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3章 死神が誘う遊園地
十如十廻之白御魂 8
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試し足りないのか昌次郎は首の頭部を掲げると十手の先に触れさせる。額に触れた十手は焼ける音をたてながらずぶずぶと奥に入っていく。
焼き爛れた皮膚は広がっていき、内側から脳汁が溢れて蒸発する。
昌次郎はほくそ笑みながら蒸発する様子を楽しんだ。
首はあっけなく消滅した。跡形もなく消えた首に光弥は身を震わせた。
「知りたい事は知っただろう。作業に戻れ」
昌次郎は強面な顔に戻ると光弥に命令する。
光弥は愕然としていたが命令に従う。これ以上、機嫌を損ねるわけにはいかない。
瑠璃が眠る寝台に戻り、デスクの上にあるPCの電源を入れる。何か薬でも飲まされたのか、瑠璃は未だに穏やかな寝顔だ。
「俺の言う通りに変更するんだ。いいな、少しのずれも作るな」
光弥はキーボードを叩きながら昌次郎の要望を聞く。
聖母の優しさ、従順さ、穏やかな笑顔、真実の愛、一途に昌次郎を想う恋慕。
瑠璃の個性は削れ、瑠璃にはない個性が追加される。どんどん、瑠璃から離れていく。
「記憶は?」
「全部消せ。代わりに思い出を」
作業台の引き出しから銀色に反射するディスクを取り出して光弥に差し出す。それをPCのドライブに入れ、記憶のインストールを選択する。
“記憶を上書きしますか?”
最後の警告だとメッセージを表示する。特に気を止めることもなかった。光弥は「はい」と選択する。
今眠っている姿が最後の瑠璃なるかもな。
淡々とそんなことを思った。
夢園で作られ、そこでしか暮らしていない翡翠と翠玉は現世というものを知らない。幾人もの放浪者たちがそこから逃避してくる世界だから地獄のようなところなのだろう。
しかし、お父様は1つの世界しか知らない翡翠たちを不憫に思うのか時折、現世からのお土産を持ってきてくれた。その中に「天空の城ラピュタ」という題目のDVDがあった。
鑑賞してみたが、翡翠はそのアニメが共感できなかった。おかしいのだ。出会ったばかりの少女なのに盗賊から一緒に逃げたり、火の中に飛び込んだりするのだ。
父でも姉妹でも、恋人や友人ですらない少女に身体を張る主人公に違和感しかなかった。
今、主人公の気持ちがわかる。
それを言葉にするのは難しい。特に感情が希薄で欠陥品の翡翠には表しようがない。この感情は勝手に生まれて勝手に身体を動かす。
カンダタさんから口笛のような高い呼吸音が聞こえる。
昌次郎は片方の肺だけに穴を空けた。カンダタさんが鼻口で呼吸をしても穴から空気が抜け、血と共にコボコボと音を鳴らして流れていく。彼を生かしているのは僅かな酸素だけだ。
昌次郎は即死を避けた。カンダタさんみたいな亡霊の場合、その身体が死ねば負傷する前の正常な身体に戻る。昌次郎は瀕死状態を長く保つよう片方の肺に穴を空けるだけで済ました。
焼き爛れた皮膚は広がっていき、内側から脳汁が溢れて蒸発する。
昌次郎はほくそ笑みながら蒸発する様子を楽しんだ。
首はあっけなく消滅した。跡形もなく消えた首に光弥は身を震わせた。
「知りたい事は知っただろう。作業に戻れ」
昌次郎は強面な顔に戻ると光弥に命令する。
光弥は愕然としていたが命令に従う。これ以上、機嫌を損ねるわけにはいかない。
瑠璃が眠る寝台に戻り、デスクの上にあるPCの電源を入れる。何か薬でも飲まされたのか、瑠璃は未だに穏やかな寝顔だ。
「俺の言う通りに変更するんだ。いいな、少しのずれも作るな」
光弥はキーボードを叩きながら昌次郎の要望を聞く。
聖母の優しさ、従順さ、穏やかな笑顔、真実の愛、一途に昌次郎を想う恋慕。
瑠璃の個性は削れ、瑠璃にはない個性が追加される。どんどん、瑠璃から離れていく。
「記憶は?」
「全部消せ。代わりに思い出を」
作業台の引き出しから銀色に反射するディスクを取り出して光弥に差し出す。それをPCのドライブに入れ、記憶のインストールを選択する。
“記憶を上書きしますか?”
最後の警告だとメッセージを表示する。特に気を止めることもなかった。光弥は「はい」と選択する。
今眠っている姿が最後の瑠璃なるかもな。
淡々とそんなことを思った。
夢園で作られ、そこでしか暮らしていない翡翠と翠玉は現世というものを知らない。幾人もの放浪者たちがそこから逃避してくる世界だから地獄のようなところなのだろう。
しかし、お父様は1つの世界しか知らない翡翠たちを不憫に思うのか時折、現世からのお土産を持ってきてくれた。その中に「天空の城ラピュタ」という題目のDVDがあった。
鑑賞してみたが、翡翠はそのアニメが共感できなかった。おかしいのだ。出会ったばかりの少女なのに盗賊から一緒に逃げたり、火の中に飛び込んだりするのだ。
父でも姉妹でも、恋人や友人ですらない少女に身体を張る主人公に違和感しかなかった。
今、主人公の気持ちがわかる。
それを言葉にするのは難しい。特に感情が希薄で欠陥品の翡翠には表しようがない。この感情は勝手に生まれて勝手に身体を動かす。
カンダタさんから口笛のような高い呼吸音が聞こえる。
昌次郎は片方の肺だけに穴を空けた。カンダタさんが鼻口で呼吸をしても穴から空気が抜け、血と共にコボコボと音を鳴らして流れていく。彼を生かしているのは僅かな酸素だけだ。
昌次郎は即死を避けた。カンダタさんみたいな亡霊の場合、その身体が死ねば負傷する前の正常な身体に戻る。昌次郎は瀕死状態を長く保つよう片方の肺に穴を空けるだけで済ました。
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