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3章 死神が誘う遊園地
ミラーハウス 5
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カンダタはそこまで動揺する瑠璃が不思議でならなかった。カンダタには彼女の母親というものが見えない。
歩きながら鏡の中を探ってみても自分たちの姿しかない。
「近づいてきてる!」
緊迫した口調に合わせて歩調が速くなる。3色の電光が視界の隅で流れ、その残光が瞳に残る。
「どの方面からだ?」
瑠璃の身にに起きている事象をカンダタは理解できない。ただ、緊迫した恐怖心が伝わってくる。
「右側の鏡から」
「左に曲がるぞ」
ならば、曲がるのは左だろうと安直に考えた。速くなった足取りでそのまま左折するもカンダタの身体は鏡の壁に激突し、歩調が止まる。感染した恐怖がカンダタを急かし、本物か偽りかの区別を怠っていた。
「何してるのよ!」
瑠璃の叱責が聞こえた。カンダタは激突した額を摩り、正面の鏡を睨む。
刹那にカンダタは瑠璃と同じく戦慄した。鏡には獣に似た3人の悪漢がいた。一番古い傷が疼く。
口角を歪ませて笑う獣は焚き火に灯された遊戯をしようと誘ってくる。下劣な笑い声に古い記憶が蘇る。
低い悲鳴を上げ、退けた身体は床に腰を打つ。
「カンダタ!」
再び瑠璃が叱責する。そこには先程のカンダタと同じ類の困惑があった。瑠璃もまた3人の獣が見えていなかった。
カンダタはそうした事実を察するとすぐ様立ち上がり、目前の鏡から距離を取る。
瑠璃が珍しく動揺していたので、鏡の中に現れた人物が物理の法則を破り、こちら側に侵入するものかと思い込んでいた。
しかし、カンダタたちを脅かす過去の残像は鏡の境界線を越えず、卑猥な笑みを浮かべたままカンダタを見つめる。
それだけで心臓を掴まされているようだったが、胸を撫で、冷静になるよう努める。
「何に怯えているのかわかった」
瑠璃はすぐにでもそこから逃げようと落ち着かない所作をしていた。その動揺を少しでも和らげようとカンダタは話かける。
「瑠璃のはどこまできている?」
「確認しないと駄目なわけ?」
「俺にはそれが見えない」
瑠璃としては直視したくないものなのだろう。目が泳ぎ、僅かに唇が震える。
一度は拒否すれも瑠璃自身が動揺しているのだと認め、現状を理解する。
「すぐそこにいる」
ひと呼吸おいて答える。目線の先はカンダタと反対の向きだ。
挟まれている状況だが、狼狽える程のことではないだろう。何しろ相手は鏡の中にいるのだ。
「俺も、目の前にいる」
「カンダタには何が見えてるの?」
過去の残像が写っているのならば同じ様に動揺してもいいものをカンダタはそれがなかった。瑠璃にそう見えているのならば、冷静を装うフリは成功しているのだろう。
「話さないと駄目か?」
これらを一言で片付けるには言葉が足りない。
「過去話だぞ、必要か?」
カンダタの言い方に瑠璃は眉を上げる。それはいつかの瑠璃がカンダタに言い放ったものだった。
「世界で1番の無駄話ね」
いつかの日を思い出した瑠璃がほくそ笑む。それにつられてカンダタも笑う。
「あいつら、襲ってくると思う?」
カンダタと瑠璃はそれぞれの残像と対峙する。冷静さを取り戻すも嫌悪感は湧き続ける。心を弄ぶ悪趣味な鏡の迷路を打破できるのならば一刻でも早くそうしたい。
「襲って来ないだろうが」
問いかけられ、その返答が濁る。
「なんでもありよね」
瑠璃が代わりに答える。それはカンダタも瑠璃も共通して持っている見解だ。
ここは夢の世界だ。死者が徘徊するのは当たり前であり、鏡の残像がこちら側に侵入するのもあり得るかもしれないのだ。
「出口があると思うか?」
「あると信じるしかないわよ。戻る道は覚えてる?」
「自信はない。なんでそれを聞く?」
「いざとなったらそこまで走って逃げれる」
「やめたほうがいい」
カンダタは即答した。
もし、あいつらがこちら側に侵入し、出発点まで逃げたとすれば、カンダタたちは窮地に追い詰められるだろう。あそこには迷路の出入口しかなく、行き止まりだ。
「できるだけ、進んだ道を覚えていくしかない」
鏡に惑わされ、精神が蝕まれる迷路に閉じ込められたのだ。進むしかない。
「紙とペンがあればよかった」
「同感だ」
2人が一歩進めたのはほぼ同時だった。
歩きながら鏡の中を探ってみても自分たちの姿しかない。
「近づいてきてる!」
緊迫した口調に合わせて歩調が速くなる。3色の電光が視界の隅で流れ、その残光が瞳に残る。
「どの方面からだ?」
瑠璃の身にに起きている事象をカンダタは理解できない。ただ、緊迫した恐怖心が伝わってくる。
「右側の鏡から」
「左に曲がるぞ」
ならば、曲がるのは左だろうと安直に考えた。速くなった足取りでそのまま左折するもカンダタの身体は鏡の壁に激突し、歩調が止まる。感染した恐怖がカンダタを急かし、本物か偽りかの区別を怠っていた。
「何してるのよ!」
瑠璃の叱責が聞こえた。カンダタは激突した額を摩り、正面の鏡を睨む。
刹那にカンダタは瑠璃と同じく戦慄した。鏡には獣に似た3人の悪漢がいた。一番古い傷が疼く。
口角を歪ませて笑う獣は焚き火に灯された遊戯をしようと誘ってくる。下劣な笑い声に古い記憶が蘇る。
低い悲鳴を上げ、退けた身体は床に腰を打つ。
「カンダタ!」
再び瑠璃が叱責する。そこには先程のカンダタと同じ類の困惑があった。瑠璃もまた3人の獣が見えていなかった。
カンダタはそうした事実を察するとすぐ様立ち上がり、目前の鏡から距離を取る。
瑠璃が珍しく動揺していたので、鏡の中に現れた人物が物理の法則を破り、こちら側に侵入するものかと思い込んでいた。
しかし、カンダタたちを脅かす過去の残像は鏡の境界線を越えず、卑猥な笑みを浮かべたままカンダタを見つめる。
それだけで心臓を掴まされているようだったが、胸を撫で、冷静になるよう努める。
「何に怯えているのかわかった」
瑠璃はすぐにでもそこから逃げようと落ち着かない所作をしていた。その動揺を少しでも和らげようとカンダタは話かける。
「瑠璃のはどこまできている?」
「確認しないと駄目なわけ?」
「俺にはそれが見えない」
瑠璃としては直視したくないものなのだろう。目が泳ぎ、僅かに唇が震える。
一度は拒否すれも瑠璃自身が動揺しているのだと認め、現状を理解する。
「すぐそこにいる」
ひと呼吸おいて答える。目線の先はカンダタと反対の向きだ。
挟まれている状況だが、狼狽える程のことではないだろう。何しろ相手は鏡の中にいるのだ。
「俺も、目の前にいる」
「カンダタには何が見えてるの?」
過去の残像が写っているのならば同じ様に動揺してもいいものをカンダタはそれがなかった。瑠璃にそう見えているのならば、冷静を装うフリは成功しているのだろう。
「話さないと駄目か?」
これらを一言で片付けるには言葉が足りない。
「過去話だぞ、必要か?」
カンダタの言い方に瑠璃は眉を上げる。それはいつかの瑠璃がカンダタに言い放ったものだった。
「世界で1番の無駄話ね」
いつかの日を思い出した瑠璃がほくそ笑む。それにつられてカンダタも笑う。
「あいつら、襲ってくると思う?」
カンダタと瑠璃はそれぞれの残像と対峙する。冷静さを取り戻すも嫌悪感は湧き続ける。心を弄ぶ悪趣味な鏡の迷路を打破できるのならば一刻でも早くそうしたい。
「襲って来ないだろうが」
問いかけられ、その返答が濁る。
「なんでもありよね」
瑠璃が代わりに答える。それはカンダタも瑠璃も共通して持っている見解だ。
ここは夢の世界だ。死者が徘徊するのは当たり前であり、鏡の残像がこちら側に侵入するのもあり得るかもしれないのだ。
「出口があると思うか?」
「あると信じるしかないわよ。戻る道は覚えてる?」
「自信はない。なんでそれを聞く?」
「いざとなったらそこまで走って逃げれる」
「やめたほうがいい」
カンダタは即答した。
もし、あいつらがこちら側に侵入し、出発点まで逃げたとすれば、カンダタたちは窮地に追い詰められるだろう。あそこには迷路の出入口しかなく、行き止まりだ。
「できるだけ、進んだ道を覚えていくしかない」
鏡に惑わされ、精神が蝕まれる迷路に閉じ込められたのだ。進むしかない。
「紙とペンがあればよかった」
「同感だ」
2人が一歩進めたのはほぼ同時だった。
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