糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
上 下
318 / 617
3章 死神が誘う遊園地

夢みる幸福 20

しおりを挟む
   光弥が瑠璃と別れた後、連れてこられたのは首の仕事場だった。
   書斎部屋と小部屋が組み合わされていた。
   書斎部屋は広く、光弥の背丈を越える本棚がいくつも並ぶ。小部屋には管のついた機械・PCと人を寝かせるだけの台座があった。マットレスや掛け布団もないので人を休ませるものではないのだろう。
   部屋の奥に更に小さな部屋があった。興味本位で行ってみるとそこは鋼鉄の金庫室だった。黒光りする扉が光弥を映す。
   「そちらには侵入禁止です」
   振り返れば和装の少女がいた。音もなく現れた少女に光弥は内心驚いていた。
   「えっと、翡翠?」
   「私は翠玉です」
   ピシャリと指摘された。この双子の塊人は見た目がそっくりで見分けがつかない。
   「あそこには何があるんだ?黄金?」
   「私に答える権限はありません」 
   翠玉は無機質で硬い声色で返す。そこら辺にいるキャストのように精度が低いわけではない。光弥に対して心理的な壁を作っている。
   「もうすぐお父様が来ます。それまでお待ち下さい」
   翠玉が告げると腕に抱えていた書類を書斎のデスクで纏めている。
   「光弥はハザマ側の者なんですよね?」
   会話を切り出したのは翠玉だった。
   「光弥さんとしてはどちらにつくのですか?」
   脈絡のない質問に戸惑う。翠玉は続ける。
   「私から見た光弥はハザマの弥の命に動かず、瑠璃さんたちにも非協力的。それでいて自身の好奇心には忠実で、媚を売るように協力的になる」
   「媚を売ったつもりはないけど」
   的を得ているような翠玉の見解に歯切れの悪い否定をする。
   現世での暮らしは自由に動き回れて楽しかった。色んな娯楽を知り、自由に歩き回れた。だからといって父親からの指示を蔑ろにもできずにいた。
   「あまりきついことを言うな」
   翠玉への対応に困っていたところに首がやってきた。救われた思いをしながら、翠玉から視線を逸らす。
   首は光弥を横切り、翠玉から纏まった書類を受け取る。
   「お父様、管理室の翡翠から報告です。夢園のシステムに不具合が発生。パレードとキャストが活動停止しました」
   「そうか。翡翠はまだ管理室だな?」
   「はい」
   「管理室で原因の究明を優先するよう伝えてくれ」
   翠玉が頷き、瞬きをする。
   「翡翠から電令が届きました。承知とのとこです」
   「ありがとう。私は光弥と話す。そこで待機しているように」
   そう言うと首は光弥に向き直った。 
   「待たせたね」
   「テレパシー?」
   先ほどのやりとりから推測をたてる。答え合わせをしたくて首に問う。
   「そうだ。あの双子の間だけ行われている」  
   当たった。嬉しくて、心の中でガッツポーズをとる。
   「すごいな。どうやって作ったんだ?」 
   テレパシー、サイコパスといった超能力は机上の空論で実在はできていない。それの存在が確認できているのは白糸と白鋏だけである。
   「君になら教えてあげてもいい。それよりも兄弟の話だ」
   話が切り替わった途端、光弥の上がっていた口角が噤んだ。
   光弥としては知りたいような知りたくないような話だ。
   「親父が俺の他に息子を作っていたって話?法螺話じゃないの?」
   乾いた唇を舐め、笑顔を取り繕う。
   親父は感情に惑わされず、必要なものを取り入れ不必要なものを処分できる。光弥の上に3人の兄がいたとしても不必要だから処分されただけだ。それだけのことだと言い聞かせる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

誰も残らなかった物語

悠十
恋愛
 アリシアはこの国の王太子の婚約者である。  しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。  そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。  アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。 「嗚呼、可哀そうに……」  彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。  その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...