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3章 死神が誘う遊園地
遊園地 17
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落とされた瑠璃を追うようにカンダタも空洞へと飛び込んでいった。
羽交い締めされた光弥は身動きもできず、見つめることしかできなかった。
この様子では光弥も落とされるだろう。
塊人には生がない。だから死にようがない。
だが、塊人にも個人差が大きく変わり、痛覚に鈍い者もいれば、それさえ備わっていないものもいる。その中で光弥は痛覚に敏感だ。だからこそ、痛みが伴うものには避けていきたい。落下する衝撃は想像を絶するだろう。
なんとかしてここから脱しなければ。
光弥にはこの危機を逃れる術を持っていない。カンダタのような運動神経もなければ、瑠璃の能力もない。
逃れたいと、全脳を駆使して手段を練ってみても光弥に奇跡的な幸運が訪れない限り、その手段は手に入らないだろう。
光弥を羽交い締めにするキャストはじりじりと前進する。
キャストの腕を解こうと足掻いてみても無意味なだけだ。何しろ、彼らは片手で骨を折ってしまうのだ。カンダタよりも非力な光弥がキャストの束縛を振り払えるはずがない。
「待って待って!俺は塊人だ!君たちと同じだよ!」
声を張り上げて訴える。残された手段がそれしかなかった。
「エレベーターが到着しました!ご乗車下さい!」
「俺も塊人だ!仲間だよ!仲間!」
精度の低い塊人が同じ返ししかできないのは熟知している。それでも、訴えれば何かしらの反応があると信じたい。
「エレベーターが到着しました!ご乗車下さい!」
キャストの発言も前進も止まない。光弥は絶望を伴う空洞の底を落とされようとしていた。
「やめろ!」
集団の凶行を1人の掛け声が止める。光弥の足はエレベーターの縁に立ち、空洞の底にいる暗闇と目を合わせていた。
あれだけ言葉で訴えても止まることのなかった集団がひと声だけでピタリと止まった。
「なんてことだ、彼女を落としてしまったのか。ここまで計画を進めてきたのに、不具合が起きるとは」
声の主は独り言をぼやきながら歩いてくる。
その人物と出会うのはこれが初めてだったが、何者なのか一目で判断できた。
「あんたが桐 首?」
「そうだ」
彼は毅然と答える。
魂の欠片が寄せ集まってできた塊人はどうしても何かしらの感情、感覚が抜けてしまう。弥や光弥のような精度の高い塊人はそうした「ずれ」を隠す。
キャストは精度が低く、欠けた部分を隠せず、むしろそうした考えすら思い浮かばない。この桐 首と言う塊人は間違いなく精度が高い。
「君は、一応塊人のようだね。通常のものとは違う。弥の新しい息子か」
「どうしてそれを」
光弥はこの塊人を知らない。だが、相手は全てを見透かしているようだった。
「昔、ハザマにいた。あそこを出てから弥の動向は見張っていたんだ。いずれ4番目を作るだろうから」
桐 首に対する質問を脳内で練り上げていた。用意していた質問は彼の独り言で全て飛んで消えていった。
彼は今、何と言った? 4人目?父の手によって作られた息子は光弥の他にいた?
「知らなかったのか?」
面食らった顔していたので桐 首は察した。
「なら、これも失敗作か。あんなことをしておいて」
光弥に対して哀れむ目つきで呟く。
「何を知っているんだ? 」
問う声は震えていた。知りたいと思ったものは好奇のままに動いて聞いてきた。なのに、本人ですら知りえていない秘密を彼は持っている。
未知の恐怖がそこにあった。
「その話はあとだ。先に落ちた2人を回収しなければ」
桐 首は2人が落ちた暗闇を見つめ、また独り言を呟いた。
羽交い締めされた光弥は身動きもできず、見つめることしかできなかった。
この様子では光弥も落とされるだろう。
塊人には生がない。だから死にようがない。
だが、塊人にも個人差が大きく変わり、痛覚に鈍い者もいれば、それさえ備わっていないものもいる。その中で光弥は痛覚に敏感だ。だからこそ、痛みが伴うものには避けていきたい。落下する衝撃は想像を絶するだろう。
なんとかしてここから脱しなければ。
光弥にはこの危機を逃れる術を持っていない。カンダタのような運動神経もなければ、瑠璃の能力もない。
逃れたいと、全脳を駆使して手段を練ってみても光弥に奇跡的な幸運が訪れない限り、その手段は手に入らないだろう。
光弥を羽交い締めにするキャストはじりじりと前進する。
キャストの腕を解こうと足掻いてみても無意味なだけだ。何しろ、彼らは片手で骨を折ってしまうのだ。カンダタよりも非力な光弥がキャストの束縛を振り払えるはずがない。
「待って待って!俺は塊人だ!君たちと同じだよ!」
声を張り上げて訴える。残された手段がそれしかなかった。
「エレベーターが到着しました!ご乗車下さい!」
「俺も塊人だ!仲間だよ!仲間!」
精度の低い塊人が同じ返ししかできないのは熟知している。それでも、訴えれば何かしらの反応があると信じたい。
「エレベーターが到着しました!ご乗車下さい!」
キャストの発言も前進も止まない。光弥は絶望を伴う空洞の底を落とされようとしていた。
「やめろ!」
集団の凶行を1人の掛け声が止める。光弥の足はエレベーターの縁に立ち、空洞の底にいる暗闇と目を合わせていた。
あれだけ言葉で訴えても止まることのなかった集団がひと声だけでピタリと止まった。
「なんてことだ、彼女を落としてしまったのか。ここまで計画を進めてきたのに、不具合が起きるとは」
声の主は独り言をぼやきながら歩いてくる。
その人物と出会うのはこれが初めてだったが、何者なのか一目で判断できた。
「あんたが桐 首?」
「そうだ」
彼は毅然と答える。
魂の欠片が寄せ集まってできた塊人はどうしても何かしらの感情、感覚が抜けてしまう。弥や光弥のような精度の高い塊人はそうした「ずれ」を隠す。
キャストは精度が低く、欠けた部分を隠せず、むしろそうした考えすら思い浮かばない。この桐 首と言う塊人は間違いなく精度が高い。
「君は、一応塊人のようだね。通常のものとは違う。弥の新しい息子か」
「どうしてそれを」
光弥はこの塊人を知らない。だが、相手は全てを見透かしているようだった。
「昔、ハザマにいた。あそこを出てから弥の動向は見張っていたんだ。いずれ4番目を作るだろうから」
桐 首に対する質問を脳内で練り上げていた。用意していた質問は彼の独り言で全て飛んで消えていった。
彼は今、何と言った? 4人目?父の手によって作られた息子は光弥の他にいた?
「知らなかったのか?」
面食らった顔していたので桐 首は察した。
「なら、これも失敗作か。あんなことをしておいて」
光弥に対して哀れむ目つきで呟く。
「何を知っているんだ? 」
問う声は震えていた。知りたいと思ったものは好奇のままに動いて聞いてきた。なのに、本人ですら知りえていない秘密を彼は持っている。
未知の恐怖がそこにあった。
「その話はあとだ。先に落ちた2人を回収しなければ」
桐 首は2人が落ちた暗闇を見つめ、また独り言を呟いた。
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