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3章 死神が誘う遊園地
十如十廻之白御魂 14
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十手の重要性など把握していない。ただ、蝶男が欲しがり、首が金庫室に封じたものならばこの現状を打開できる鍵になるだろう。
「それとも伝言か?」
咄嗟に欺いたのだ。嘘は用意していない。
「あ、その」
カンダタの挙動も蝶化ゆえのものだと解釈してくれれば良いのだが。昌次郎を一瞬だけ伺うと彼は呆れたように「使えない」と呟いた。
十手を奪う最大の機会を見極めていると心臓と血流が興奮し、黒蝶が魂を侵略してこようとする。
荒くなる呼吸も挙動の一つの捉えてくれるだろうか。
「ずいぶんと奇妙なことになってんな。自我がなくなってるはずなのに自我があって、ないフリをしてる」
光弥の台詞がカンダタの苦悩と葛藤を無駄にした。
昌次郎はカンダタを凝視し、カンダタは光弥を凝視した。虚を突かれ、怒りさえ湧かない。
一瞬だけ固まった2人。先に動いたのはカンダタだった。
カンダタは十手が握られた右手を捕らえた。手首を捻り、思わぬ痛みに十手は放される。
清音を監視していた鬼がカンダタに牙と鉤爪を剥き出し、迫る。 鬼はカンダタの脇腹を刺し、昌次郎から離される。
監視がいなくなった清音は無造作に転がった十手を見る。清音は弾かれたような反応で誰も持っていない十手を手に入れようと試みた。
そうした清音の勢いに昌次郎は同じように身を屈めた。十手を拾ったのは清音であり、鉄棒の先を昌次郎に向けて威嚇する。
光弥は思わぬ乱闘に作業を止めていた。
瑠璃の人格プログラムは完成した。あとはインストールだけであり、エンターキーを押せば済む。
左を向けば鬼とカンダタが組み合いになり、右を見れば十手を巡っておっさんと女子高生が睨み合っている。
カンダタの乱入によって力関係が変わりそうだ。光弥の態度も変わってしまう。
そうこう悩んでいるうちにカンダタが力なく項垂れた鬼を押しのけ、2人のもとへ急ぐ。あの短時間で鬼を殺してしまった。
どうしようか悩み、考えを巡らすと良案が浮かんだ。寝台の下に隠していたノートパソコンを取り出した。
鬼の息の音を止めたカンダタは身体を起こし、清音の元に急ごうとした。
しかし、脇腹からの出血によって激しく脈を打つ。項の痛みに加え、脊髄に虫が湧いてくる感覚に全身が粟立つ。
親指を噛み、衝動を抑え、立ち上がる。黒蝶に呑まれまいと抗うも徐々に蝶男の笑い声が近くなっていた。
清音は十手の先を昌次郎に向ける。暴力的になりきれない性格は怯えた虚勢が精一杯だった。
「返してもらおうか」
昌次郎は残酷なほどに冷静だ。
「来ないで!」
対して清音は取り乱した声で精一杯の威嚇をする。
「君の危害は加えない。だから返すんだ」
信じられるかと清音は首を横に振る。
いつまでこの緊張状態が続くのか。清音は恐怖で押しつぶされそうになっていた。
足元の感覚が薄れていくのを感じた。見下ろすと脚が半透明になっている。
この光景を目の当たりにするのは2度目だ。清音は光弥へと目線を上げる。
「悪いね」
目があった後、光弥はノートパソコンをくるりと回転させこちらに見せる。「現世情報帰還中」の文字と再開されたアップデート。
ゲージは急速に溜まり、清音の身体も同じ速さで消えていく。握力も失われて十手を落とす。
パーセンゲージが100になると清音は完全に消えた。彼女は最悪な時に悪夢から脱してしまった。
「それとも伝言か?」
咄嗟に欺いたのだ。嘘は用意していない。
「あ、その」
カンダタの挙動も蝶化ゆえのものだと解釈してくれれば良いのだが。昌次郎を一瞬だけ伺うと彼は呆れたように「使えない」と呟いた。
十手を奪う最大の機会を見極めていると心臓と血流が興奮し、黒蝶が魂を侵略してこようとする。
荒くなる呼吸も挙動の一つの捉えてくれるだろうか。
「ずいぶんと奇妙なことになってんな。自我がなくなってるはずなのに自我があって、ないフリをしてる」
光弥の台詞がカンダタの苦悩と葛藤を無駄にした。
昌次郎はカンダタを凝視し、カンダタは光弥を凝視した。虚を突かれ、怒りさえ湧かない。
一瞬だけ固まった2人。先に動いたのはカンダタだった。
カンダタは十手が握られた右手を捕らえた。手首を捻り、思わぬ痛みに十手は放される。
清音を監視していた鬼がカンダタに牙と鉤爪を剥き出し、迫る。 鬼はカンダタの脇腹を刺し、昌次郎から離される。
監視がいなくなった清音は無造作に転がった十手を見る。清音は弾かれたような反応で誰も持っていない十手を手に入れようと試みた。
そうした清音の勢いに昌次郎は同じように身を屈めた。十手を拾ったのは清音であり、鉄棒の先を昌次郎に向けて威嚇する。
光弥は思わぬ乱闘に作業を止めていた。
瑠璃の人格プログラムは完成した。あとはインストールだけであり、エンターキーを押せば済む。
左を向けば鬼とカンダタが組み合いになり、右を見れば十手を巡っておっさんと女子高生が睨み合っている。
カンダタの乱入によって力関係が変わりそうだ。光弥の態度も変わってしまう。
そうこう悩んでいるうちにカンダタが力なく項垂れた鬼を押しのけ、2人のもとへ急ぐ。あの短時間で鬼を殺してしまった。
どうしようか悩み、考えを巡らすと良案が浮かんだ。寝台の下に隠していたノートパソコンを取り出した。
鬼の息の音を止めたカンダタは身体を起こし、清音の元に急ごうとした。
しかし、脇腹からの出血によって激しく脈を打つ。項の痛みに加え、脊髄に虫が湧いてくる感覚に全身が粟立つ。
親指を噛み、衝動を抑え、立ち上がる。黒蝶に呑まれまいと抗うも徐々に蝶男の笑い声が近くなっていた。
清音は十手の先を昌次郎に向ける。暴力的になりきれない性格は怯えた虚勢が精一杯だった。
「返してもらおうか」
昌次郎は残酷なほどに冷静だ。
「来ないで!」
対して清音は取り乱した声で精一杯の威嚇をする。
「君の危害は加えない。だから返すんだ」
信じられるかと清音は首を横に振る。
いつまでこの緊張状態が続くのか。清音は恐怖で押しつぶされそうになっていた。
足元の感覚が薄れていくのを感じた。見下ろすと脚が半透明になっている。
この光景を目の当たりにするのは2度目だ。清音は光弥へと目線を上げる。
「悪いね」
目があった後、光弥はノートパソコンをくるりと回転させこちらに見せる。「現世情報帰還中」の文字と再開されたアップデート。
ゲージは急速に溜まり、清音の身体も同じ速さで消えていく。握力も失われて十手を落とす。
パーセンゲージが100になると清音は完全に消えた。彼女は最悪な時に悪夢から脱してしまった。
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