糸と蜘蛛

犬若丸

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3章 死神が誘う遊園地

夏と夢と信仰と補習 21

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 管理室で犠牲になった者の数える。
   「数えたら駄目だよ、翡翠」
   隣に佇む少女が言い聞かせる。
   「わかってるよ、翠玉」
   それでも、翡翠は数えずにはいられない。それが自分たちの心を追い詰めたとしても芽生えた負の感情は消せない。
   今日もエッグハンターで一人が見せしめに消えた。見せしめをみた高校生が夢から覚めて洗脳部屋に連れて行かれた。パレードで用済みになった魂は燃料になった。
   管理室は園内の様子が監視できる。モニターの映像は遊園地に訪れた者たちが楽しげにアトラクションに乗り、イベントに参加し、パレードを鑑賞している。その中の誰一人、自身がもうすぐ消滅するのだとわかっていない。
   「翡翠、翠玉」
   2人の少女が呼ばれ、振り返る。
   「順調かね?」
   彼は問う。現世では桐  首と名乗っているこの男を少女たちはお父様と呼んでいた。
   「システムは正常です」
   翠玉が報告し、翡翠が続ける。
   「本日、夢園に訪れた放浪者は8人、洗脳処置をしたのは6人、プログラムの処置は12人です」
   淡々とした口調で定期報告をする。
   「そうか」
   お父様は短く答えると顎をなぞり、考えに耽る。
   「モニターの75を映してくれ」
   お父様が指示するとモニターの画面は移り変わる。楽しい遊園地の風景は一変し、一面に暗闇が映し出される。
  暗闇にはトロッコが並んでいた。背の高いトロッコに積まれていたのは人の四肢である。
   画面の端から野太い腕が伸びてくる。体毛に覆われたそれは何十人分の四肢を鷲掴みにした。
   その後に聞こえてくるのは身の毛も弥立つ咀嚼音でモニターの画面に赤い斑点がつく。翡翠の手が僅かに震え、翠玉がその手を握ってくれた。
   「あれも機能しているようだね」
   2人の変化に気付いていないお父様が喋る。
   「洗脳は本日をもってで終わりにし、計画は次のステップに移行する」
   「では、瑠璃が?」
   「あぁ、本物の娘が帰ってくる」
   翠玉の拳が強く握られた。「本物の娘」それを2人の前で言ってしまうとは。
   翡翠と翠玉は桐  首に作られた。彼をお父様と呼ぶのが道理だろう。しかし、彼は2人を試作品の一つとしか捉えていない。それを痛感させられる。
   「私は昌次郎と話してくる。夢園の運営は政蔵博士に頼む」
   「いってらっしゃいませ」
   機械的な挨拶でお父様の背中を見送る。
   モニターでは夢の遊園地が描かれた風景が映る。現実を忘れた人々が夢に浸り、夢に溺れる。
   華やかで楽しい舞台の裏側では死神が魂を刈り取る。
   夢園とはそんな遊園地だ。
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