糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
上 下
256 / 574
3章 死神が誘う遊園地

夏と夢と信仰と補習 5

しおりを挟む
  「何考えてるのよ」
   清音は信じられない、と声を抑えてあたしを責める。
   「嫌なら帰ればいいじゃない」
   あたしたちはファミレスの出入り口付近で会計をしている勧誘女を待つ。
   「そんなことしたら、友人を見捨てた人みたいになる」
   「そこまでして世間体を気にしなくてもいいじゃない。友人でもないんだから」
 「キュゥ」
   ハクも会合とやらには行って欲しくないみたいで、あたしの袖を掴んでは鳴いてくる。
   心配しすぎなのよ。
   「待たせたわね!行きましょうか!」
   勧誘女は張り切ってあたしたちを軽自動車に乗せる。運転中、サプリの効果や夢楽土会の信念について熱く語り、あたしは適当に相槌をしながら聞き流していた。
   軽自動車が止まったのは古民家といってもいいような建物で、広い庭には蔵がある。勧誘女の話では会員の1人が所有していて、会合の時には貸しているそうだ。
   そこの大広間にあたしたちは連れて行かれた。その広間に20人ほどの会員が円になって座っている。
   あたしたちが入ってくると20人の会員が一斉にこちらを見つめてくる。一体化した人々の目線にあたしとハク、清音は圧されてしまう。
 途端に一体化した20人が立ち上がり、あたしたちを囲む。
   「あらぁ!田中さん!その子たちどうしたの?」
   「会員になりたい子たちなの!しかも2人!」
 「2人とも若いわね!」
   誰も入信なんて言ってないわよ。
   あたしは内心で毒を吐いて、愛想笑いを浮かべる。
   「それは嬉しいですね」
   複数の甲高い声が上がる中で物腰柔らかい静かな声があった。
   鶴の一声というものをあたしは見た。20人全員が座布団から立ち上がり、同じ笑みであたしと清音を囲み、同じ言葉をかけてくる。
   そんな中で1人だけ座布団の上で胡座をかく人物がいた。彼が鶴の一声を発した人物だった。
   20人の歓声がピタリと止まる。会員たちの顔には微笑が浮かぶ。これもまた同じ信仰の笑みだ。
   この人が桐 首ね。年齢は50~60代といったところで白髪頭と丸く穏やかに笑う顔が好印象を与える。
   「皆さん座って、彼女たちに座布団を用意してあげて下さい」
   それだけで会員たちは自分たちの位置に戻り、あたしたちには座布団が用意された。
   「2人とも初めてで不安でしょうが、リラックスしてくださいね」
   しんと静まった和室に桐先生とやらの声が響く。
   そこには静寂があった。けれど、あたしはそれを静寂とは呼びたくない。静寂と呼ぶには人が多すぎる。そして、この静寂を支配するものがいる。
   「今回も集まっていただき、ありがとうございます」
   静寂は桐が支配していた。口を開けば皆一様に沈黙して、彼の言葉だけに耳を傾ける。指示を出せば笑を浮かべてそれに答える。
   「それでは彼の話から聞きましょうか」
   「はい。これはバイトでの話なんですが」
   桐が右隣の青年に目を向ける。何かを指示されたわけでもないのに青年は自分が受けたタチの悪いクレームの話を語りだす。
   それが終わると青年の隣人が別の話をする。今度は隣人の近況の話をする。
   現状についていけずに戸惑うあたしたちに勧誘女は声を潜めて説明する。
   会合と言うのは人が集まって、自分の近況・相談事等を話す場であり、桐の高説を聞く場なのだという。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

処理中です...