糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
上 下
361 / 618
3章 死神が誘う遊園地

痛みの共鳴 10

しおりを挟む
   夢から覚めるのは意外と簡単であたしが現世を思い浮かべながら白糸を引っ張るとあっさりと目が覚めた。
   パレードの時にできなかった技ができるようになっていた。
   それから数日間、あたしとカンダタはそれぞれの考えをまとめた。謎となったのは「紅柘榴の秘密」と「ハクについて」だ。
   ハクには申し訳ないと思う。ハクのことを聞きに行ったのにその目的を忘れてしまった。そんなハクは少し落ち込んでいる様子だった。
   あと夢楽土会が朝のニュースで話題になっていた。問題視されていたのは「自殺を促す洗脳があったのではないか」だ。
   会長の失踪、有名企業のCEOによる個人的な資金援助などと盛り上がる。
   因みにそのCEOとやらは魂が抜けたような廃人となっていたらしい。彼が強い信念として抱いていた「真実の愛」が砕けたのね。
   さえりは「生活に害を及ばさせない。私が必ず保障する」と語ってくれた。久しぶりに会った彼女は少しやつれていた。
   朝7時のニュースを眺めながら叔母のマーマレードがたっぷり乗ったトーストを頬張る。
   警察は真実を血眼になって探している。
   それは永遠に証明されない。魂のプログラムや夢の世界で起きた出来事はあちら側であり、現世ではありえない現象なのだから。
   「そういえば、おびとが隠していた紅柘榴の秘密だけど」
   数日間のうちにまとめていた考えの1つをカンダタとハクに告げる。
   「カンダタの話だと紅柘榴は蝶男に捕らえられていて塀の中で外の世界も知らないまま暮らしていたのよね?」
   「生前の記憶だとそうなる」
   「だとしたら彼女はカンダタが死んだ後、首と接触したことになるわね」
   そう考えるのが自然だ。首がカンダタを知っていたならば、紅柘榴から首に話した。懐かしい思い出を語るように。
   「それがなんだ?」
   「紅柘榴って何者なの?」
   「それは」
   そこまで言ってカンダタは噤む。思い悩んでいる様子はわからないと言っていた。
   蝶男が大事に隠していたもの。首が語らなかった彼女の秘密。カンダタにとっては想い人だけれど、彼女には謎が多すぎる。
   「だが、秘密を持っていた首は消滅した」
   首とは語らずに消滅した。
   「もしかしたら、手がかりになる人物がいる」
   首の話である人物が登場した。そして、その名前はケイの口からも出ていた。
   「カゲヒサ」
   大昔、首と共にハザマでテロを起こし、決別した人物。そのカゲヒサはケイを作った人物だ。
   根拠はない。首と関わりがあったなら紅柘榴ついても知っているかもしれないという勘だ。
   「カゲヒサ、影弥」
   カンダタも聞き覚えがあるみたいで名前を復唱し、歩き回る。
   すると、カンダタは何か思い出したかのようにピタリと動きを止め、口を手で覆う。明らかに動揺している。
   「思い出した、影弥」
   首が影弥についてカンダタに話していたのだろうか。それにしても動揺しすぎよね。
   「俺が紅柘榴を連れて外で暮らそうと企てた時だ」
   カンダタの話の切り口はまるで、生前の頃を語っている。
   「そんな時、助言めいたことを残した人物がいた」
   「じゃあ、カンダタ」
   言いたいことが伝わり、カンダタは頷く。
   「生前に会ってる」
   名前だけしか現れなかった人物が実はカンダタと会っていた。しかし、カンダタはそれだけじゃないと告げる。それはあたしに2度の衝撃を与える。
   「そいつ、影弥は蝶男と同じ顔をしていたんだ」


3章  死神が誘う遊園地 終
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

律と欲望の夜

冷泉 伽夜
大衆娯楽
アフターなし。枕なし。顔出しなしのナンバーワンホスト、律。 有名だが謎の多いホストの正体は、デリヘル会社の社長だった。 それは女性を喜ばせる天使か、女性をこき使う悪魔か――。 確かなことは 二足のわらじで、どんな人間も受け入れている、ということだ。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

モブな私の学園生活

結々花
ファンタジー
白山 椿(現在ミルフィー)は、異世界のモブに転生した。 ミルフィーは、学園に就職し生徒がおこす出来事を目撃。なんとなく助けたり、助けなかったりする物語。 ミルフィー「あれっ?これ乙女ゲームのイベントに似てないか?」  同僚「何やってんですか、あんた」

ハーフ&ハーフ

黒蝶
恋愛
ある雨の日、野崎七海が助けたのは中津木葉という男。 そんな木葉から告げられたのは、哀しい事実。 「僕には関わらない方がいいよ。...半分とはいえ、人間じゃないから」 ...それから2ヶ月、ふたりは恋人として生きていく選択をしていた。 これは、極々普通?な少女と人間とヴァンパイアのハーフである少年の物語。

第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門
ファンタジー
宇宙の崩壊と共に、別宇宙の神々によって魂の選別(ドラフト)が行われた。 野球ゲームの育成モードで遊ぶことしか趣味がなかった底辺労働者の男は、野球によって世界の覇権が決定される宇宙へと記憶を保ったまま転生させられる。 その宇宙の神は、自分の趣味を優先して伝説的大リーガーの魂をかき集めた後で、国家間のバランスが完全崩壊する未来しかないことに気づいて焦っていた。野球狂いのその神は、世界の均衡を保つため、ステータスのマニュアル操作などの特典を主人公に与えて送り出したのだが……。 果たして運動不足の野球ゲーマーは、マニュアル育成の力で世界最強のベースボールチームに打ち勝つことができるのか!? ※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

処理中です...