231 / 618
3章 死神が誘う遊園地
瑠璃、幼少期 14
しおりを挟む
高速を降りてからも緊迫したドライブは続くようだった。
母は安物の衣服を取り扱う店の前で停まると急ぎ足で店内に入り、彰は近くのコンビニに向かった。あたしは言いつけ通り、身体を小さくして車内で帰りを待つ。
今日のうちに車から出ることはほとんどなかった。あたしが外に出れたのはトラックさえ停めまっていない人気のないパーキングエリアでトイレに立ち寄ったくらい。
遠出のドライブと言うより車に閉じ込められたみたいだった。その上、車窓から顔を出さず、他人に見られないようにと指示を受けていた。その結果、シートの下で小さく身体を丸めて何もない時間を耐えていた。
母は20分ほどで戻ってきた。格好が変わっていた。
おそらく、店内のトイレで着替えたのだろう。自慢のスタイルを隠したサイズ大きめの服装、金髪、目を隠す地味な帽子。お洒落好きな母とは思えない。
手には大きなビニール袋がある。
「これに着替えて」
説明もなしに簡潔に言われた指示に頭を項垂れる。
ビニールから出したのは男の子が好むような服ばかりだ。あたしパンツよりはスカートを着たい。レースやリボンがいいのに母は真逆のものを渡してくる。
「着ないと駄目?」
母はいつもあたしが着たいと思ったもの買ってくれて、いつもあたしを可愛くコーデしてくれた。ビニール袋から取り出された安物の衣服に龍のプリントとジーンズのパンツ、地味な色の帽子。着たいとは思えなかった。
「言うことを聞いて。悪い子にならないでよ」
息が詰まりそうなドライブに母も疲れているようだった。あたしの小さな拒否でさえ困惑し、眉間に皺を作る。
「悪い子」初めて言われたそれが心に突き刺さった。母を困らせた悪い子。刺された痛みは罪悪感となった。
「ごめんなさい」
この謝罪に不服はなかった。母が「悪い子」とを呼んだのならきっとそうなのだろう。悲しいのは母を落胆させてしまったことだ。
だから、「愛してる」くれなくなったのだ。私が悪い子だから。
何がいけなかったのか考えてみても答えは出なかった。家事は毎日していた。掃除も洗濯も行ったことはなかった。
学校も行かなくていいって言ったのは母だ。なら、母は何であたしを悪い子と判断したのか。
その質問に答えを求めるのはやめた。考えなたくなかった。そんなことよりも名誉挽回に尽力を注ごうと子供なりの結果論があたしを動かした。
好きでもない服を着て、地味な帽子で人目を引く金髪と青目を隠す。男の子用の靴は少しだけ大きい。
少し経って彰が戻ってきた。コンビニで買ってきたのは3人分の食料でその量からして当分は車での生活が続くのだろうと悟った。
無骨に手渡されたおにぎりを口に運ぶ。母も無言でおにぎりを食べ、彰はおにぎりを片手に持ちながら車を発進させる。
あたしの食生活では会話をするのが当たり前だった。母との食事が1日の楽しみだった。
陰湿な車内時間の経ったお米が虚しく、陰湿となった心ではツナや塩の味でさえわからなくなる。
運転中は常にラジオからのニュースが流れている。母と彰は集中してニュースを聞き入れる。それもそのはずで、ケータイといったメディアを取り入れる道具を2人は置いてきていた。
世間が関心を向けている問題を知る術はラジオしかなかった。しかし、2人が聞き入っていたのはそうした理由ではない気がする。世間が向ける様々な問題よりもただ1つのニュースばかりを2人は知りたがっていた。
CEOの妻子誘拐、身代金狙い、なくなった会社の大金、電子系大学院生の行方。
増えた単語に冷や汗を浮かべては手に持ったおにぎりでさえ、食べるのを忘れている様子だった。
母は安物の衣服を取り扱う店の前で停まると急ぎ足で店内に入り、彰は近くのコンビニに向かった。あたしは言いつけ通り、身体を小さくして車内で帰りを待つ。
今日のうちに車から出ることはほとんどなかった。あたしが外に出れたのはトラックさえ停めまっていない人気のないパーキングエリアでトイレに立ち寄ったくらい。
遠出のドライブと言うより車に閉じ込められたみたいだった。その上、車窓から顔を出さず、他人に見られないようにと指示を受けていた。その結果、シートの下で小さく身体を丸めて何もない時間を耐えていた。
母は20分ほどで戻ってきた。格好が変わっていた。
おそらく、店内のトイレで着替えたのだろう。自慢のスタイルを隠したサイズ大きめの服装、金髪、目を隠す地味な帽子。お洒落好きな母とは思えない。
手には大きなビニール袋がある。
「これに着替えて」
説明もなしに簡潔に言われた指示に頭を項垂れる。
ビニールから出したのは男の子が好むような服ばかりだ。あたしパンツよりはスカートを着たい。レースやリボンがいいのに母は真逆のものを渡してくる。
「着ないと駄目?」
母はいつもあたしが着たいと思ったもの買ってくれて、いつもあたしを可愛くコーデしてくれた。ビニール袋から取り出された安物の衣服に龍のプリントとジーンズのパンツ、地味な色の帽子。着たいとは思えなかった。
「言うことを聞いて。悪い子にならないでよ」
息が詰まりそうなドライブに母も疲れているようだった。あたしの小さな拒否でさえ困惑し、眉間に皺を作る。
「悪い子」初めて言われたそれが心に突き刺さった。母を困らせた悪い子。刺された痛みは罪悪感となった。
「ごめんなさい」
この謝罪に不服はなかった。母が「悪い子」とを呼んだのならきっとそうなのだろう。悲しいのは母を落胆させてしまったことだ。
だから、「愛してる」くれなくなったのだ。私が悪い子だから。
何がいけなかったのか考えてみても答えは出なかった。家事は毎日していた。掃除も洗濯も行ったことはなかった。
学校も行かなくていいって言ったのは母だ。なら、母は何であたしを悪い子と判断したのか。
その質問に答えを求めるのはやめた。考えなたくなかった。そんなことよりも名誉挽回に尽力を注ごうと子供なりの結果論があたしを動かした。
好きでもない服を着て、地味な帽子で人目を引く金髪と青目を隠す。男の子用の靴は少しだけ大きい。
少し経って彰が戻ってきた。コンビニで買ってきたのは3人分の食料でその量からして当分は車での生活が続くのだろうと悟った。
無骨に手渡されたおにぎりを口に運ぶ。母も無言でおにぎりを食べ、彰はおにぎりを片手に持ちながら車を発進させる。
あたしの食生活では会話をするのが当たり前だった。母との食事が1日の楽しみだった。
陰湿な車内時間の経ったお米が虚しく、陰湿となった心ではツナや塩の味でさえわからなくなる。
運転中は常にラジオからのニュースが流れている。母と彰は集中してニュースを聞き入れる。それもそのはずで、ケータイといったメディアを取り入れる道具を2人は置いてきていた。
世間が関心を向けている問題を知る術はラジオしかなかった。しかし、2人が聞き入っていたのはそうした理由ではない気がする。世間が向ける様々な問題よりもただ1つのニュースばかりを2人は知りたがっていた。
CEOの妻子誘拐、身代金狙い、なくなった会社の大金、電子系大学院生の行方。
増えた単語に冷や汗を浮かべては手に持ったおにぎりでさえ、食べるのを忘れている様子だった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
とあるおっさんのVRMMO活動記
椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。
念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。
戦闘は生々しい表現も含みます。
のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。
また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり
一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が
お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。
また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や
無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が
テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという
事もございません。
また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。
律と欲望の夜
冷泉 伽夜
大衆娯楽
アフターなし。枕なし。顔出しなしのナンバーワンホスト、律。
有名だが謎の多いホストの正体は、デリヘル会社の社長だった。
それは女性を喜ばせる天使か、女性をこき使う悪魔か――。
確かなことは
二足のわらじで、どんな人間も受け入れている、ということだ。
ハーフ&ハーフ
黒蝶
恋愛
ある雨の日、野崎七海が助けたのは中津木葉という男。
そんな木葉から告げられたのは、哀しい事実。
「僕には関わらない方がいいよ。...半分とはいえ、人間じゃないから」
...それから2ヶ月、ふたりは恋人として生きていく選択をしていた。
これは、極々普通?な少女と人間とヴァンパイアのハーフである少年の物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる