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3章 死神が誘う遊園地
夏と夢と信仰と補習 17
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ずっと同じ場所で立ち竦むのも気が滅入るので、私はキャッスルタウンを散策することにした。
端末と一緒に貰ったポップコーンを1粒だけ口に運ぶ。口内で弾ける香りと塩味。夢なのに味覚も鮮明で、美味しくて次々とポップコーンを口に入れる。
食べ歩きしながら散策していると商品が並ぶ木製のワゴン車が目に入った。
立ち寄ってみると案内役のパク君が陳列していて、隣には意外にもダッフィーシリーズのキャラクターたちが並んでいた。
ディズニーにいるはずの彼らがどうしてこんなところに?
私はディズニーに関して強いこだわりはない。映画が話題になればなんとなく観るし、ディズニーリゾートに行けばノリで楽しむ。ダッフィーシリーズは名前だけ知っている程度で、夢に見るほど熱狂的なファンではない。だから、私の夢にそれらが陳列しているのは不思議だった。
「おひとついかがですか?」
私がワゴン車を物色しているとピンクのテディベアを差し出すキャストが現れた。その人は先ほど私に園内の説明をしてくれた人と同じ顔をしていた。
「あなた、さっきの」
「キャストはどんな時でも最高のサービスをご提供できるよう待機しております!」
突然消えて突然現れる。戸惑う私にキャストは変わらない笑顔で言う。
「撮影エリアでぬいぐるみの写真をSNSに載せると人気が出ますよ!」
「今、持ち合わせないし」
その場を切り抜ける為の弱々しい言葉。「NO」と言えない性格が恨めしい。
「夢園に金銭の概念はございません!」
キャストの手は私の目前まで迫り、テディベアを強調する。断る文句が思い浮かばない。
「空になったポップコーンの回収いたします!」
手に持っていたポップコーンはすでになくなっていた。
気がつかないうちに全部食べてしまったようだった。私はケースを交換するようにぬいぐるみを貰う。
私の指に軽くてふわふわの布地が心地よかった。
笑顔のキャストに曖昧な笑みを返す。背を向けてお城の方へと足を向け、5歩ぐらい進んでから振り返る。ワゴン車だけを残してキャストはいなくなっていた。
改めて、貰ったピンクのテディベアを見つめる。テディベアは端末の案内役をしているパク君だった。くりくりとした目に好印象な表情。熊にしては似合わない長い鼻が気になるけど、よくよく見れば可愛い。
あのキャストが勧めていたのは所謂、ぬい撮りというもの。インスタでも何回か見かけては素敵な写真にハートを送ったこともある。
だからといってそれを実行するには気恥ずかしさがある。
悩みながら歩いていると正面からの通行人と肩がぶつかり、ぬいぐるみを落としてしまう。
「ごめん!大丈夫?」
通行人は私に気を遣いながら落としたぬいぐるみを拾う。
「ミツハがちゃんと前を見ないから」
「だってさタカコ、この人の投稿面白くて」
「もう、ほんとごめんね。パク君汚れた?」
友人と思われる背の高い女子が背の低い通行人を注意する。
「いえ、私のほうこそすみません」
私もよそ見をしていたので慌てて謝罪する。心配してくれているから一応、ぬいぐるみに汚れはないか確認する。
「大丈夫、汚れてない」
そう伝えると2人がほっとして胸を撫で下ろす。パク君の心配と言うより、私が怒っていないことに安心している。
端末と一緒に貰ったポップコーンを1粒だけ口に運ぶ。口内で弾ける香りと塩味。夢なのに味覚も鮮明で、美味しくて次々とポップコーンを口に入れる。
食べ歩きしながら散策していると商品が並ぶ木製のワゴン車が目に入った。
立ち寄ってみると案内役のパク君が陳列していて、隣には意外にもダッフィーシリーズのキャラクターたちが並んでいた。
ディズニーにいるはずの彼らがどうしてこんなところに?
私はディズニーに関して強いこだわりはない。映画が話題になればなんとなく観るし、ディズニーリゾートに行けばノリで楽しむ。ダッフィーシリーズは名前だけ知っている程度で、夢に見るほど熱狂的なファンではない。だから、私の夢にそれらが陳列しているのは不思議だった。
「おひとついかがですか?」
私がワゴン車を物色しているとピンクのテディベアを差し出すキャストが現れた。その人は先ほど私に園内の説明をしてくれた人と同じ顔をしていた。
「あなた、さっきの」
「キャストはどんな時でも最高のサービスをご提供できるよう待機しております!」
突然消えて突然現れる。戸惑う私にキャストは変わらない笑顔で言う。
「撮影エリアでぬいぐるみの写真をSNSに載せると人気が出ますよ!」
「今、持ち合わせないし」
その場を切り抜ける為の弱々しい言葉。「NO」と言えない性格が恨めしい。
「夢園に金銭の概念はございません!」
キャストの手は私の目前まで迫り、テディベアを強調する。断る文句が思い浮かばない。
「空になったポップコーンの回収いたします!」
手に持っていたポップコーンはすでになくなっていた。
気がつかないうちに全部食べてしまったようだった。私はケースを交換するようにぬいぐるみを貰う。
私の指に軽くてふわふわの布地が心地よかった。
笑顔のキャストに曖昧な笑みを返す。背を向けてお城の方へと足を向け、5歩ぐらい進んでから振り返る。ワゴン車だけを残してキャストはいなくなっていた。
改めて、貰ったピンクのテディベアを見つめる。テディベアは端末の案内役をしているパク君だった。くりくりとした目に好印象な表情。熊にしては似合わない長い鼻が気になるけど、よくよく見れば可愛い。
あのキャストが勧めていたのは所謂、ぬい撮りというもの。インスタでも何回か見かけては素敵な写真にハートを送ったこともある。
だからといってそれを実行するには気恥ずかしさがある。
悩みながら歩いていると正面からの通行人と肩がぶつかり、ぬいぐるみを落としてしまう。
「ごめん!大丈夫?」
通行人は私に気を遣いながら落としたぬいぐるみを拾う。
「ミツハがちゃんと前を見ないから」
「だってさタカコ、この人の投稿面白くて」
「もう、ほんとごめんね。パク君汚れた?」
友人と思われる背の高い女子が背の低い通行人を注意する。
「いえ、私のほうこそすみません」
私もよそ見をしていたので慌てて謝罪する。心配してくれているから一応、ぬいぐるみに汚れはないか確認する。
「大丈夫、汚れてない」
そう伝えると2人がほっとして胸を撫で下ろす。パク君の心配と言うより、私が怒っていないことに安心している。
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