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3章 死神が誘う遊園地
支配される魂、抗う 4
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バグの前を通り、その隣に設置されたPCの群生を横切る。PCを操作していたキャストの一人が歩み寄りるとカンダタたちに立ちはだかる。
「バグの完成度は97%」
「あとで聞きます」
キャストは決められた言動をしただけであった。二人はキャストを避けて先に進もうとする。
二人が去るのをキャストは沈黙したまま、見送るものかと思っていた。カンダタがキャストの横を通り過ぎようとすると唐突に片腕を掴まれた。
カンダタは驚き、掴んできたキャストを見据える。
「只今不具合調整中。只今不具合調整中。只今不具合調整中」
キャストは笑顔を崩していないが、発する言葉は理解不能であり、尋常じゃない握力ははカンダタの歩みを止めさせる。
「放してください」
翡翠が命令するもキャストは動じない。そして、キャストの口が閉じると翡翠を見下ろす。
「おや、不完全な双子の片割れが赤眼を連れて何を企んでいる?」
若い女性のキャストから嗄れた声がする。
翡翠は目を丸くし、「政蔵博士」と驚愕を混じえた声を漏らす。
「行動が遅かったようだね」
嗄れた声の主、政蔵は乾いた笑いを上げながら翡翠を追い詰める。
「出来損ないの従者は父と片割れで天秤をかけていく内に判断を怠けたようだ。私はその間に地下のキャストは乗っ取ったよ。無念だねぇ、出来損ないは父も姉妹も助けられずにバグの餌になるのか」
翡翠は袴の布を握りしめ、政蔵の嘲りを黙って聞く。
「片割れはどうなったと思う?頭を撃たれて消滅寸前だよ。さて、君はどうする?出来損ないの片割れを見捨てるか?見向きもされない父を助けるか?まぁ、不完全な双子では判断もできないだろうね。はははは」
聞くに耐えれなくなったカンダタはキャストの膝裏を蹴り、体勢を崩す。
後方に仰け反ったキャストの下顎を抑え、その勢いで床に叩きつけた。力一杯に頭部を打撃したというのにキャストの手はカンダタの片腕を放そうとしない。
「行け!」
カンダタの怒声で翡翠は我に返った。
言われた通りに翡翠は走った。しかし、向かったのはバックヤードではなく、PCが並ぶ作業台だった。小さな身体でキャストの合間を必死に通り抜ける。
一方でカンダタは掴まれた腕をどう放そうとかと模索する。その間にも作業を中断したキャストがカンダタと翡翠に集まる。
カンダタの後ろからキャストが肩を掴む。
「落ち着け、我々は同志だ」
キャストの口から嗄れた声。それを理解しようとしなかった。それよりも政蔵に対しての怒りが強い。
「糞爺!」
カンダタが悪態をついてた。その時、大きな雄叫びが肌を震わせた。
キャストとカンダタが見上げれば腹の口腔に人の死骸を詰まらせたバグが上体を起き上がらせていた。
突然の現状にカンダタは呆けて口を開く。恐らく、キャストを通して通信していた政蔵も呆然としているだろう。
「まだ完成されていないのに、まさか」
呆然としたままの政蔵が独り呟く。
結論を言わずともカンダタは察した。後ろに目線を向ければ、作業台に凭れるように立つ翡翠がいた。翡翠がバグを起動させたのだ。
キャストの握力が緩んでいると気付いたカンダタは手を解き、翡翠のもとへ走る。
バグは立ち上がるも完成されていない巨体は均衡を保てず、前方に蹌踉めく。
腹の口腔に収まらずにいた人の死骸が崩れた巨体の衝撃で外へと流れて出した。胃液と唾液が混ざり合った濁流は周辺機器とキャストを巻き込む。
カンダタはその濁流に呑まれまいと急ぎ、翡翠を抱き上げ、バックヤードに向かう。
止め処もなく流れ続ける四肢と赤い濁流は大広間を浸水し、カンダタは濁流を背に目的へと急ぐ。
「バグの完成度は97%」
「あとで聞きます」
キャストは決められた言動をしただけであった。二人はキャストを避けて先に進もうとする。
二人が去るのをキャストは沈黙したまま、見送るものかと思っていた。カンダタがキャストの横を通り過ぎようとすると唐突に片腕を掴まれた。
カンダタは驚き、掴んできたキャストを見据える。
「只今不具合調整中。只今不具合調整中。只今不具合調整中」
キャストは笑顔を崩していないが、発する言葉は理解不能であり、尋常じゃない握力ははカンダタの歩みを止めさせる。
「放してください」
翡翠が命令するもキャストは動じない。そして、キャストの口が閉じると翡翠を見下ろす。
「おや、不完全な双子の片割れが赤眼を連れて何を企んでいる?」
若い女性のキャストから嗄れた声がする。
翡翠は目を丸くし、「政蔵博士」と驚愕を混じえた声を漏らす。
「行動が遅かったようだね」
嗄れた声の主、政蔵は乾いた笑いを上げながら翡翠を追い詰める。
「出来損ないの従者は父と片割れで天秤をかけていく内に判断を怠けたようだ。私はその間に地下のキャストは乗っ取ったよ。無念だねぇ、出来損ないは父も姉妹も助けられずにバグの餌になるのか」
翡翠は袴の布を握りしめ、政蔵の嘲りを黙って聞く。
「片割れはどうなったと思う?頭を撃たれて消滅寸前だよ。さて、君はどうする?出来損ないの片割れを見捨てるか?見向きもされない父を助けるか?まぁ、不完全な双子では判断もできないだろうね。はははは」
聞くに耐えれなくなったカンダタはキャストの膝裏を蹴り、体勢を崩す。
後方に仰け反ったキャストの下顎を抑え、その勢いで床に叩きつけた。力一杯に頭部を打撃したというのにキャストの手はカンダタの片腕を放そうとしない。
「行け!」
カンダタの怒声で翡翠は我に返った。
言われた通りに翡翠は走った。しかし、向かったのはバックヤードではなく、PCが並ぶ作業台だった。小さな身体でキャストの合間を必死に通り抜ける。
一方でカンダタは掴まれた腕をどう放そうとかと模索する。その間にも作業を中断したキャストがカンダタと翡翠に集まる。
カンダタの後ろからキャストが肩を掴む。
「落ち着け、我々は同志だ」
キャストの口から嗄れた声。それを理解しようとしなかった。それよりも政蔵に対しての怒りが強い。
「糞爺!」
カンダタが悪態をついてた。その時、大きな雄叫びが肌を震わせた。
キャストとカンダタが見上げれば腹の口腔に人の死骸を詰まらせたバグが上体を起き上がらせていた。
突然の現状にカンダタは呆けて口を開く。恐らく、キャストを通して通信していた政蔵も呆然としているだろう。
「まだ完成されていないのに、まさか」
呆然としたままの政蔵が独り呟く。
結論を言わずともカンダタは察した。後ろに目線を向ければ、作業台に凭れるように立つ翡翠がいた。翡翠がバグを起動させたのだ。
キャストの握力が緩んでいると気付いたカンダタは手を解き、翡翠のもとへ走る。
バグは立ち上がるも完成されていない巨体は均衡を保てず、前方に蹌踉めく。
腹の口腔に収まらずにいた人の死骸が崩れた巨体の衝撃で外へと流れて出した。胃液と唾液が混ざり合った濁流は周辺機器とキャストを巻き込む。
カンダタはその濁流に呑まれまいと急ぎ、翡翠を抱き上げ、バックヤードに向かう。
止め処もなく流れ続ける四肢と赤い濁流は大広間を浸水し、カンダタは濁流を背に目的へと急ぐ。
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