290 / 574
3章 死神が誘う遊園地
ミラーハウス 1
しおりを挟む
詩人は筆、侍は刀。近代的なもので例えるならば、眼鏡、携帯電話といったところか。これらのように当たり前に持ち歩いているものは自分の一部だと錯覚する。
瑠璃にとって白鋏は一部になっていた。白鋏が粉々になった際、彼女が呆然となったのはそれが理由だろう。
カンダタは立坑を仰ぎ、登れないかと思案してみる。骨折した腕であの高さを登るのは無理だ。
見上げても天井の光は見えない。それほど深く落下したのにも関わらず、カンダタも瑠璃も傷はなかった。それよりも折られた腕が深刻だ。
瑠璃を追って自ら飛んで落ちた後、2人の身に何が起きたのかよくわからない。
空洞に落ちるとこの身は一筋の光もない闇に覆われ、左右の感覚も掴めずに助けるべき瑠璃の姿さえ見えなかった。
落下の重力に逆らって、謎の力がカンダタの身体を引き寄せた。謎の力がカンダタと瑠璃を引き寄せると落下の衝撃を一任に背負った。
「ハク、もう平気。ありがとう」
振り向くと瑠璃が気を取り戻し、起き上がる。瑠璃は二本脚で立とうとするも均衡を崩してふらつく。
「平気そうには見えないな」
「あんたに言ってない」
ひどく苛立った瑠璃が返事をする。
瑠璃は深呼吸をいくつか繰り返し、一歩を踏み出す。今度は崩れずに歩けた。
カンダタの隣に立つと空洞を見上げた。2人が見上げても頭上の光はどこにもない。
ただし、完全な暗闇にはなっていなかった。
カンダタたちはネオンに光るゲートに振り返る。立坑の底に落ちたあたしたちに待ち構えていたのはアーチ型に電光色がライトアップされたゲートで「ミラーハウス」と書かれていた。
蟻地獄に嵌った蟻はこういう気分になるのだろうな、と勝手に蟻の気持ちになっていた。
崩れる砂の穴では上には登れない。背後に待ち受けているのは命を食らう化け物。魂の根幹にまで絶望に侵食されてしまいそうだ。
気が滅入るような思想になったのは怪しげなゲートと鈍痛が響く腕のせいだろう。
腕を庇い、顔をしかめ、痛みに耐える。そして、追い打ちをかけてきたのは項の鈍痛だった。
喉からの決めよう奥歯で噛み締める。全身が痛みを訴えて額に冷えた汗を流す。
「辛そうね」
カンダタの様子を横目で見て、他人事のように喋る。
「折れた腕じゃミラーハウスもろくに歩けないでしょうね。なんでカンダタまで落ちてきたのよ」
瑠璃が言いたいのは落下しても助けようがなく、折れた腕では足でまといになるとわかっていたのになぜついてきたのかということだ。
「さぁ、なんでだろうな。そうするべきだと思ったんだ」
この心理に理屈はいらない。思惑や計算された計画も。そこにあるのは最も単純な心理だ。
「そのせいであたしは余計な荷物を背負うことになるのよ」
「まるで、ついてくるなと言われているようだ」
「あら、よかった。あたしの気持ちを汲み取ってくれて嬉しいわ」
カンダタは瑠璃を睨む。瑠璃は眉を上げて知らないふりを装おうとするもカンダタの沈黙した言葉のない訴えは続く。
瑠璃にとって白鋏は一部になっていた。白鋏が粉々になった際、彼女が呆然となったのはそれが理由だろう。
カンダタは立坑を仰ぎ、登れないかと思案してみる。骨折した腕であの高さを登るのは無理だ。
見上げても天井の光は見えない。それほど深く落下したのにも関わらず、カンダタも瑠璃も傷はなかった。それよりも折られた腕が深刻だ。
瑠璃を追って自ら飛んで落ちた後、2人の身に何が起きたのかよくわからない。
空洞に落ちるとこの身は一筋の光もない闇に覆われ、左右の感覚も掴めずに助けるべき瑠璃の姿さえ見えなかった。
落下の重力に逆らって、謎の力がカンダタの身体を引き寄せた。謎の力がカンダタと瑠璃を引き寄せると落下の衝撃を一任に背負った。
「ハク、もう平気。ありがとう」
振り向くと瑠璃が気を取り戻し、起き上がる。瑠璃は二本脚で立とうとするも均衡を崩してふらつく。
「平気そうには見えないな」
「あんたに言ってない」
ひどく苛立った瑠璃が返事をする。
瑠璃は深呼吸をいくつか繰り返し、一歩を踏み出す。今度は崩れずに歩けた。
カンダタの隣に立つと空洞を見上げた。2人が見上げても頭上の光はどこにもない。
ただし、完全な暗闇にはなっていなかった。
カンダタたちはネオンに光るゲートに振り返る。立坑の底に落ちたあたしたちに待ち構えていたのはアーチ型に電光色がライトアップされたゲートで「ミラーハウス」と書かれていた。
蟻地獄に嵌った蟻はこういう気分になるのだろうな、と勝手に蟻の気持ちになっていた。
崩れる砂の穴では上には登れない。背後に待ち受けているのは命を食らう化け物。魂の根幹にまで絶望に侵食されてしまいそうだ。
気が滅入るような思想になったのは怪しげなゲートと鈍痛が響く腕のせいだろう。
腕を庇い、顔をしかめ、痛みに耐える。そして、追い打ちをかけてきたのは項の鈍痛だった。
喉からの決めよう奥歯で噛み締める。全身が痛みを訴えて額に冷えた汗を流す。
「辛そうね」
カンダタの様子を横目で見て、他人事のように喋る。
「折れた腕じゃミラーハウスもろくに歩けないでしょうね。なんでカンダタまで落ちてきたのよ」
瑠璃が言いたいのは落下しても助けようがなく、折れた腕では足でまといになるとわかっていたのになぜついてきたのかということだ。
「さぁ、なんでだろうな。そうするべきだと思ったんだ」
この心理に理屈はいらない。思惑や計算された計画も。そこにあるのは最も単純な心理だ。
「そのせいであたしは余計な荷物を背負うことになるのよ」
「まるで、ついてくるなと言われているようだ」
「あら、よかった。あたしの気持ちを汲み取ってくれて嬉しいわ」
カンダタは瑠璃を睨む。瑠璃は眉を上げて知らないふりを装おうとするもカンダタの沈黙した言葉のない訴えは続く。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる