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3章 死神が誘う遊園地
夢楽土会 4
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演劇部が対象となった虐殺はメディアが大々的に取り上げた。マスコミが学校の前に集っている中で体育祭をしたり、学校閉鎖を望む世間のの抗議を聞きながら期末テストに備えた授業を受けたりとあたしたちの高校生活は散々なものになった。
時間が流れて、記憶が遠ざかっていくとメディアも世間も事件は解決したものだと思い込んでしまう。
それは真実じゃない。あの虐殺事件を引き起こした人物は脅威としてこの現代に闊歩している。
その脅威、蝶男は学校のカウンセラーとして就いていたけれど、突然に姿を消した。
担任の坂本に聞いてみると理由もなく辞めてしまったらしい。あまりにも唐突なことだったと坂本も困惑している様子だった。
蝶男がここから離れたのは、ここにはもう用はないってことなのかしら?
体育祭もテスト期間も鬼に襲われるような出来事はなかった。だとしたら、学校での生活は安心していいの?
「だとしても明日から夏休みなのよね」
あたしはぽつりと呟いて学校に続く一本道を歩く。隣を歩くハクは首を傾げてあたしを見つめる。
「何の話だ?」
「独り言よ」
学校に近づくに連れて生徒の数も増えていく。そんな中で清音が歩道の片隅で困惑した表情で立ち竦んでいた。
清音の向かいには化粧の濃い50代半ばの女性が大きな声で喋り続けている。
「あなたも大変でしょう?学校が不祥事だらけで。私ね、心配になって友人に調べてもらったのよ。あ、友人っていうのはね、守護霊と会話できたり、スピリチュアルな人、って言えばいいのかしらね。信頼できる友人が、あなたの学校ひどく穢れてるって!」
あたしと清音は離れているというのに化粧の濃い女性は大声で長々と喋りで清音を留めていた。
「でも学生さんが学校休むわけにはいかないでしょう?可哀想にね!あなたは悪くないのに!学校にいる時間が長くなるとね、心が穢れて不幸事が多くなるのよ!私たちはね、可哀想な生徒を救いたいって考えてるの!本気よ?大丈夫、私たちだけがあなたの味方なんだから!」
どうやら宗教勧誘をされているらしい。
無視して通りすぎればいいのに、中途半端な優しさを持つからあんなのに捕まるのよ。
「お名前は?ケータイ持ってるわよね?あ、今はスマホで言うのかしら?」
「いえ、そういうのは親が許さないでしょうし」
「両親は信じちゃ駄目よ!あういうのはね、将来介護して欲しくて子供産んでいるようなものなんだから!」
やんわり断っろうとしても勧誘女は勢い任せの無責任な発言で清音を圧巻させる。
清音は救いを求めて通行人たちに目線を送る。彼女が送るSOSを通行人たちは受け取ってはいたけれど、誰もが知らないフリで通り過ぎる。
あたしとも目が合う。顔見知りの知人に期待が浮かぶ。
彼女は忘れているようね。あたしたちは嫌い合っている関係だと言うことを。
他の通行人に倣って清音の横を通り過ぎる。
清音の期待は砕かれて、頭を項垂れる。そのまま、勧誘女の話を聞き続けていた。
「瑠璃は先に行ってくれ」
彼女の哀れな現状を見兼ねたのはカンダタだった。
「何もできないくせに」
あたしの嫌味にカンダタは顔を歪めた。反論したくなる気持ちを堪えて清音のもとに寄る。
時間が流れて、記憶が遠ざかっていくとメディアも世間も事件は解決したものだと思い込んでしまう。
それは真実じゃない。あの虐殺事件を引き起こした人物は脅威としてこの現代に闊歩している。
その脅威、蝶男は学校のカウンセラーとして就いていたけれど、突然に姿を消した。
担任の坂本に聞いてみると理由もなく辞めてしまったらしい。あまりにも唐突なことだったと坂本も困惑している様子だった。
蝶男がここから離れたのは、ここにはもう用はないってことなのかしら?
体育祭もテスト期間も鬼に襲われるような出来事はなかった。だとしたら、学校での生活は安心していいの?
「だとしても明日から夏休みなのよね」
あたしはぽつりと呟いて学校に続く一本道を歩く。隣を歩くハクは首を傾げてあたしを見つめる。
「何の話だ?」
「独り言よ」
学校に近づくに連れて生徒の数も増えていく。そんな中で清音が歩道の片隅で困惑した表情で立ち竦んでいた。
清音の向かいには化粧の濃い50代半ばの女性が大きな声で喋り続けている。
「あなたも大変でしょう?学校が不祥事だらけで。私ね、心配になって友人に調べてもらったのよ。あ、友人っていうのはね、守護霊と会話できたり、スピリチュアルな人、って言えばいいのかしらね。信頼できる友人が、あなたの学校ひどく穢れてるって!」
あたしと清音は離れているというのに化粧の濃い女性は大声で長々と喋りで清音を留めていた。
「でも学生さんが学校休むわけにはいかないでしょう?可哀想にね!あなたは悪くないのに!学校にいる時間が長くなるとね、心が穢れて不幸事が多くなるのよ!私たちはね、可哀想な生徒を救いたいって考えてるの!本気よ?大丈夫、私たちだけがあなたの味方なんだから!」
どうやら宗教勧誘をされているらしい。
無視して通りすぎればいいのに、中途半端な優しさを持つからあんなのに捕まるのよ。
「お名前は?ケータイ持ってるわよね?あ、今はスマホで言うのかしら?」
「いえ、そういうのは親が許さないでしょうし」
「両親は信じちゃ駄目よ!あういうのはね、将来介護して欲しくて子供産んでいるようなものなんだから!」
やんわり断っろうとしても勧誘女は勢い任せの無責任な発言で清音を圧巻させる。
清音は救いを求めて通行人たちに目線を送る。彼女が送るSOSを通行人たちは受け取ってはいたけれど、誰もが知らないフリで通り過ぎる。
あたしとも目が合う。顔見知りの知人に期待が浮かぶ。
彼女は忘れているようね。あたしたちは嫌い合っている関係だと言うことを。
他の通行人に倣って清音の横を通り過ぎる。
清音の期待は砕かれて、頭を項垂れる。そのまま、勧誘女の話を聞き続けていた。
「瑠璃は先に行ってくれ」
彼女の哀れな現状を見兼ねたのはカンダタだった。
「何もできないくせに」
あたしの嫌味にカンダタは顔を歪めた。反論したくなる気持ちを堪えて清音のもとに寄る。
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