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3章 死神が誘う遊園地
夏と夢と信仰と補習 3
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昌次郎は引き出しから入れケースを取り出し、PCを閉じる。
「仮眠してくる」
ピルケースから青と紫のカプセル剤を2、3錠出すと飲み込む。
「また、ですか」
「どういう意味だ?」
さえりにあるのは不信だった。
「仮眠する回数が増えてきています」
「仕事に支障は無い」
「しかし、8時間超えることも。カウンセリングを再開させたほうが良いのでは?」
「お前には理解できない境界線があるんだ。口を出すんじゃない」
さえりは俯き、それ以上は何も言わなかった。
「30分後に起きる。18時からの予定は空けているな?」
「はい」
「ならいい」
昌次郎が隣の部屋に移る。そこは仮眠室になっているらしい。いや、自室といったほうが正しいだろうか。立派な寝台と液晶テレビ、本棚にはDVDが並べてあり、箪笥まである。
棚の上には写真と可愛らしい熊の置物があった。
昌次郎は布団に潜るととすぐに寝息をたててしまった。
2人が話していたサプリは先程のカプセル剤のことを指しているのだろう。快眠効果があるとするならば、彼は深い眠りについているはず。物色するなら今のうちだろう。
「といっても、触れられないと意味がないんだよな」
自嘲気味に呟いて箪笥の引き出しに手を触れているも幽体の手ではすり抜けてしまう。
触れずに物色となると行動は限られる。見て回るしかない。
カンダタが気になっていたのは棚の上にある写真だ。そこに映り留まる女性がカンダタを引かせた。
長い金髪。笑みが浮かぶ顔。目はきらめいた深い青色。瑠璃に似た人物が写真の中にいた。写真の彼女は瑠璃と比べれば大人びており、笑顔がよく似合う。彼女が瑠璃の母親だとわかった。
この世の憂い全て取り除いてくれるような愛に満ちた笑みをしているが、作り笑いのようにも見える。
その隣には熊の置物。プラスチックな素材でイラストチックな容姿だ。旅行用の鞄を背に置き、肩腕を上げて笑いかけている。女性向けの装飾品だ。
どの会話にも瑠璃の母親は話題にならなかった。ならば、彼女はこの世にいないのだろう。そう考えれば、熊の装飾品は形見だろうか?
棚に並べられたDVDは長編アニメーションばかりだ。「白雪姫」「アナと雪の女王」「美女と野獣」どれもカンダタが知らない題名だ。
箪笥の中、社長室のデスクも頭をすり抜かせて物色するも大したものは見つからない。探せる所は全て探してしまった。昌次郎は静かに息を繰り返している。
カンダタには1つの疑問が浮かんでいた。地獄で瑠璃は出会った時、「愛してると言われて育った」「飽きたから捨てた」と語っていた。
それは飽きたからと捨てられるものではない。写真の母親は幸福に満ちているのに、父親は瑠璃の存在そのものを否定する。
失ったものが共通するなら悲しみを共有できるはずだ。親子ならば尚更のこと。
それができるのはとても幸運なのに。
「仮眠してくる」
ピルケースから青と紫のカプセル剤を2、3錠出すと飲み込む。
「また、ですか」
「どういう意味だ?」
さえりにあるのは不信だった。
「仮眠する回数が増えてきています」
「仕事に支障は無い」
「しかし、8時間超えることも。カウンセリングを再開させたほうが良いのでは?」
「お前には理解できない境界線があるんだ。口を出すんじゃない」
さえりは俯き、それ以上は何も言わなかった。
「30分後に起きる。18時からの予定は空けているな?」
「はい」
「ならいい」
昌次郎が隣の部屋に移る。そこは仮眠室になっているらしい。いや、自室といったほうが正しいだろうか。立派な寝台と液晶テレビ、本棚にはDVDが並べてあり、箪笥まである。
棚の上には写真と可愛らしい熊の置物があった。
昌次郎は布団に潜るととすぐに寝息をたててしまった。
2人が話していたサプリは先程のカプセル剤のことを指しているのだろう。快眠効果があるとするならば、彼は深い眠りについているはず。物色するなら今のうちだろう。
「といっても、触れられないと意味がないんだよな」
自嘲気味に呟いて箪笥の引き出しに手を触れているも幽体の手ではすり抜けてしまう。
触れずに物色となると行動は限られる。見て回るしかない。
カンダタが気になっていたのは棚の上にある写真だ。そこに映り留まる女性がカンダタを引かせた。
長い金髪。笑みが浮かぶ顔。目はきらめいた深い青色。瑠璃に似た人物が写真の中にいた。写真の彼女は瑠璃と比べれば大人びており、笑顔がよく似合う。彼女が瑠璃の母親だとわかった。
この世の憂い全て取り除いてくれるような愛に満ちた笑みをしているが、作り笑いのようにも見える。
その隣には熊の置物。プラスチックな素材でイラストチックな容姿だ。旅行用の鞄を背に置き、肩腕を上げて笑いかけている。女性向けの装飾品だ。
どの会話にも瑠璃の母親は話題にならなかった。ならば、彼女はこの世にいないのだろう。そう考えれば、熊の装飾品は形見だろうか?
棚に並べられたDVDは長編アニメーションばかりだ。「白雪姫」「アナと雪の女王」「美女と野獣」どれもカンダタが知らない題名だ。
箪笥の中、社長室のデスクも頭をすり抜かせて物色するも大したものは見つからない。探せる所は全て探してしまった。昌次郎は静かに息を繰り返している。
カンダタには1つの疑問が浮かんでいた。地獄で瑠璃は出会った時、「愛してると言われて育った」「飽きたから捨てた」と語っていた。
それは飽きたからと捨てられるものではない。写真の母親は幸福に満ちているのに、父親は瑠璃の存在そのものを否定する。
失ったものが共通するなら悲しみを共有できるはずだ。親子ならば尚更のこと。
それができるのはとても幸運なのに。
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