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3章 死神が誘う遊園地
夢楽土会 8
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サラリーマンのクレームは続く。
「おい、あれ」
「はい?」
短い注文に店員は素っ頓狂な顔で聞き返す。
「あれだよ。俺がいつも頼んでるやつだよ。なんだよ、俺は常連だぞ。覚えてないのか。毎日来てやってるのに」
あたしは店内を回りながらクレームが終わるのを待っていた。
「俺はな、お前の顔も名前も覚えてんだぞ?店員のお前は客が買うもんも覚えられねぇのか?え?杉谷さんよお!」
「すいませんすいません」
激昂したサラリーマンは周囲の迷惑や後ろで待ってい他の客も忘れて、自身の威厳だけを主張する。
店員も馬鹿ね。謝罪を繰り返せば怒りが収まると勘違いしている。
不快になるものは避けるのが処世術の一つだけれど、嫌でも見聞きされるものもある。
フローズンを諦めてしまおうかしら。
あたしは機嫌を悪くさせながらもサラリーマンが撒き散らす威厳を見届ける。
すると、店員とサラリーマンに絡まる赤い糸がぼんやりとあたしの目に映る。また出た。
光弥の見解では白糸の能力が覚醒したらしい。目を凝らせば、見えてくる幻覚は魂が糸という形で象徴化しているみたい。
赤い糸は現世で生きるあたしみたいな魂で、死霊は紫、塊人は青、カンダタの糸は何故か黒い。こういった感じで色分けされている。
糸からは曖昧で言い表し難い、触覚的なものが伝わってくる。例えば、未だに怒鳴っているサラリーマンの赤い糸からはピリピリとした静電気のようなものが伝わってきて、店員からは小刻みに振動する震えが伝わる。
だからといって目覚めた能力が役に立ったことはないけれど。
クレームから意識を逸らすと見えていた糸は消えた。あたしはお菓子コーナーを見ていると足に物がぶつかる。見下ろすと店員が落としたボールペンとピルケースがあった。
あたしはそれらを拾うと怪しげに見つめる。ペンは百均で売っている平凡なもの。引きつけたのは透明なピルケースで中に入っていたのは青と紫のカプセル剤。
カプセル剤も様々あるだろうけれど、独特な色合いは見かけない。なんというか、不健康になりそう。
「怠けんじゃねぇぞ!」
サラリーマンはひと通りのストレスを発散させるとコンビニから出ていく。平穏が戻っても漂う雰囲気は大きな爪痕を残していた。
再び、フローズンを手に取ってカウンターに置く。
「これ、あなたのでしょう?」
親切心というわけではなかったけれど、拾ったついでに届ける。
どういうわけか、店員は目を開くと急いでピルケースだけを握り締め、商品のバーコードを読み取る。
礼もないわけ?
文句を言いたくなった。しかも、一緒に届けたペンはカウンターに置かれたまま。そんなにあのカプセル剤が大事なのかしら。
店員はフードケースに向かうとキチンを紙に包んで持ってきた。途端、垂れ落ちていたハクの耳が上がる。
最近、チキンを買っていたから店員に覚えられてしまった。
「ちょっと、頼んでないもの出さないでよ」
これには文句を言う。フローズンを買っているんだから暖かいものを買うはずがないじゃない。
「すいません」
そう言うとキチンを戻そうとするので引き止める。
「戻さなくていいわよ。それも買うから」
苛立ちげに告げると店員は連続した「すいません」と言う。ビニール袋もいらないと言い放って、あたしはコンビニ出る。
「気の毒にな」
カンダタが同情して呟く。あたしを見ながら言うものだから責められているのだと察する。
「何よ、ミスしたのはあっちじゃない」
紙の包みを割いてハクにキチンを渡す。ハクは体脂肪のことも忘れてご満悦だった。
「おい、あれ」
「はい?」
短い注文に店員は素っ頓狂な顔で聞き返す。
「あれだよ。俺がいつも頼んでるやつだよ。なんだよ、俺は常連だぞ。覚えてないのか。毎日来てやってるのに」
あたしは店内を回りながらクレームが終わるのを待っていた。
「俺はな、お前の顔も名前も覚えてんだぞ?店員のお前は客が買うもんも覚えられねぇのか?え?杉谷さんよお!」
「すいませんすいません」
激昂したサラリーマンは周囲の迷惑や後ろで待ってい他の客も忘れて、自身の威厳だけを主張する。
店員も馬鹿ね。謝罪を繰り返せば怒りが収まると勘違いしている。
不快になるものは避けるのが処世術の一つだけれど、嫌でも見聞きされるものもある。
フローズンを諦めてしまおうかしら。
あたしは機嫌を悪くさせながらもサラリーマンが撒き散らす威厳を見届ける。
すると、店員とサラリーマンに絡まる赤い糸がぼんやりとあたしの目に映る。また出た。
光弥の見解では白糸の能力が覚醒したらしい。目を凝らせば、見えてくる幻覚は魂が糸という形で象徴化しているみたい。
赤い糸は現世で生きるあたしみたいな魂で、死霊は紫、塊人は青、カンダタの糸は何故か黒い。こういった感じで色分けされている。
糸からは曖昧で言い表し難い、触覚的なものが伝わってくる。例えば、未だに怒鳴っているサラリーマンの赤い糸からはピリピリとした静電気のようなものが伝わってきて、店員からは小刻みに振動する震えが伝わる。
だからといって目覚めた能力が役に立ったことはないけれど。
クレームから意識を逸らすと見えていた糸は消えた。あたしはお菓子コーナーを見ていると足に物がぶつかる。見下ろすと店員が落としたボールペンとピルケースがあった。
あたしはそれらを拾うと怪しげに見つめる。ペンは百均で売っている平凡なもの。引きつけたのは透明なピルケースで中に入っていたのは青と紫のカプセル剤。
カプセル剤も様々あるだろうけれど、独特な色合いは見かけない。なんというか、不健康になりそう。
「怠けんじゃねぇぞ!」
サラリーマンはひと通りのストレスを発散させるとコンビニから出ていく。平穏が戻っても漂う雰囲気は大きな爪痕を残していた。
再び、フローズンを手に取ってカウンターに置く。
「これ、あなたのでしょう?」
親切心というわけではなかったけれど、拾ったついでに届ける。
どういうわけか、店員は目を開くと急いでピルケースだけを握り締め、商品のバーコードを読み取る。
礼もないわけ?
文句を言いたくなった。しかも、一緒に届けたペンはカウンターに置かれたまま。そんなにあのカプセル剤が大事なのかしら。
店員はフードケースに向かうとキチンを紙に包んで持ってきた。途端、垂れ落ちていたハクの耳が上がる。
最近、チキンを買っていたから店員に覚えられてしまった。
「ちょっと、頼んでないもの出さないでよ」
これには文句を言う。フローズンを買っているんだから暖かいものを買うはずがないじゃない。
「すいません」
そう言うとキチンを戻そうとするので引き止める。
「戻さなくていいわよ。それも買うから」
苛立ちげに告げると店員は連続した「すいません」と言う。ビニール袋もいらないと言い放って、あたしはコンビニ出る。
「気の毒にな」
カンダタが同情して呟く。あたしを見ながら言うものだから責められているのだと察する。
「何よ、ミスしたのはあっちじゃない」
紙の包みを割いてハクにキチンを渡す。ハクは体脂肪のことも忘れてご満悦だった。
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