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3章 死神が誘う遊園地
十如十廻之白御魂 1
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囚われた放浪者を救える覚醒装置というのは管理室というところにあって、その管理室はエントランスのカウンター受付の奥にあった。そこは管理室というよりはモニター室に近い。
たくさんのモニターとたくさんの操作パネル。
キャストたちは回転椅子に座ってモニターを監視してはいたけれど、私たちが侵入してきても微動だにしなかった。
光弥がキャストを椅子から落として代わりに座っても何の反応も示さなかった。
スイッチの切れたロボットみたい。
「あぁ、くそ。タイプが全然違う」
光弥はPCと向かい合い、キーボードを打ちながら悪態をつく。
私は目覚ましボタンと簡単に例えていたけど、事は複雑らしい。
「なぁ、首さんよ、起きてくれよ」
管理室を案内した首さんは役目を果たしたと再び深い眠りについてしまった。
「警告音を鳴らすぞ」
ケイも基礎知識はそれなりに持っているようで、できる範囲の知識でパネルを操作する。
「逃げ場があればだけどな」
笑った光弥がモニターを見上げる。全エリアの様子だった。
モニター越しでは苦痛、悲鳴、怒声は聞こえてこない。音もなく痛々しいほど伝わってくる放浪者の形相。彼らは人食い鬼に追われていた。
こんなところにも鬼がいるなんて。
瑠璃の父 昌次郎を通して蝶男が関わっているとしたら突然現れた鬼は蝶男が提供したといえる。そして、機会が来るまで隠されていた。というのが光弥の見解らしい。
「追い込み漁だな」
鬼に襲われそうになっている風景に光弥は呟く。
「どういうこと?」
「あいつらは貯蓄するエネルギーだからな。ああやって追いかけて回してホテル前で待ち構えているバグに食わせるつもりなんだろ」
もう一度、モニターを見つめる。
私たちは現実から離れたくて夢園に入った。その時点で網カゴに捕らえられた虫になってしまった。
どこに隠れても観察者に見通しされて、狭いカゴではどこにも逃げられない。そうとも知らずに与えられた幸福の密に集った。
甘い蜜に誘われた人たちを世間は愚かだと笑っては非難する。そんな世の中だから、現実でも居場所を見失った。
でも、私たちは死にたくて逃げてきたんじゃない。
「ケイ、あのバグ倒せる?」
とんでもない無茶振りだ。5mの怪物に立ち向かって砕けて来いと言っているようなものだ。
それでもケイしかいなかった。誰よりも戦闘に慣れ、身体能力が高いのはケイだから。
ケイは私を一瞥するとモニターを見つめる。
「1体だけなら」
「お願いできる?」
躊躇いながらも頼んでみる。ケイはあっさりと承諾した。
「ご立派だね」
白い刀を手にして管理室を去るケイの背中に褒め言葉とは言えない言葉を光弥は送った。
モニターに映るホテル前のバグに目をやる。既に追い込み漁によって人が集まって来ている。
背後には複数の鬼がいて、逃げた先にはピンクの怪物。バグは嬉しそうな唸り声を出して一つの手のひらに2人の人間を捕まえて、腹の口に放り込む。
目をあてられなくなって背ける。管理室からホテル前まではそう遠くない。近くで行われている虐殺に身を震わす。
「どのくらいで終わる?」
私は光弥に尋ねる。彼はPCに配列する文字に集中しつつも答えてくれた。
「そんなこと言われてもな」
光弥は苛立ちげに貧乏ゆすりをしてたけど、口調は穏やかだった。
「手前勝手がわからない」
「難しいの?」
「Windowsに慣れたやつが初めてMacに触れた感じ」
パソコンは詳しくない。窓とリンゴの違いに例えても区別のつけようがない。私は今度こそ口を噤んだ。
たくさんのモニターとたくさんの操作パネル。
キャストたちは回転椅子に座ってモニターを監視してはいたけれど、私たちが侵入してきても微動だにしなかった。
光弥がキャストを椅子から落として代わりに座っても何の反応も示さなかった。
スイッチの切れたロボットみたい。
「あぁ、くそ。タイプが全然違う」
光弥はPCと向かい合い、キーボードを打ちながら悪態をつく。
私は目覚ましボタンと簡単に例えていたけど、事は複雑らしい。
「なぁ、首さんよ、起きてくれよ」
管理室を案内した首さんは役目を果たしたと再び深い眠りについてしまった。
「警告音を鳴らすぞ」
ケイも基礎知識はそれなりに持っているようで、できる範囲の知識でパネルを操作する。
「逃げ場があればだけどな」
笑った光弥がモニターを見上げる。全エリアの様子だった。
モニター越しでは苦痛、悲鳴、怒声は聞こえてこない。音もなく痛々しいほど伝わってくる放浪者の形相。彼らは人食い鬼に追われていた。
こんなところにも鬼がいるなんて。
瑠璃の父 昌次郎を通して蝶男が関わっているとしたら突然現れた鬼は蝶男が提供したといえる。そして、機会が来るまで隠されていた。というのが光弥の見解らしい。
「追い込み漁だな」
鬼に襲われそうになっている風景に光弥は呟く。
「どういうこと?」
「あいつらは貯蓄するエネルギーだからな。ああやって追いかけて回してホテル前で待ち構えているバグに食わせるつもりなんだろ」
もう一度、モニターを見つめる。
私たちは現実から離れたくて夢園に入った。その時点で網カゴに捕らえられた虫になってしまった。
どこに隠れても観察者に見通しされて、狭いカゴではどこにも逃げられない。そうとも知らずに与えられた幸福の密に集った。
甘い蜜に誘われた人たちを世間は愚かだと笑っては非難する。そんな世の中だから、現実でも居場所を見失った。
でも、私たちは死にたくて逃げてきたんじゃない。
「ケイ、あのバグ倒せる?」
とんでもない無茶振りだ。5mの怪物に立ち向かって砕けて来いと言っているようなものだ。
それでもケイしかいなかった。誰よりも戦闘に慣れ、身体能力が高いのはケイだから。
ケイは私を一瞥するとモニターを見つめる。
「1体だけなら」
「お願いできる?」
躊躇いながらも頼んでみる。ケイはあっさりと承諾した。
「ご立派だね」
白い刀を手にして管理室を去るケイの背中に褒め言葉とは言えない言葉を光弥は送った。
モニターに映るホテル前のバグに目をやる。既に追い込み漁によって人が集まって来ている。
背後には複数の鬼がいて、逃げた先にはピンクの怪物。バグは嬉しそうな唸り声を出して一つの手のひらに2人の人間を捕まえて、腹の口に放り込む。
目をあてられなくなって背ける。管理室からホテル前まではそう遠くない。近くで行われている虐殺に身を震わす。
「どのくらいで終わる?」
私は光弥に尋ねる。彼はPCに配列する文字に集中しつつも答えてくれた。
「そんなこと言われてもな」
光弥は苛立ちげに貧乏ゆすりをしてたけど、口調は穏やかだった。
「手前勝手がわからない」
「難しいの?」
「Windowsに慣れたやつが初めてMacに触れた感じ」
パソコンは詳しくない。窓とリンゴの違いに例えても区別のつけようがない。私は今度こそ口を噤んだ。
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