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4章 闇底で交わす小指
カンダタ、生前 幸せな夢 7
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俺が影弥と名乗る人物と会ってから翌日。入江から西に進んでいた。今日は人喰い塀に行けそうにない。
紅柘榴は俺を人喰い塀から追い出す割にには俺が会いに行かないと寂しがって拗ねる。
なので、明日の紅柘榴は機嫌が悪いだろう。彼女の機嫌を直すのは大変だ。
できれば俺も彼女に会いたい。そうした強い感情を抑制してまで、俺は一際目立つ松の木を目指していた。
影弥の命令は忠告に近いものを感じた。そのぐらいの必死さがあった。だからといって信用はできない。
そもそも、拘束し、あれこれと言って理由を言わずに去る。素直に従えるはずがない。謎も多い。
一晩考えて抜いた結果、影弥が落ち合うと言った松の木まで向かう。
影弥という人物を知ろうと考えた。奴は紅柘榴と何かしらの関係を持っている。
松の木までの道のりは安定していた。山道は歩きやすく、斜行も緩やかだ。
「目立つ木だな」
松の木はすぐに目についた。樹齢百年超えていそうな立派な老木。見上げながら独り言を呟くとそれに返す者がいた。
「落ち合うには丁度いいだろう?」
そいつは松の木の裏から現れた。影弥だ。
「赤眼君と会える時間は限られているからね。なるべく、質問は少なくしてくれ」
赤眼君?色んな呼び方をされてきたが、君付けは初めてだ。
そう言いながら刀を腰から抜き、巨大な木の根に胡坐をかく。といっても左脚は動かず、木の根から垂れ下がる。
刀を腰から抜いて、隣に置いたので、こいつに敵意がないと判断する。
影弥は何者なのか?何が目的なのか?それらを聞こうととしてやめた。恐らく、はぐらかすだろう。
俺は一番知りたいものを質問する。
「紅柘榴をどうする気だ?」
「赤眼君と同じだよ。彼女を人喰い塀から解放したい。できれば、僕が指示した日にこの松の木まで連れ来てほしい」
「ここまで連れきたとしてその後は?今度はお前が監禁するのか?それにべにのことをどこで知った?彼女は塀の中で育った。外のことをほとんど知らないのに」
「たて続けに言わないでくれ。えっと、なんだっけ?彼女のことをどこで知ったか?それに関しては、なんて言えばいいのか。ちょっと難しいな」
顎に手をつけ、言葉を濁す。
「勘違いしないでくれよ。僕は説明するのが下手くそなんだ。だから、ちょっと考えさせてくれ」
前半の質問を無視して最後の質問だけを取り上げる。影弥に対する不信感が増す。
「時間が惜しいんじゃないのか」
「そうなんだが」
頭を悩ませながら答える影弥。本気で悩んでいる。
「なら、べにを松の木まで連れてきたその後は?」
このままでは進まないと判断し、質問を変える。
「紅柘榴の保護」
これに関しては即答だ。
悩んだり、即答したり、なんだか怪しい。
「それで、赤眼君の見解は?」
今までの質問を踏まえて影弥が訊ねる。
俺は自分の見解を話す。
「あんたは何かしらの事情があって人喰い塀に近づけない。その上で塀の中にいる紅柘榴を捕らえるには俺が運び屋になればいいんだ」
俺と接触した際、影弥は紅柘榴を救いたいかと聞かれた。
そんな質問してくるのは紅柘榴に対して好意を持っていると気付かれているからだ。影弥はそれを利用し、俺を運び屋として動かそうとした。後は山道で罠でも張り、運び屋は用済みになると言うわけだ。
「なるほどね」
影弥は頷く。
「前半は合ってるよ。僕は人喰い塀に近寄れない。だが、赤眼君を口車に乗せるならもっと上手く言い回すと思わないかい?」
冷静にこの見解を出せたのは影弥が「紅柘榴を救いたい」という焦燥に火を付けなかったからだ。
俺を利用するなら彼女を餌にして、焦燥を焚きつけ、冷静さをなくす。影弥はその逆のことをしている。俺の疑問を聞き、冷静に答えている。
紅柘榴は俺を人喰い塀から追い出す割にには俺が会いに行かないと寂しがって拗ねる。
なので、明日の紅柘榴は機嫌が悪いだろう。彼女の機嫌を直すのは大変だ。
できれば俺も彼女に会いたい。そうした強い感情を抑制してまで、俺は一際目立つ松の木を目指していた。
影弥の命令は忠告に近いものを感じた。そのぐらいの必死さがあった。だからといって信用はできない。
そもそも、拘束し、あれこれと言って理由を言わずに去る。素直に従えるはずがない。謎も多い。
一晩考えて抜いた結果、影弥が落ち合うと言った松の木まで向かう。
影弥という人物を知ろうと考えた。奴は紅柘榴と何かしらの関係を持っている。
松の木までの道のりは安定していた。山道は歩きやすく、斜行も緩やかだ。
「目立つ木だな」
松の木はすぐに目についた。樹齢百年超えていそうな立派な老木。見上げながら独り言を呟くとそれに返す者がいた。
「落ち合うには丁度いいだろう?」
そいつは松の木の裏から現れた。影弥だ。
「赤眼君と会える時間は限られているからね。なるべく、質問は少なくしてくれ」
赤眼君?色んな呼び方をされてきたが、君付けは初めてだ。
そう言いながら刀を腰から抜き、巨大な木の根に胡坐をかく。といっても左脚は動かず、木の根から垂れ下がる。
刀を腰から抜いて、隣に置いたので、こいつに敵意がないと判断する。
影弥は何者なのか?何が目的なのか?それらを聞こうととしてやめた。恐らく、はぐらかすだろう。
俺は一番知りたいものを質問する。
「紅柘榴をどうする気だ?」
「赤眼君と同じだよ。彼女を人喰い塀から解放したい。できれば、僕が指示した日にこの松の木まで連れ来てほしい」
「ここまで連れきたとしてその後は?今度はお前が監禁するのか?それにべにのことをどこで知った?彼女は塀の中で育った。外のことをほとんど知らないのに」
「たて続けに言わないでくれ。えっと、なんだっけ?彼女のことをどこで知ったか?それに関しては、なんて言えばいいのか。ちょっと難しいな」
顎に手をつけ、言葉を濁す。
「勘違いしないでくれよ。僕は説明するのが下手くそなんだ。だから、ちょっと考えさせてくれ」
前半の質問を無視して最後の質問だけを取り上げる。影弥に対する不信感が増す。
「時間が惜しいんじゃないのか」
「そうなんだが」
頭を悩ませながら答える影弥。本気で悩んでいる。
「なら、べにを松の木まで連れてきたその後は?」
このままでは進まないと判断し、質問を変える。
「紅柘榴の保護」
これに関しては即答だ。
悩んだり、即答したり、なんだか怪しい。
「それで、赤眼君の見解は?」
今までの質問を踏まえて影弥が訊ねる。
俺は自分の見解を話す。
「あんたは何かしらの事情があって人喰い塀に近づけない。その上で塀の中にいる紅柘榴を捕らえるには俺が運び屋になればいいんだ」
俺と接触した際、影弥は紅柘榴を救いたいかと聞かれた。
そんな質問してくるのは紅柘榴に対して好意を持っていると気付かれているからだ。影弥はそれを利用し、俺を運び屋として動かそうとした。後は山道で罠でも張り、運び屋は用済みになると言うわけだ。
「なるほどね」
影弥は頷く。
「前半は合ってるよ。僕は人喰い塀に近寄れない。だが、赤眼君を口車に乗せるならもっと上手く言い回すと思わないかい?」
冷静にこの見解を出せたのは影弥が「紅柘榴を救いたい」という焦燥に火を付けなかったからだ。
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