋に着き、戸を開ける。
誰も住んでいない荒屋は埃臭くなった。そこに紙切れが折り畳まれ置かれていた。この前、来た時にはなかった。
拾ってみると影弥からの置き手紙だった。次の十五夜に松の木で待つ、と書かれてる。
それだけを頭に入れ、俺は物資を調達しに行く。
それから約束通り、俺は明後日になってから人喰い塀を訪れた。
太陽は昇り始めたばかりで紅柘榴はまだ寝ているだろう。
それでも昼までには待てなかった。
いつものように人喰い塀の中に入ると縁側の戸が開いていた。
またかと溜息をつく。人食い塀に人は寄り付かない。物騒な噂のおかげだ。
それががあったとしても女性一人だけ住むにはそれなりに不安がある。だから、戸締りだけはしっかりしてくれと言い聞かせているのに時折、それを怠っている。
俺は少しだけ開いた戸に手をかけた。
戸から覗く中の様子は薄暗く、ぼんやりとした暗闇に浮かんでいたのは肌襦袢の姿で倒れている紅柘榴だった。
血の気が引くのを体内で感じた。
「べに!」
俺は弾け飛ぶようにして戸を開け、土足も関わらずに大股で紅柘榴に駆け寄った。
彼女はうつ伏せになり、俺の呼びかけにも応えない。死人のような反応に益々、俺の体温が下がった。
ゆっくりと上半身を起こし、顔色を伺う。抱き起こした紅柘榴は冷たい。
半開きになった唇の周りには吐血の跡があり、また赤黒い跡は肌襦袢にも残されている。
「べに?」
汗の臭いがし、肌がベタついている。顔に張り付いた髪を払う。
呼吸は落ち着いている。ただ眠っているだけだろうか。
「紅柘榴?」
優しく肩を揺らす。微動だにしなかった眉に皺が寄り、短く唸る。
「べに?」
もう一度、呼ぶとと目蓋が上がり、朝焼けの光に照らされた俺を見上げる。
何があったと問い詰める前に紅柘榴の両手が上がり、俺の頬を包む。
「ひどい顔、してるね」
目を細めた紅柘榴は儚く、今にも朝焼の霞と共に消えてしまいそうだった。
紅柘榴が腕の中にいるその実感が欲しく、強く抱き締めた。
彼女の胸の奥で鳴る心音が俺の胸に伝わってくる。生命を証明するその音が弱々しく聞こえた。
彼の胸から伝わる心音が心地良い。冷えた身体を温めるように抱き締められていた。抱擁は強く少しだけ息苦しい。
身体は重く、思考は鈍い。唇は動くから苦しいと訴えようとするも彼の泣きそうな顔を見ているとそれも躊躇われた。
心配され、抱きしめられている。その事実が嬉しくてこの身を預けた。満たされる暖かさに目蓋を閉じた。
私はどのぐらい気を失っていたのだろう。
彼が来たということは日付は変わっているはず。
あの子はどうなったのかな。
私は目蓋の裏で昨日の出来事を思い出す。
外への恐怖が薄れたとはいえ、見えない鎖は彼女を縛っている。
それさえ、断ち切れば紅柘榴は自由だ。だが、焦ってはいけない。
俺が海辺の荒屋に着き、戸を開ける。
誰も住んでいない荒屋は埃臭くなった。そこに紙切れが折り畳まれ置かれていた。この前、来た時にはなかった。
拾ってみると影弥からの置き手紙だった。次の十五夜に松の木で待つ、と書かれてる。
それだけを頭に入れ、俺は物資を調達しに行く。
それから約束通り、俺は明後日になってから人喰い塀を訪れた。
太陽は昇り始めたばかりで紅柘榴はまだ寝ているだろう。
それでも昼までには待てなかった。
いつものように人喰い塀の中に入ると縁側の戸が開いていた。
またかと溜息をつく。人食い塀に人は寄り付かない。物騒な噂のおかげだ。
それががあったとしても女性一人だけ住むにはそれなりに不安がある。だから、戸締りだけはしっかりしてくれと言い聞かせているのに時折、それを怠っている。
俺は少しだけ開いた戸に手をかけた。
戸から覗く中の様子は薄暗く、ぼんやりとした暗闇に浮かんでいたのは肌襦袢の姿で倒れている紅柘榴だった。
血の気が引くのを体内で感じた。
「べに!」
俺は弾け飛ぶようにして戸を開け、土足も関わらずに大股で紅柘榴に駆け寄った。
彼女はうつ伏せになり、俺の呼びかけにも応えない。死人のような反応に益々、俺の体温が下がった。
ゆっくりと上半身を起こし、顔色を伺う。抱き起こした紅柘榴は冷たい。
半開きになった唇の周りには吐血の跡があり、また赤黒い跡は肌襦袢にも残されている。
「べに?」
汗の臭いがし、肌がベタついている。顔に張り付いた髪を払う。
呼吸は落ち着いている。ただ眠っているだけだろうか。
「紅柘榴?」
優しく肩を揺らす。微動だにしなかった眉に皺が寄り、短く唸る。
「べに?」
もう一度、呼ぶとと目蓋が上がり、朝焼けの光に照らされた俺を見上げる。
何があったと問い詰める前に紅柘榴の両手が上がり、俺の頬を包む。
「ひどい顔、してるね」
目を細めた紅柘榴は儚く、今にも朝焼の霞と共に消えてしまいそうだった。
紅柘榴が腕の中にいるその実感が欲しく、強く抱き締めた。
彼女の胸の奥で鳴る心音が俺の胸に伝わってくる。生命を証明するその音が弱々しく聞こえた。
彼の胸から伝わる心音が心地良い。冷えた身体を温めるように抱き締められていた。抱擁は強く少しだけ息苦しい。
身体は重く、思考は鈍い。唇は動くから苦しいと訴えようとするも彼の泣きそうな顔を見ているとそれも躊躇われた。
心配され、抱きしめられている。その事実が嬉しくてこの身を預けた。満たされる暖かさに目蓋を閉じた。
私はどのぐらい気を失っていたのだろう。
彼が来たということは日付は変わっているはず。
あの子はどうなったのかな。
私は目蓋の裏で昨日の出来事を思い出す。
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