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3章 死神が誘う遊園地
夢みる幸福 13
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ケイの姿を探していると微かな息遣いが聞こえてきた。生暖かい風が私の頭を掠める。
頭上から吹いた風を目線で追ってみる。それはトロッコの縁から覗くように私を見ていた。
生気のない人の目が私を見つめている。
死者だと勘違いしそうになったけど、生暖かい吐息が違うと実感させた。生きていながらも心が死んだそれらがトロッコに積まれている。
腹から出そうになった悲鳴を咄嗟にに手で抑える。
叫んでしまえばあの3人にバレてしまう。荒くなる呼吸に涙が混じる。
ケイ、戻ってきて。
死神の鎌に首をかけられたような静寂に私は耐えきれなかった。甲高い悲鳴はあげなかったけれど、そこから離れてケイの元に行こうとした。
「待ってください」
掛け声と同時に私の手首を掴まれる。
なんとか声を抑えたけど、心臓は口が飛び出そうになった。
振り返ると10歳くらいの少女がいた。髪に飾られたエメラルドのアクセサリーが暗闇に煌めく。
「瑠璃さんのご学友ですね?安全な所へ案内します」
少女に似つかわしくない無機質な顔で淡々と告げる。「誰?」と問う前に少女は私の手を引き、暗闇の奥へと私を連れ去った。
清音を置いて行ったケイはトロッコの影に隠れ、2人の会話に耳を当てる。
「現世のほうはどうです?まだ収集を続けるんですか?」
そうといたのは顔が鷲になっている老人の塊人だった。
「もうその必要はない。警察も勘付いている。潮時だろう」
答えたのは背広の男。
「娘さんも訪れたことですしね。お会いになりましたか?」
背広の男は沈黙する。彼は鷲の老人と違い、背筋を伸ばし堂々とした風貌だ。
沈黙を気にせずに鷲の老人は気にせずに語る。
「首さんの目的が果たされたのなら園内の放浪者を全て回収しましょう。私の子たちも喜ぶ」
鷲の老人は立坑の影に隠れた天井を恍惚とした表情で見つめる。
「あの計画を実行するのか?」
「タイミングはそちらでお任せします」
「そうか、ようやく十手も入るのか」
「あれは十手ではないですよ」
目線を戻した鷲の老人は乾いた笑いを上げる。
「あれは自在に形を変える。保有者が必要だと思った形にね」
「ならば、首が持ち続けている限り、あれは十手のままなのか?」
「あれの力を望まないうちは」
背広の男は溜息を落とす。老人はまた乾いた声で笑う。
「時間はたっぷりある。急ぐことはない」
焦燥のある背広の男を鷲の老人は宥める。
「皆、あれを欲しがる。そんなにあの十手いいのか」
「理を御する力だ。誰でも欲しくなる」
「よくわからないな」
「手にすればわかりますよ。そろそろ食事にしようか。あの子もお腹を空かせている」
鷲の老人が片手を上げる。それを合図に垂れ下がる2本の鎖が喧しい金属音を鳴らす。
影で覆われていた天井から巨大な怪物が現れる。汚いピンク色の体毛に包まれた熊と象のようなそれは夢園のマスコットに体型が似ていた。
頭上から吹いた風を目線で追ってみる。それはトロッコの縁から覗くように私を見ていた。
生気のない人の目が私を見つめている。
死者だと勘違いしそうになったけど、生暖かい吐息が違うと実感させた。生きていながらも心が死んだそれらがトロッコに積まれている。
腹から出そうになった悲鳴を咄嗟にに手で抑える。
叫んでしまえばあの3人にバレてしまう。荒くなる呼吸に涙が混じる。
ケイ、戻ってきて。
死神の鎌に首をかけられたような静寂に私は耐えきれなかった。甲高い悲鳴はあげなかったけれど、そこから離れてケイの元に行こうとした。
「待ってください」
掛け声と同時に私の手首を掴まれる。
なんとか声を抑えたけど、心臓は口が飛び出そうになった。
振り返ると10歳くらいの少女がいた。髪に飾られたエメラルドのアクセサリーが暗闇に煌めく。
「瑠璃さんのご学友ですね?安全な所へ案内します」
少女に似つかわしくない無機質な顔で淡々と告げる。「誰?」と問う前に少女は私の手を引き、暗闇の奥へと私を連れ去った。
清音を置いて行ったケイはトロッコの影に隠れ、2人の会話に耳を当てる。
「現世のほうはどうです?まだ収集を続けるんですか?」
そうといたのは顔が鷲になっている老人の塊人だった。
「もうその必要はない。警察も勘付いている。潮時だろう」
答えたのは背広の男。
「娘さんも訪れたことですしね。お会いになりましたか?」
背広の男は沈黙する。彼は鷲の老人と違い、背筋を伸ばし堂々とした風貌だ。
沈黙を気にせずに鷲の老人は気にせずに語る。
「首さんの目的が果たされたのなら園内の放浪者を全て回収しましょう。私の子たちも喜ぶ」
鷲の老人は立坑の影に隠れた天井を恍惚とした表情で見つめる。
「あの計画を実行するのか?」
「タイミングはそちらでお任せします」
「そうか、ようやく十手も入るのか」
「あれは十手ではないですよ」
目線を戻した鷲の老人は乾いた笑いを上げる。
「あれは自在に形を変える。保有者が必要だと思った形にね」
「ならば、首が持ち続けている限り、あれは十手のままなのか?」
「あれの力を望まないうちは」
背広の男は溜息を落とす。老人はまた乾いた声で笑う。
「時間はたっぷりある。急ぐことはない」
焦燥のある背広の男を鷲の老人は宥める。
「皆、あれを欲しがる。そんなにあの十手いいのか」
「理を御する力だ。誰でも欲しくなる」
「よくわからないな」
「手にすればわかりますよ。そろそろ食事にしようか。あの子もお腹を空かせている」
鷲の老人が片手を上げる。それを合図に垂れ下がる2本の鎖が喧しい金属音を鳴らす。
影で覆われていた天井から巨大な怪物が現れる。汚いピンク色の体毛に包まれた熊と象のようなそれは夢園のマスコットに体型が似ていた。
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