糸と蜘蛛

犬若丸

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3章 死神が誘う遊園地

十如十廻之白御魂 11

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   清音の消えかけていた脚が戻ってきた。
   逃げられる足が復活したことに安心するも同時にそれは現世に帰る機会を逃したことを意味する。
    光弥がアップデートを止めたせいだ。
   清音は光弥を見限っていた。なら、誰がこの窮地を救ってくれるのだろう。
   腕の中で眠る黒猫を見つめる。ケイの脚は3本のまま。ケイに頼っていられない。自分でなんとかするしかない。
   清音の頭上から線を引いた雫が垂れてきた。見上げてみると餌を前に「待て」をされている鬼がいた。
   鬼にそういった目つきで見られることに慣れてしまった。それを自覚すると清音が大切にしていた私生活の一部が崩れたようだった。
   打開する策は浮かばないのに、清音の周りで起きた出来事が頭の中で繰り返し、再生されて考えがまとまらない。
   腕の中で黒い毛の塊がもぞもぞと動きだした。ケイが目を覚ましたようだ。
   「どうなってる?」
   ケイは弱々しい声で尋ねる。
   説明しようと整理してみても、この現状をわかりやすく説明する自信がなかった。
   清音が無理に言わずとも、ケイは鬼や瑠璃、光弥などを見渡し、全てを把握する。
   鬼は4体ほどいる。1体は清音を見張り、2体は瑠璃につき、1体は昌次郎の背後に立つ。崩れた天井を見上げれば1体のバグがこちらを見つめている。
   バグは攻撃してこないらしい。してきても昌次郎が止める。地下室の上で巨体が暴れれば全員が生き埋めになってしまう。
   「瑠璃はどうなってる?」
   瑠璃は深い眠りについているのか光弥が頭にプラグを刺しても目を覚ます気配がない。
   「プログラムされるって」
   言えるのはそのぐらいしかない。
   ケイは鬼と睨み合う。鬼の喉が鳴る。鬼も生物だ。「待て」と言われても堪えられない。
   呑気に眠っていたら鬼に噛み殺される。瑠璃の自我崩壊も見過ごすわけにはいかない。
   黒猫の尻尾を揺らしてみると鬼の眼光が尻尾に合わせて左右に揺れる。動くものに反応している。
   失った脚の1本はまだ生えてこない。1体だけなら片付けられる。残りは斬れるだろうか。しかし、この脅威に挑まなければ清音も守れず、使命も果たせない。
   猫の声で鳴いてみると鬼もまた威嚇した低い唸り声で返す。黒い毛並みを逆立ちさせる。ケイの威嚇は更に野太くなり、清音は予想できてしまった展開に後退った。
   「逃げろ」
   ケイが言い放った。威嚇した唸り声のせいか棘のある声色だった。発した言葉が頭に入らないうちに清音の腕から跳ねて片割れしかない前足の爪が鬼の顔面を引っかけた。
   鬼の視界が黒い毛並みに覆われ、ケイの身体を剥がそうと頭を振るう。
   清音は逃げる機会を得るも鬼が見張る作業室から脱出しようとはしなかった。
   作業室から脱出できても悪夢からは脱出できない。いやでも理解してしまう。
   逃げる道は選ばす、光弥に向かって真っ直ぐ走る。
   逃げるよう指示していたケイはその行動に驚いていた。
   鬼が腕を振るい、捕えようとするもケイは爪を放し、床に降り立つ。そして、人の姿へと変貌させ清音を追う。
   清音が向かおうとしている所には鬼が3体もいる。そのうちの1体が私と目が合い、金切り声で叫ぶ。
   獲物に対する眼光に身が竦む。
   「走れ!」
   背後からケイの激昂。ケイが望んだ形ではないが、支援するつもりらしい。
   木目のお面を床に投げ捨て、顔の空洞から白い刀を出す。片腕だけではお面を拾う余裕もない。
   清音の速度は目の前に迫る鬼に怯えていたけど、足は進んでいた。
   ケイは地を蹴って跳ねると清音の頭上を超え、白い刀は鬼の脳天から喉奥までを貫いた。膝から崩れ落ちる鬼の真横を清音は走り去る。
   鬼と共に倒れそうになったケイは体勢を整えると両足で地に着く。
   ケイの脳内では3体の鬼を全滅させる展開を構築させていた。いくら想像しても腕一本では難しい。
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