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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者
梅雨明け 1
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あの結末で、最も意外で最も藤井 涼らしかったのは1年生の演劇部員4人が生存していたことだった。
4人はステージの幕裏で多くの死体と共に眠っていた。もうすぐ目が覚めることでしょうね。
彼が遂げたかったのはいじめによる悪循環の根絶だとあたしは解釈している。
叩けば歪むのが人の心だと言うのなら歪んだ心は別の心を歪ませる。彼が生かした4人の1年生はその循環の外にいた。藤井 涼はすみれよりも人らしい化け物だったと思う。
でも、心が歪んで生まれるのがいじめなら、それの根絶を叶えるには人類の滅亡分しかないとあたしは考えている。
「学校に戻るのなら帰らなくてもよかっただろう」
朝7時の廊下をあたしは私服姿で歩き、カンダタは不満を漏らす。ハクも同意のようで面倒くさそうに欠伸をした。
「あなたたちはいいわよね。実態を持たないから服が汚れることもないし、シャワーにも入らなくていい」
制服は2着持っていたけれど、1着目は泥だらけでクリーニングに出してしまい、2着目は擦れてよれて穴が空いた。これも白糸で直せそうだけれど惜しくもその時間がない。
不服にもあたしは私服で学校に来てしまった。ジャージを着るよりは私服のほうがマシだもの。
「そもそも、本当にいるのか?根拠は?」
カンダタの不満は相当なもののようで珍しくも苛立った声色をしている。それに対してあたしは一言。
「勘よ」
ただの直感で自信満々に言うものだからカンダタは呆れて何も言えなくなる。
あたしたちが来たのはカウンセリングの教室で、ノックなしでドアを開ける。
ほら、やっぱりね。あたしの勘は当たるのよ。
口には出さなかったけれど勝ち誇った笑みが現れる。
「待っていたよ。紅茶を淹れよう。2人分でいいのかな?それとも1人?」
湯を沸かした蝶男がティーカップを取り出して話しかける。彼の腕でケイに斬られたままその右腕を失っていた。
後ろにいるカンダタに憎悪が満ちていくのを肌で感じるも表情は崩さなかった。
「遠慮しておくわ。また血反吐を出したくないもの。それよりもお話をしましょう。教えて欲しいことがたくさんあるの」
「それなら紅茶が必要になる。長くなりそうだからね」
蝶男は2つのティーカップを机に置いて座るとあたしも正面に座る。カンダタ、ハクはあたしの後ろに立ち、蝶男を睨む。
「さて、何から教えて欲しいのかな」
「あたしに飲ませたものは何?」
自分に出された紅茶を指差して言う。
これを飲んですぐに吐いたのに対処法の効果はなく、血を吐いて倒れた。睡眠薬といった類の従来の薬じゃない。
蝶男はポケットから小瓶を出すと机に置く。それは黒いウジ虫が蠢く、見ているだけで食欲が削られる気色悪い小瓶だった。
「黒蝶の幼虫だ。もうこれしか残っていない。これが入った紅茶を4人に飲ませたんだ。藤井 涼、桜尾 すみれ、岡本 清音、そして君だ」
毒虫入り紅茶を飲んだ。その事実があたしの胃を絞め付けた。
「黒蝶について光弥からどこまで聞いた?」
「あんたが化け物だってこと」
いちいち説明するのが面倒なので簡潔に15文字以内で収めた。蝶男は乾いた笑い声をあげて説明する。
「黒蝶の親、つまり僕の事なんだが。存在し続けるには燃料が必要でね。焚き火も薪がないと消えてしまうからね。僕には薪を作る生産場が欲しかったんだ。昔は2つあったんだが、どちらも今は使えなくなってね」
そう言いながらカンダタを見る。カンダタが壊れた生産場ってわけね。きっとあたしが黒い糸を切ったから思うように動かなくなった。だからといって カンダタから黒蝶がいなくはなったわけじゃない。
4人はステージの幕裏で多くの死体と共に眠っていた。もうすぐ目が覚めることでしょうね。
彼が遂げたかったのはいじめによる悪循環の根絶だとあたしは解釈している。
叩けば歪むのが人の心だと言うのなら歪んだ心は別の心を歪ませる。彼が生かした4人の1年生はその循環の外にいた。藤井 涼はすみれよりも人らしい化け物だったと思う。
でも、心が歪んで生まれるのがいじめなら、それの根絶を叶えるには人類の滅亡分しかないとあたしは考えている。
「学校に戻るのなら帰らなくてもよかっただろう」
朝7時の廊下をあたしは私服姿で歩き、カンダタは不満を漏らす。ハクも同意のようで面倒くさそうに欠伸をした。
「あなたたちはいいわよね。実態を持たないから服が汚れることもないし、シャワーにも入らなくていい」
制服は2着持っていたけれど、1着目は泥だらけでクリーニングに出してしまい、2着目は擦れてよれて穴が空いた。これも白糸で直せそうだけれど惜しくもその時間がない。
不服にもあたしは私服で学校に来てしまった。ジャージを着るよりは私服のほうがマシだもの。
「そもそも、本当にいるのか?根拠は?」
カンダタの不満は相当なもののようで珍しくも苛立った声色をしている。それに対してあたしは一言。
「勘よ」
ただの直感で自信満々に言うものだからカンダタは呆れて何も言えなくなる。
あたしたちが来たのはカウンセリングの教室で、ノックなしでドアを開ける。
ほら、やっぱりね。あたしの勘は当たるのよ。
口には出さなかったけれど勝ち誇った笑みが現れる。
「待っていたよ。紅茶を淹れよう。2人分でいいのかな?それとも1人?」
湯を沸かした蝶男がティーカップを取り出して話しかける。彼の腕でケイに斬られたままその右腕を失っていた。
後ろにいるカンダタに憎悪が満ちていくのを肌で感じるも表情は崩さなかった。
「遠慮しておくわ。また血反吐を出したくないもの。それよりもお話をしましょう。教えて欲しいことがたくさんあるの」
「それなら紅茶が必要になる。長くなりそうだからね」
蝶男は2つのティーカップを机に置いて座るとあたしも正面に座る。カンダタ、ハクはあたしの後ろに立ち、蝶男を睨む。
「さて、何から教えて欲しいのかな」
「あたしに飲ませたものは何?」
自分に出された紅茶を指差して言う。
これを飲んですぐに吐いたのに対処法の効果はなく、血を吐いて倒れた。睡眠薬といった類の従来の薬じゃない。
蝶男はポケットから小瓶を出すと机に置く。それは黒いウジ虫が蠢く、見ているだけで食欲が削られる気色悪い小瓶だった。
「黒蝶の幼虫だ。もうこれしか残っていない。これが入った紅茶を4人に飲ませたんだ。藤井 涼、桜尾 すみれ、岡本 清音、そして君だ」
毒虫入り紅茶を飲んだ。その事実があたしの胃を絞め付けた。
「黒蝶について光弥からどこまで聞いた?」
「あんたが化け物だってこと」
いちいち説明するのが面倒なので簡潔に15文字以内で収めた。蝶男は乾いた笑い声をあげて説明する。
「黒蝶の親、つまり僕の事なんだが。存在し続けるには燃料が必要でね。焚き火も薪がないと消えてしまうからね。僕には薪を作る生産場が欲しかったんだ。昔は2つあったんだが、どちらも今は使えなくなってね」
そう言いながらカンダタを見る。カンダタが壊れた生産場ってわけね。きっとあたしが黒い糸を切ったから思うように動かなくなった。だからといって カンダタから黒蝶がいなくはなったわけじゃない。
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