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3章 死神が誘う遊園地
夏と夢と信仰と補習 14
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バラバラになった肉片は車輪と身体の接触点を中心にして四方八方に飛び散った。全ての血液は破裂した卵みたいな跡を残す。
一つの命が異常な形で終わりを迎えた。けれど、それだけではなかった。
ホームで電車を待っていた人々は悲鳴や好奇などの声を上げて、駅員は停車した電車に近寄っては人間だった破片を前に噎せ返る。
誰もが粉々になった人間を見ていたけれど、誰もそれが見えていなかった。
線路の脇に佇む青年。それが死んだばかりのコンビニ店員だとあたしたちは理解していた。彼の魂がまだそこにとどまっていた。
理解できなかったのは、店員の足元にあるそれだった。
混乱する頭を整理しつつ、それを捉えようとした。
黒い、ドロドロした、底なし沼。
線路脇の砂利に異質に浮かんだ水溜り。その黒い液体はぶくぶくと泡を吹いては毒々さを表現している。
店員は泡吹く黒い水溜りの真ん中に立って、無抵抗にゆっくりと沈んでいく。
騒ぐ生者を他所に彼は達観する。現実と現世から離れていく。
腰まで浸かった店員が不意に振り返った。あたしたちを見据える。静観し、何も感じないはずの死者は笑っていた。
正気とは言えない笑顔。あたしにはそれが悍ましく見えて冷や汗が湧いた。
店員が消えた後にある風景は生者の喧騒と沈んだ陽が残した黄昏色の空だった。
高校の夏休み。連想するのは友達と海に行ったり、恋人と花火を見に行ったり、映画を観たり。実際の私の夏休みは浮かれて弾けるような青春とは言えない。
特に今年は理解の範疇を超えた出来事が多かった。それらのせいか、私は鬱蒼とした心を晴らしたくてSNSに目を通す。
最終投稿は5時間前で1時間ごとに様子を見ても変わらないハートの数に益々心が重くなる。
「清音、お風呂が開けたわよ」
階段下からお母さんが呼びかけてくる。今行くと答えて、机から立ち上がる。すると、ベッドで寝ていた黒猫のケイも物音で起き上がる。
「イカれた集団のところに行くのか?」
彼の口調は単調で感情が読み取りづらいところもあった。それは私の第一印象と言うだけであって、実質ケイは情が深い生き物ものだと一緒に暮らしているうちにわかってきた。
「お風呂よ。心配しないで」
ケイの頭を撫でると猫特有のゴロゴロとした鳴き声を上げる。
「元気がない」
頭を撫でられながらも私を心配する。
ケイが心配してすまうのは私が夢楽土会の会員と連絡を交換してしまったせいだ。ケイはあの会員たちをイカれた集団と呼んでは忌み嫌っている。
断れなかった私にも責任がある。ケイはそれを責めようともせず、わざわざ瑠璃の自宅まで赴いて助けてほしいと頼んでくれたらしい。
まぁ、それは違った結果になったけど。
「ケイあの夢楽土会をどう考えてるの?」
あの集団の中心にいた桐 首も瑠璃の特別な力を狙っているらしい。
「黒蝶の気配は無い」
「危険は無いってこと?夢楽土会は良い方なの?」
その質問に対はわからないと一言添えて頭を俯かせた。判断に迷っているようだった。
「蝶男の差し金ではない。ハザマでもない」
「ケイも把握していない第三勢力ってこと?」
「そうかもしれない」
なるほどねぇ、と間延びした呟きをして頭の中で関係図を作る。
輪廻と魂、地獄を管理する機関がハザマで、ハザマが危険視しているのが長野先生、じゃなくて蝶男。この2つが白鋏、白糸を欲しがっていて瑠璃の魂を狙っているのよね。そして、夢楽土会はどこにも属さない謎の集団。
瑠璃も大変だなぁ。
私にとっては他人事だった。私と瑠璃は心配したりされるような関係とは言えない。夢楽土会の会員に捕まった時も瑠璃は助けてくれなかった。
でも、カンダタさんは助けてくれたんだよね。
一つの命が異常な形で終わりを迎えた。けれど、それだけではなかった。
ホームで電車を待っていた人々は悲鳴や好奇などの声を上げて、駅員は停車した電車に近寄っては人間だった破片を前に噎せ返る。
誰もが粉々になった人間を見ていたけれど、誰もそれが見えていなかった。
線路の脇に佇む青年。それが死んだばかりのコンビニ店員だとあたしたちは理解していた。彼の魂がまだそこにとどまっていた。
理解できなかったのは、店員の足元にあるそれだった。
混乱する頭を整理しつつ、それを捉えようとした。
黒い、ドロドロした、底なし沼。
線路脇の砂利に異質に浮かんだ水溜り。その黒い液体はぶくぶくと泡を吹いては毒々さを表現している。
店員は泡吹く黒い水溜りの真ん中に立って、無抵抗にゆっくりと沈んでいく。
騒ぐ生者を他所に彼は達観する。現実と現世から離れていく。
腰まで浸かった店員が不意に振り返った。あたしたちを見据える。静観し、何も感じないはずの死者は笑っていた。
正気とは言えない笑顔。あたしにはそれが悍ましく見えて冷や汗が湧いた。
店員が消えた後にある風景は生者の喧騒と沈んだ陽が残した黄昏色の空だった。
高校の夏休み。連想するのは友達と海に行ったり、恋人と花火を見に行ったり、映画を観たり。実際の私の夏休みは浮かれて弾けるような青春とは言えない。
特に今年は理解の範疇を超えた出来事が多かった。それらのせいか、私は鬱蒼とした心を晴らしたくてSNSに目を通す。
最終投稿は5時間前で1時間ごとに様子を見ても変わらないハートの数に益々心が重くなる。
「清音、お風呂が開けたわよ」
階段下からお母さんが呼びかけてくる。今行くと答えて、机から立ち上がる。すると、ベッドで寝ていた黒猫のケイも物音で起き上がる。
「イカれた集団のところに行くのか?」
彼の口調は単調で感情が読み取りづらいところもあった。それは私の第一印象と言うだけであって、実質ケイは情が深い生き物ものだと一緒に暮らしているうちにわかってきた。
「お風呂よ。心配しないで」
ケイの頭を撫でると猫特有のゴロゴロとした鳴き声を上げる。
「元気がない」
頭を撫でられながらも私を心配する。
ケイが心配してすまうのは私が夢楽土会の会員と連絡を交換してしまったせいだ。ケイはあの会員たちをイカれた集団と呼んでは忌み嫌っている。
断れなかった私にも責任がある。ケイはそれを責めようともせず、わざわざ瑠璃の自宅まで赴いて助けてほしいと頼んでくれたらしい。
まぁ、それは違った結果になったけど。
「ケイあの夢楽土会をどう考えてるの?」
あの集団の中心にいた桐 首も瑠璃の特別な力を狙っているらしい。
「黒蝶の気配は無い」
「危険は無いってこと?夢楽土会は良い方なの?」
その質問に対はわからないと一言添えて頭を俯かせた。判断に迷っているようだった。
「蝶男の差し金ではない。ハザマでもない」
「ケイも把握していない第三勢力ってこと?」
「そうかもしれない」
なるほどねぇ、と間延びした呟きをして頭の中で関係図を作る。
輪廻と魂、地獄を管理する機関がハザマで、ハザマが危険視しているのが長野先生、じゃなくて蝶男。この2つが白鋏、白糸を欲しがっていて瑠璃の魂を狙っているのよね。そして、夢楽土会はどこにも属さない謎の集団。
瑠璃も大変だなぁ。
私にとっては他人事だった。私と瑠璃は心配したりされるような関係とは言えない。夢楽土会の会員に捕まった時も瑠璃は助けてくれなかった。
でも、カンダタさんは助けてくれたんだよね。
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