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3章 死神が誘う遊園地
夢みる幸福 10
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ホテルのエントランスでもキャストは棒立ちになっていて、話しかけても「只今不具合調整中」という理解できそうのない単語を繰り返す。
「俺から離れるな」
ケイの口調が刺々しくなる。警戒心はこの不気味な雰囲気から来ていた。
「これは長野先生、蝶男の仕業なの?」
一番に考えられるのは蝶男の陰謀。
だったら、この騒動の狙いは瑠璃の能力?他には何があるんだろう?
「奴がいるなら瑠璃を見定める必要がある」
天井絵画が見下ろすエントランスの中央に立ち、ケイは何かを探すように見渡した。
「それ、前にも言っていたね。瑠璃にその刀を渡すの?」
「そうだ」
「渡してどうするの?」
「1つにする」
「ケイがその刀で斬っちゃえば解決するんじゃない?」
そのほうが私も安心する。
「それは俺の役目じゃない」
ケイの漠然とした説明は慣れている。でも、やっぱりわからないものはわからない。
危機が迫れば刀は振るう。
でも、それはケイの目的ではなく、瑠璃に刀を託すのが目的。
でも、今の瑠璃には託せないと言う。
ケイの見定めるはきっとこのことを意味しているだろうな。
なら、瑠璃が黒蝶を斬ってくれるの?
瑠璃にそれができるの?
ケイがやってくれたら済む話じゃないの?
責めたくなるような疑問ばかり。楽しい遊園地から地獄の底なし沼に落とされたような感覚に私も苛立っていた。
そんなことをケイにぶつけてもまた飄々とした態度で受け答えするだけで、私の不安を解消してくれない。不満が溜まっていく。
「白糸の臭いだ」
ケイはある方向へと走り出す。正面のロビーを抜け、右の通路に進む。私も置いていかれないようケイの後をついて行く。
通路の突き当たりにはエレベーターがあり、ドアが開きっぱなしになっている。
エレベーターに人を運ぶ部屋はなく、普段見かけることのない空洞がそこにあった。
「落ちたか」
臭いを辿っていたケイが呟く。
私が呟いた言葉を考えて、慄いた。
「瑠璃がここから落ちたの?」
ケイを一瞥して、底なしの暗闇を見下ろす。この高さから落ちたなら無事ではいられない。
もしかしたら死んでいるかも?
「無事を確認しに行く」
どうやって?
それを口にするよりも早くケイは私の隣に立つと跪く。と思ったら、私の膝を抱えて持ち上げる。
片手に刀、片腕に私を乗せてエレベーターの闇底を見据える。
この後の展開が読めてしまった。
「待って!死ぬから!」
「平気だ」
何が平気なの?
訴えてもきっと私の言い分は聞いてくれない。ケイは一歩進み、底なしの暗闇が近くなる。
「せめて心の準備を」
「時間がない」
発言と同時にケイの身体が跳ねた。
体感は重力から解放さる。息を飲んだのも束の間、落下重力が身体を縛り、私の絶叫が底なしの暗闇に沈んでいった。
「俺から離れるな」
ケイの口調が刺々しくなる。警戒心はこの不気味な雰囲気から来ていた。
「これは長野先生、蝶男の仕業なの?」
一番に考えられるのは蝶男の陰謀。
だったら、この騒動の狙いは瑠璃の能力?他には何があるんだろう?
「奴がいるなら瑠璃を見定める必要がある」
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「それ、前にも言っていたね。瑠璃にその刀を渡すの?」
「そうだ」
「渡してどうするの?」
「1つにする」
「ケイがその刀で斬っちゃえば解決するんじゃない?」
そのほうが私も安心する。
「それは俺の役目じゃない」
ケイの漠然とした説明は慣れている。でも、やっぱりわからないものはわからない。
危機が迫れば刀は振るう。
でも、それはケイの目的ではなく、瑠璃に刀を託すのが目的。
でも、今の瑠璃には託せないと言う。
ケイの見定めるはきっとこのことを意味しているだろうな。
なら、瑠璃が黒蝶を斬ってくれるの?
瑠璃にそれができるの?
ケイがやってくれたら済む話じゃないの?
責めたくなるような疑問ばかり。楽しい遊園地から地獄の底なし沼に落とされたような感覚に私も苛立っていた。
そんなことをケイにぶつけてもまた飄々とした態度で受け答えするだけで、私の不安を解消してくれない。不満が溜まっていく。
「白糸の臭いだ」
ケイはある方向へと走り出す。正面のロビーを抜け、右の通路に進む。私も置いていかれないようケイの後をついて行く。
通路の突き当たりにはエレベーターがあり、ドアが開きっぱなしになっている。
エレベーターに人を運ぶ部屋はなく、普段見かけることのない空洞がそこにあった。
「落ちたか」
臭いを辿っていたケイが呟く。
私が呟いた言葉を考えて、慄いた。
「瑠璃がここから落ちたの?」
ケイを一瞥して、底なしの暗闇を見下ろす。この高さから落ちたなら無事ではいられない。
もしかしたら死んでいるかも?
「無事を確認しに行く」
どうやって?
それを口にするよりも早くケイは私の隣に立つと跪く。と思ったら、私の膝を抱えて持ち上げる。
片手に刀、片腕に私を乗せてエレベーターの闇底を見据える。
この後の展開が読めてしまった。
「待って!死ぬから!」
「平気だ」
何が平気なの?
訴えてもきっと私の言い分は聞いてくれない。ケイは一歩進み、底なしの暗闇が近くなる。
「せめて心の準備を」
「時間がない」
発言と同時にケイの身体が跳ねた。
体感は重力から解放さる。息を飲んだのも束の間、落下重力が身体を縛り、私の絶叫が底なしの暗闇に沈んでいった。
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